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June 14, 2009

心不全 cardiac failure とは何か

 唐沢俊一氏が心不全で入院されたそうです。まだまだお若いのですから無頼などを気どらずに、十分にご療養ください。一日も早い回復をお祈りします。

 しかし「心不全」というのはよく聞くけど、もひとつよくわかんない言葉ですよねえ。これはいったい何であるのかについてちょっと調べてみました。

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 心臓には四つの部屋がありますが、もっとも大きな仕事をしているのは左心室です。左心室は人間が生きているかぎり収縮拡張をくり返していますが、主要な役目は、肺にある血液を全身に送り出すことです。

 では、左心室の具合が悪くなるとどうなるでしょうか。たとえば左心室が急に動かなくなると、肺にある血液を全身に送り出せなくなります。つまり、肺に血液がたまってしまいます。

 血液というのは水分ですから、これは肺に水がたまっているのと同じこと。肺は水びたしです。すなわち、陸上にいるのにおぼれている状態になります。

 おぼれているのですから、一所懸命呼吸をしても血液の中に酸素がはいってきません。血中の酸素が足らなくなると、息苦しくなります。

 こういう状態を「うっ血性心不全」といいます。この場合の「うっ血」とは「肺うっ血」のことで、肺に「血」=「水」がたまっていることを意味します。

 ふつう「心不全」といいますと、このように「心臓の病気が原因で肺に血=水がたまった状態」のことをさします。

 日本で「心不全」という言葉の使い方が混乱したのは、原因不明の突然死のとき、死亡診断書の死亡原因に「急性心不全」と書くことが長らく習慣とされてきたからです。

 ですから、過去の有名人の死因に「急性心不全」とあったとしても、これはたんに急死したことを示しているだけで、真に心不全であったかどうかはわからないのです。困ったことですねえ。

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 さて、人体で血液は以下のように流れます。

●肺→左心房→(僧帽弁)→左心室→(大動脈弁)→全身

 このコースのどこかに障害がおこると、肺に血液がたまってしまい、心不全となります。

 心不全の原因はいろいろあります。

(1)左心室の収縮が悪くなったとき

 これがもっともありふれた原因です。

 たとえば心臓の一部が死んでしまう心筋梗塞という病気があります。心筋梗塞にも範囲が大きい小さいがあるのですが、大きな心筋梗塞がおこりますと、左心室の大部分が動かなくなってしまいます。そのため肺の血液を全身に送ることができなくなり、肺に血がたまります。

 心筋梗塞以外にも、左心室の動きが悪くなる病気はたくさんあります。急におこることもあれば、ゆっくりおこることもあります。

 たとえば「高血圧性心疾患」という病気があります。

 心臓は「血圧」という圧力に対抗して血液を送り出さなければいけません。心臓にとっては血圧が低ければ低いほど楽なのです。「高血圧」が長年続きますと、心臓がそれまで一所懸命がんばって動いてきた結果、ある日突然バテてしまい、左心室の動きが急に悪くなることがあります。

 これでも肺に血がたまってしまいます。

(2)心臓の弁が悪くなったとき

 左心室には、血液がはいってくる僧帽弁と、血液が出て行く大動脈弁というふたつの弁があります。この弁の具合が悪くなると、左心室の動きが良くても、肺にうっ血がおこります。いわゆる「心臓弁膜症」です。

 たとえば僧帽弁閉鎖不全症という病気があります。僧帽弁という心臓の弁がきちんと閉じなくなると、左心室が一所懸命収縮しても、血液は全身のほうに流れずに、左心房のほうに逆流してしまいます。この状態でも肺に血液がたまってしまいます。

(3)左心室の拡張が悪くなったとき

 もうひとつ、左心室はよく動いていて、弁の異常もないのに心不全をおこすことがあります。

 人間、歳をとりますと、心臓が硬くなってきます。左心室が収縮するチカラは充分あるのに、広がるときに時間と圧力がよけいにかかるようになってしまいます。

 こうなると、左心房から左心室にはいってくる血液の流れが悪くなりますから、肺に血液がたまりやすくなります。

 左心室の拡張障害は心臓病でもおこりますが、年齢を重ねるとみんなある程度はこの状態になってしまいます。

 年寄りが子どもよりも心不全をおこしやすいのは、加齢に伴い心臓が硬くなって左心室の拡張が悪くなっているからです。

(4)これ以外にも、極端に脈が遅くなる不整脈や、逆に脈が速くなる不整脈のときも、心不全をおこすことがあります。

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 心不全の治療は、利尿剤が主になります。肺にたまった水を、尿として体の外に出すわけです。

 とくに1962年に開発されたフロセミドという利尿剤は、心不全治療を劇的に変化させました。この薬の発売とともに心不全死が明らかに減少したと言われています。この薬はベストセラーとして今も現役で使用されています。

