手塚治虫の医師免許証
手塚治虫の医師免許証の日付についてはずっと気になっていましたが、先日放送されたNHKBS「週刊手塚治虫」で見ることができました。6月21日まで江戸東京博物館で開催されていた「手塚治虫展」に展示されていたものです。
医師免許証
兵庫県
手塚 治
昭和三年十一月三日生昭和二十七年施行第十二回医師国家
試験に合格したことを認証し
医師法(昭和二十三年法律第二百一号)に
より医師の免許をあたえる
よってこの証を交付する昭和二十八年九月十八日
厚生大臣 山縣勝見
本免許は第一五〇四七六号をもって医籍に登録した
厚生省医務局長 曽田長宗
手塚治虫は大阪の名門、北野中学を卒業しています。北野中学は本来五年制でしたが、戦争激化のため、手塚の学年は四年で卒業となってしまいました。これが昭和20年春のこと。
手塚は大阪府立浪速高校を受験しますが不合格。大阪帝国大学附属医学専門部を受験して合格します。このときの手塚治虫はまだ16歳です。
阪大の医学専門部は、不足していた軍医を促成するためにつくられたところで、阪大医学部とは格がちょっと違います。帝大医学部は旧制高校卒じゃないと受験資格がありませんが、医学専門部なら旧制中学卒でも入学することが可能でした。
ちなみに当時の日本には医師国家試験、あるいはそれに準ずるものはありません。医学部や医学専門学校を卒業しさえすれば、医師になることができた時代です(もっと昔には、野口英世が合格したので知られる医術開業試験などが存在したこともあります)。
敗戦後GHQによって医師教育制度がつぎつぎと変革されます。卒後研修として一年間のインターンが義務づけられ、全国的な医師国家試験も始まりました。また手塚が入学したとき医学専門部の教育期間は四年でしたが、これは五年に延長されます。
手塚治虫は五年の教育期間を終え、昭和25年春に卒業するはずでした。しかし手塚先生、一年留年して昭和26年に卒業しています。入学したときは医学専門部七期生でしたが、卒業のときは八期生。
ちゃんと勉強もしてたはずです。「手塚治虫展」には医学生時代の手塚のノートも展示されており、これも「週刊手塚治虫」で見ることができましたが、これがまたすごくていねいでうまい絵と文字。手塚は医学を美術のように学んでいたみたい。
しかし、医学生時代の手塚はすでに人気マンガ家になっていました。そりゃあ忙しかったと思いますよ。
大阪の出版社から多くの赤本マンガを刊行し、全国の少年少女から尊敬される存在になっていたのは、いろんなマンガ家の回想で知られるところです。
東京の学童社「漫画少年」で『ジャングル大帝』を連載開始したのが在学中の昭和25年11月号。光文社「少年」では、昭和26年4月号から『鉄腕アトム』の前身『アトム大使』も連載開始となります。このとき手塚治虫、まだ22歳。若いっ。
日本マンガの革命は、この若き手塚の手でなされたのです。
アトムの連載が始まったころ、手塚治虫は医学専門部を卒業しました。このあと彼は無給のインターンとなりますが、あいかわらず人気マンガ家との二足のわらじ生活は続きます。
その一年後、昭和27年春。手塚は宝塚に住み、インターン生活が終わろうとしていました。
藤子不二雄のふたりが宝塚を訪れたのが、そのころです。A先生の『まんが道』では高校三年生の夏休みに宝塚訪問、という設定になってますが、実際の訪問はこの時期だったようです。
『まんが道』に登場する、あの光り輝く手塚治虫は、まだ23歳のインターンであったのですね。
一年間のインターンを終えた手塚治虫は、これで医師国家試験の受験資格を獲得し、昭和27年7月16日、第12回医師国家試験に合格します。
この7月16日は国家試験があった日とされることもあるのですが、このころは年二回、5月と11月に医師国家試験があったらしく、7月16日というのは合格発表の日じゃないかな、というのがわたしの推測です。
竹内オサム『手塚治虫 アーチストになるな』(2008年ミネルヴァ書房)などには、手塚が前年の医師国家試験に落ちたという記述がみられますが、これはマチガイ。この当時は医学校を卒業しても、一年間のインターンを終了するまでは医師国家試験の受験資格がなかったのですから。
手塚治虫は昭和27年のうちに、おそらくは医師国家試験に合格してすぐ、東京に居を移し本格的な東京進出を果たします。医学生、そしてインターンという身分は、手塚にとってセールスポイントになっていましたが、実際の生活上ではマンガ執筆を阻害するものだったでしょう。手塚は晴れてマンガに専心することができるようになりました。
で、冒頭の医師免許証になるのですが、昭和27年7月の試験に合格してるのに、この免許証が交付された日付が昭和28年9月である点。一年以上もたってるのですね。
このころの医師国家試験の合格発表と医師免許証交付のずれはそうとうなものだったらしく、こういうこともよくあったそうです。
Comments
マンガのために医師免許を取ったような
気がしてきた
Posted by: nanasi | October 17, 2012 06:53 PM