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May 22, 2009

グレイトな一冊『定本アニメーションのギャグ世界』

 柳下毅一郎の本を買うつもりで書店の映画の棚をうろついていたら、おおっと、こんなグレイトな本を発見。

●森卓也『定本 アニメーションのギャグ世界』(2009年アスペクト、2700円+税、amazonbk1

 うわぁ、定本として再刊されてるとは知らなかった。というわけですみません、柳下本よりこっちを優先して買ってきてしまいました。

 原著は1978年奇想天外社刊の『アニメーションのギャグ世界』。もちろんわたし持っております。というか、今もブログ記事を書くときに参照しまくりで、現役で読み返してる本です。

 アニメーション、しかもアメリカのポパイやらベティやらトム&ジェリーやらドルーピーやらバックス・バニーやらコヨーテ&ロードランナーやらピンクパンサーやら、ただただ観客のお笑いに奉仕するためにつくられた作品群、これについて書くひとは森卓也しかいませんでした。しかも、のちに続くひとがほとんどいない。

 ですから本書は、アニメーション愛好家にとっての古典であり必携の書なのです。

 原著では上記の作品や、テックス・エイヴリー(原著ではアヴェリーだったのを修正)作品のギャグについて、さらに持永只仁による日本の人形アニメ史など、アニメーションに興味のあるひとには必読の記事ばかり。

 すべてがビデオが存在しない時代に書かれたもので、この時代に映像作品の細部について書くことがどれほどのものだったか、現代の我々は忘れてしまっていますが、これはタイヘンナコトダッタノデスヨ。

 かつてわたしの子ども時代、日常的にアメリカのギャグアニメーションがテレビで放映されてました。しかし文化が違うといろいろな謎も多い。それをきちんと解説してくれたのは森卓也氏の著書しかなかったのです。

 先達の名作に敬礼。

 わたし自身も、かつてテックス・エイヴリーのアニメ「Tex Avery's Screwball Classics」VHS全4巻をアメリカアマゾンから取り寄せたことがあります(当時はまだ日本アマゾンは存在しませんでした)。

 これは映画「マスク」を見たのがきっかけでした。この映画では主人公がエイヴリーファンのうえ、映画内ではキャラクターの肉体が自在に変化するギャグが炸裂。映画内のギャグがエイヴリーのものであると認識できたのも、ビデオを買ったのも、森卓也氏の著書を読んでたからです。

 今回の「定本」では、原著の記事が増補改稿され、さらに原著よりのちに書かれた文章が追加されてます。資料的には、他の本に掲載されていた『オリジナル「トムとジェリー」全作品解説』が収録されてるのがうれしい。

 現在、かつてのギャグアニメーションの多くが、ネットや廉価DVDで見られる時代になってます。パブリックドメインになった「トムとジェリー」や「ポパイ」のDVDも発売されてます。

トムとジェリー DVD BOX (DVD付) トムとジェリー DVD BOX vol.2 (DVD付) ポパイ DVD BOX (DVD付)

 わたしも最近、フライシャーの「バッタ君町に行く」をCS放送で再見しました(30年ぐらい前にTV放映されたとき以来です)。こういう時代だからこそ、本書の価値はさらに増しているように思います。

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Comments

森先生とは、毎日映画コンクールの
アニメ部門の選考委員をやらされる
ようになってから、毎年年末には
お会いしていました。

20年!
その委員も、毎日の予算削減から
交通費とホテル経費を出さねば
ならぬ委員をカット。
それで、ぼくや、渡辺泰さん
森先生他が、退任。

まあ20年の長きに及んだので
まあいいかも~ってところですが。
森先生は残ってほしかったですね。

現在では、ぼくがこんなトシですから
先生はどうされてますかね。
増補執筆!!と、お元気!!!
ということでしょうね。

Posted by: 長谷邦夫 | May 23, 2009 08:34 AM

>増補改稿され
前の版が二冊あるのに、また注文しちゃいました。まさか増補されているとは思わなかったなあ。
情報ありがとうございました。

しかし、アニメ部門の選考委員から森卓也を退任させるなんて、映画の試写会に双葉十三郎を入れないみたいなことですよ。かなわんですね、長谷さん!

Posted by: 三田皓司 | May 23, 2009 10:22 AM

>三田さん。
 ごぶさたです。
 そうなんですよ。ただ、毎日新聞社が、かつてより
管財人がついていた時期もあり、その後も決して良い
状態ではない。スポニチ・グランプリと一緒の発表を
ホテルでやって、しのいでいる有様。
伝統の毎日コンクールが、風前の灯!って印象もあり
ましたよ。

そう、双葉先生格ですよね。

Posted by: 長谷邦夫 | May 23, 2009 03:40 PM

初めてコメントさせていただきます。

先の三田さんのコメントと同じく、私も原本は所有し長年愛読しておりましたが、こちらも購入させていただきます。

日本でのアメリカン・アニメーションへの関心は、長編が定期的に劇場公開されてきたディズニーものに集約されて語られることが大方だった状況で、それ以外の、個々の優れた作品にあたられた森さんの研究はたいへん貴重な物で、私も随分と影響・感化されてきました。

特に本書で語られている短編のギャグ・アニメ作品群は、日本のTV放送黎明期から絶え間なく放送されてきたものですが、そのスピーディーかつドタバタした動きやギャグ表現は日本の戦後ギャグ漫画に多大な影響を与えてきたと僕は考えています。

テックス・アイブリー氏のギャグは赤塚不二夫氏にさまざまな形で取り込まれています。
アイブリーの「テリートーン」(「ウッドペッカー」のポール・テリー制作のシリーズ)での監督最後作「あべこべ騒動」という短編がありますが、人間と動物の血液が入れ替わったときのショック表現で頭から星条旗が3本飛び出し、ひらひらはためく場面があります。
ハタ坊の造形はそれから頂いた、と赤塚氏は和田誠氏との対談で語られていました(「赤塚不二夫1000ページ」より)。赤塚氏の発言では作品は特定されていなかったのですが、僕も見覚えがあったので、膨大なエアチェックビデオのストックより調べて突きとめました。
なお、初期のハタ坊は頭にハタが三本刺さっています。

ちなみに「ウッドペッカー」のTV放送は、調べましたら赤塚氏がトキワ荘で石森氏のアシスタントなどをしている、ギャグ開眼以前の時期でした。

アイブリーのMGM時代の最後作「未来の農場」「未来のテレビ」「未来の自動車」での15秒おきに繰り広げられる奇天烈な電化製品、きわどく品種改良された農作物や家畜、過激なカスタムカーなどの発想は、赤塚作品のみならず、長谷さんやタイガー立石さんが携わった「少年サンデー巻頭のパロディー頁」に大きな影響を与えたと思っているのですが、いかがでしょうか、長谷さん?

上記3作のインパクトは相当だったと思います。初期ジョージ秋山氏、永井豪氏のギャグ作品にも影響を感じます(あるいは赤塚&長谷&立石作品を経由したのかもしれませんが)。

そうしたアメリカン・アニメから受け取ったギャグ感覚の分析は、確認作業も難しく、残念ながらまだ誰も着手されていないようですが、研究の価値はおおいにあると思います。

Posted by: ほうとうひろし | May 24, 2009 08:10 AM

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