 ただし、利尿剤は肺にたまった水を体の外に出すだけで、心臓そのものを治すわけではありません。

 「心不全が治った」と言う場合、「肺うっ血が消失した」ということですので、心臓そのものが良くなったわけではありません。ですから一般的に心不全は、再発しやすい病気なのです。

 たとえば心臓の弁が悪い場合は手術が必要になることもありますし、心臓の動きが悪い場合は心不全が再発するのを予防するため、ずっと薬を飲み続けることが多いようです。

 もちろん食事や生活習慣を変えることも必要ですね。

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Comments

自分もK氏を応援してますけど心臓や腎臓を患ってるのに焼酎などのアルコール類を差し入れるファンのかたがたには困ったものです。死んでしまいます。

Posted by: 森伊蔵 | July 10, 2009 04:51 AM

心不全という病名が本当であれば、その方の寿命は10年ないでしょう。

心臓弁膜症、狭心症、心筋梗塞、特発性心筋症、不整脈(軽いものから重いものまで)、心外膜炎、心内膜炎など心臓の病気はさまざまですが、病名を聞いて寿命が推定できるものはあまりありません。

会社でいえば会社更生法を申請したようなものだと思います。飛行機でいえば、エンジンが1基しかうごかず、機嫌をとりながら飛行を続ける状態です。肝臓なら肝硬変で腹に水がたまった状態です。戦争なら空母をミッドウェイで沈められ、優秀なパイロットはもういない状態。積極的な作戦はもうできません。肺気腫でいつも酸素ボンベを引っ張っている人のようなもの。

心臓から血液を押し出す機能が落ちてきたということですから、利尿剤でいったんはもちなおしても、長期的な予後はよくありません。節制なさって少しでもマスコミで活躍できるように祈るほかありません。ですからWEBで容態をうわさしてよいことではありません。

私はK氏をはげまし、応援する会を結成することを提唱します。

Posted by: しんご | June 16, 2009 07:04 PM

>最近では心不全という病名は、死因や生命の危機である重病以外のときにも使います。

 はいはい。昨年友人が「慢性心不全」で入院していました。ただ、わたしの父も死因は「心不全」でしたので、いきなり「心不全」と聞くと死因に聞こえちゃうんですよね。不正確なことを書いてすみませんでした。岡田斗司夫さん、ごめんなさい。

 しかし、唐沢が日記でちょくちょく書いている、「健忘」「異常な食欲」「暴飲」「寝汗」「就眠時の下肢の攣り」「喘鳴」「心臓が苦しい」というのは総て、糖尿病からくる心臓疾患の症状ですから、自宅で出鱈目な漢方処方の売薬を飲んでいるよりは入院で大分ましになったと言うべきなんでしょう。この件に関して話してくれた芦辺拓さんは「唐沢さんは以前は朝型の人間で、毎朝規則正しく早起きして、自炊で朝食を採り、原稿執筆をしていたのに、なんだって最近はあんな不規則で不摂生をするようになってしまったのか」と案じていました。

Posted by: 藤岡真 | June 15, 2009 10:43 AM

>藤岡先生
最近では心不全という病名は、死因や生命の危機である重病以外のときにも使います。「軽い心不全」という言葉は、「人工呼吸などをするまでもない軽症の肺うっ血」くらいの意味で使用されることが多いと思います。そういう場合、一般に利尿剤がよくききますので改善するまでにそんなに日数はかかりません。
ただし、唐沢氏がほんとに糖尿病から心臓疾患をおこしているとすると、ちょっと面倒かもしれません。糖尿病は動脈硬化を悪化させますので、心臓の冠動脈が狭くなって狭心症や心筋梗塞をおこすことがあります。その場合、糖尿病のひととそうでないひとを比べますと、困ったことに糖尿病のひとのほうが重症化しやすいのです。あと糖尿病性心筋症という概念がありまして、カテーテル検査などではわからない細い血管が障害を受けて、心臓全体の動きが悪くなることもあるそうです。

Posted by: 漫棚通信 | June 15, 2009 08:42 AM

糖尿病による心臓疾患だと聞いています。「心不全」というのは、単に岡田斗司夫が言葉を知らない(にもほどがある)からだと思います。普通「心不全」といったら「死因」でしゅに。

Posted by: SHIN | June 15, 2009 07:52 AM

↑キミもしつこくチェックして、アンチ・コメント書いてくるね。

五月の蝿だ。飛ぶ虫用冷却剤でしゅ~~っと♪

Posted by: トロ~ロ | June 15, 2009 02:15 AM

しつこいなここの管理人。

Posted by: LLKHGF | June 14, 2009 09:48 PM

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