漫画賞について
現在、新人賞じゃない日本の漫画賞といえば、これぐらいでしょうか。
●講談社漫画賞
●小学館漫画賞
●文化庁メディア芸術祭マンガ部門
●日本漫画家協会賞
●手塚治虫文化賞
このうち講談社と小学館のそれは、失礼ながら出版社主催ですからどうしたって紐付き。出版社が主導して商売がからんできます。自分とこが出した本が受賞してアタリマエ、と読者のほうも見てますね。
ですから小学館「スピリッツ」連載の『20世紀少年』が講談社漫画賞受賞したりすると、びっくり。これは将来の移籍への布石か、なんて邪推したりするわけですな。
そして選考基準の第一は売れたかどうか、人気があるかどうか、なのでしょう。これはこれでいさぎよいともいえます。
日本漫画家協会賞は、一般に流通しない自費出版とかも対象になりますから、少し特殊。功労賞的性格を持っていたり、意外な新鮮な作品に出会えることもあり、いろんなマンガを発見するのに重宝しています。むしろ漫画家協会賞が他の賞と似たような傾向のものを選ぶと、かえっておもしろくないというか。
文化賞メディア芸術祭はやっぱ「芸術」を名のってますからね。マンガを評価するとき、その芸術性を第一に考えるのはしようがないところでしょう。また他の賞にひっかからない作品をサルベージする役目も担っているようです。
今やこれら各賞のライバルは、むしろアンケート形式によるランキングです。
「このマンガがすごい!」「このマンガを読め!」などの雑誌が主催するアンケートは、すでにある程度の権威を持っています。新設の「マンガ大賞」も気になるところ。
数人の選考委員が話し合いながら賞を決める、という形式じゃなくて、多数の投票者による一発勝負は、たしかに公平感があるし、なじみのある作品が上位に選ばれやすいですから読者の共感も得られます。
ただそのぶん、意外性のある作品が選ばれる率は下がってしまう。また単なる人気投票になってしまう可能性もあります。連載途中で評価される現在のシステムでは、毎年毎年、同じような作品が上位を独占する傾向が見られるのが欠点です。
では、わたしのような一般読者が求める漫画賞とは。
大衆文化である日本マンガの、芸術性と商業性、このふたつをともにきちんと評価できる賞。しかも出版社の紐付きじゃなくて、それなりの読み巧者が話し合いで決める権威ある賞。そういうものがあっていいと思います。
となると、やっぱ手塚治虫文化賞には期待してしまいますね。
で今年、第13回手塚治虫文化賞の結果。
すでに数年前から評判だった『大奥』と、ダークホース『劇画漂流』のダブル受賞。さらに昨年、売り上げ的にいちばん話題だった『聖☆おにいさん』を短編賞に回し、奇跡の傑作『パノラマ島綺譚』まで新生賞に押し込むという豪腕ぶり(丸尾末広のどこが「新生」か、という疑問もありますが)。
まあこれでもかというくらい、各方面に配慮した八方美人的な結果となりましたが、漫画賞の王道をめざすなら、これでもいいんじゃないかと思いました。
Comments
講談社漫画賞は、白泉社の『綿の国星』が受賞したとき、おおっと思いましたね。最近では「佐藤秀峰 on Web」の「プロフィール」に描かれてる漫画賞辞退に関する話が、なんとも不幸なてんまつでした。
Posted by: 漫棚通信 | April 27, 2009 08:50 PM
ぼくが赤塚に予備推薦して
残ったのが
「ちびまるこちゃん」でした。
当然、講談社側から、集英社側が拒否させるから~
というお話しがありましたが、ナント!
それが無く、受賞(したはずです)。
初期、「りぼん」では、それほど重視していなかったのか
な~と、思います。
Posted by: 長谷邦夫 | April 27, 2009 06:14 PM
ダブル受賞と聞くと思い出すのが水木しげるです。白土三平は水木を自身のガロで雑誌デビューさせ、講談社児童まんが賞に水木を強く推薦、そして受賞。水木はそれを機に有名になっていくわけですが、今村つとむの娘さんとダブル受賞だったため賞金半分ずつでガッカリだったみたいです。白土が振り返るには「他の人が反対しちゃうし、最終的には出版社だからさ。水木さんの場合は俺の推薦通りになったけど。水木さんの時運が悪かったのは一度に二人受賞しちゃったんだね。」
その「講談社児童まんが賞」も全9回中、第1回と第4回(白土三平)以外のものは全部自社作品を受賞させていたため、続く「講談社出版文化賞児童まんが部門」第1回を手塚治虫が「火の鳥」で受賞しとても喜んでいますね。
Posted by: くもり | April 25, 2009 11:31 PM
ぼくの体験を言いますと、赤塚不二夫が
講談社の選考委員をやっていたときに
<ぼくに>根回しが一回ありました。
候補作選びは、ぼくが赤塚からやらされて
おりましたんで~。
小学館からも、それとなく。1回あった。
手塚賞は3年間勤めたわけですが、
こうした根回しはなし。
ただ、自費出版なさった方から
候補に入れて!と電話あり。
書店で販売されていない状況でしたので
ムリですよ~と、御返事しました。
Posted by: 長谷邦夫 | April 25, 2009 10:17 AM
漫画評を専門的に書いているブログの書き手が何かの基準で選考され、それが一定数集まり、アンケートとは別の方向性を加味すれば・・・・いい賞ができるという気がするんですがね
(当然、このブログを想定してます)
実現するとしたら、それをどうやるか?についての具体案は特に無いんですけど。
Posted by: Gryphon | April 24, 2009 11:11 PM
“漫画賞”と聞くと反射的に
「宣伝賞だな」
と石森「マンガ家入門」を思い出してしまう私です。
版元はよくあんなの許したなーと思いますが、秋田書店は昔も今も新人賞以外の漫画賞主催してませんものね。
ただ、上記の賞のひとつを主催する出版社に勤める知人に聞いた話ですが、他社の作品だと授賞を拒否されるケースがあるとかで、無難に自社の作品を選ぶことが多いのだとか。
久米田康治は「改蔵」で講談社漫画賞候補、移籍後「絶望先生」で晴れて講談社漫画賞でしたか。
Posted by: かくた | April 24, 2009 03:17 AM
手塚治虫文化賞に関する感想、早速お書きいただいてありがとうございました。
4月19日の発表当日の朝日朝刊における『大奥』大賞授賞についての解説文が興味深かったです。
そこに引用されているよしなが氏の言葉から2つ。
「逆転の世界で、初めて男女の恋愛が違和感なく描けた」
(手塚マンガについて)「残酷でエロチックなものをマンガで描いていいと学びました」
この2つの言葉は、私にとっては、ある意味で目からうろこの言葉でした。
追記・いしかわ じゅん氏はどういう理由で社外選考委員から消えたのでしょう?先年の『のだめカンタービレ』の受賞拒否と何か関わりはあるのでしょうか?)
Posted by: natunohi69 | April 24, 2009 01:12 AM
経験上、私の好みと一般の人気投票は反りが合わない事が多かったので「この○○を読め」的なランキングモノはいつも敬遠しております。
今回の受賞で「大奥」も読まないといけない気がしております。う~~ん。
Posted by: トロ~ロ | April 24, 2009 01:11 AM