現代版のらくろ『Cat Shit One』
小林源文。戦争を題材にしたマンガの第一人者です。ただご本人は自作をマンガとは呼称してほしくないようですが。まさにワンアンドオンリーで、現在は類似のマンガを書くひとがほとんどいませんから、孤高と言ってもいいかもしれません。
いわゆる日本マンガの本流とは別のタイプのマンガです。軍事オタクが軍事オタク向けに描いていて、兵器や用語はマニアじゃないわたしにはわかりませんが、きっとムチャ正確なのに違いありません。
しかも描いてる媒体が「ホビージャパン」とか「コンバットマガジン」とか特殊なので、ふつうのマンガ好きの目にも触れにくいかもしれません。
でもこれは一般性がちょっとあるかも。
●小林源文『Cat Shit One』1巻~3巻(1998年~2002年ソフトバンククリエイティブ、各950円+税、amazon、bk1)
●小林源文『Cat Shit One』0巻(2005年ソフトバンククリエイティブ、1200円+税、amazon、bk1)
●小林源文『Cat Shit One '80』1巻~2巻(2008年~2009年ソフトバンククリエイティブ、各950円+税、amazon、bk1)
えー、書影を見ていただければわかりますが、カワイイ系の動物が戦争してます。アメリカ人はウサギ、ベトナム人はネコ、中国人がパンダ、ロシア人がクマ、フランス人はブタで、日本人はサルです。
顔だけじゃなくて体形も動物ですから、下半身はハダカです。ウサギやクマのあのまるまっちい手で、どうやって銃のトリガーを引いているのかは謎です。
この体形と顔で、リアルな戦争が描かれるわけですね。著者によると、最初人間でベトナム戦争を描いていましたが、リアルを描くのがつらくて動物マンガに切り替えたとのことです。
戦争ですからキャラクターはいっぱい死にますし、拷問シーンもあります。確かにヒトよりもファンシーな動物のほうが、描くほうも読むほうも楽。
かつてディズニーや田河水泡『のらくろ』では、なじみやすいキャラクターとして動物が選ばれましたが、現代では残酷さを薄めるために動物キャラが描かれます。ただそれだけじゃなく、結果として奇妙な効果が生まれました。
ベトナム戦争を舞台にした『Cat Shit One』全四巻では、戦場場面の臨場感と緊張感、焦燥感がすばらしく、ファンシーなキャラクターたちがリアルな殺し合いの結果つぎつぎと死んでいく。これを読んでますと、なんともアンビバレントな感覚におそわれます。
続編の『Cat Shit One '80』は現在も刊行が続いています。こちらは80年代の世界情勢を背景に、主人公たちは、アフガン戦争、ロンドンのイラン大使館占拠事件、フォークランド紛争などに参加していきます。
地を這う戦場の臨場感は薄まりましたが、著者の歴史観とか世界観が強く感じられる作品になってます。なんといっても現在の中東の紛争に直接つながる話ですし。
で、この『Cat Shit One』がCGアニメ化される計画があり、東京国際アニメフェア2009でトレーラーが発表されたそうです。YouTubeでどうぞ。
設定が変更されてて主人公たちは傭兵、時代は現代(?)。予告編のクオリティがやたらと高いです。しかしCGアニメでファンシーキャラが演ずる戦争映画となりますと、奇妙な感覚がさらに増強しますねえ。
Comments
小林先生のホームページに行き当たり、楽しんでいます。ご紹介ありがとうございます。
Posted by: しんご | April 15, 2009 06:15 PM
動物でシリアスな戦争シーンというと
アニメですが、「ペンギンズ・メモリー」が
ありますね。
Posted by: 完全防水 | April 07, 2009 10:58 PM
原作 小林源文・・・ホンマカ!信じられん。小林原文は健在っだっただけじゃなく、ブ、ブレークしてたみたいね。ま、いいことだけど。
芸術家はあるとき自分の殻を破って一回り大きくなることがあるけど。大沢在昌が「新宿鮫」で、深作欣二が「仁義なき戦い」でブレークしたように、小林源文もメジャーになるのかな。
川谷拓三や鈴木清順が急に活躍しだしたこともあった。高倉健さんはずっと主役だったけど、飢餓海峡のころはやたらと力がはいって面白くなかったよ。大滝修治は黒澤明の映画に全くの端役で出ていたな。勝新も白塗り時代は実力が発揮できなかったのは有名なお話。阿部寛がドラマ「アンティーク」で壁に貼りついて顔の表情だけで演技しているのを見て面白いやつだなと思ったけれど、もうそのころはブレークしかかってたんだ。「荒野の七人」や、「大脱走」に出演しているチャールス・ブロンソンは、「さらば友よ」でアラン・ドロンと共演して急にブレークした。
関谷ひさしも「ジャジャ馬くん」まで長いんじゃないですか。水木しげるなんて、食うや食わずの貸本マンガ時代が長かったのでマガジンに書き出して売れっ子になったのが夢のようだったといっている。ある日突然マガジンの編集者があらわれて原稿を依頼。水木マンガでは死神くらいしか訪れないのに。
小林原文の劇画がアニメになるなんて、作者自身、ユメにもおもわなかっただろう。
Posted by: しんご | April 07, 2009 10:14 PM
アラブというか、イスラム世界からの反発については、アニメの制作者側は、どのように見込んでいるんでしょうねえ?
ちょっと、怖い気もしますが。
Posted by: natunohi69 | April 07, 2009 02:41 PM
な~~~るほど!!
初めて知りました。
これは、相当な可能性を持ちますね。
『スカイクロラ』もまあ一応面白いんですが
押井戦争がかなりハナについて、戦争のリアルが
有るようで、実は無いように感じました。
こちらの方を劇場で見てみたいですよ。
Posted by: 長谷邦夫 | April 06, 2009 09:07 PM
この漫画を読まれた方は勿論ご存知なのですが、米兵のスラングでドッグ・シット・ワン(犬の糞一号)=ウェストポイント(米陸軍士官学校)を出たばかりの新米士官(少尉)=役立たずの若造の上官、というのがあって、最初はそのタイトルで登場人物を普通のニンゲンで始めたんですが、救いようの無い、くら~いクラ~イハナシで連載1回分だけで止めちゃったんですね。
当時ゲンブン氏はウサギをペットになさっていたので、ウサギとネコで書き直したら、これがまあスラスラと筆が進んで。動物キャラが人間の愚かさのメタファーになっていてナカナカ面白いです。
ちなみにイギリス兵はネズミ、韓国兵はイヌ、アフガン民兵は山羊、アルゼンチン兵はウシでした。個人的にはフランス人のブタが笑えてヨカッタです♪
動物キャラの戦争漫画は宮崎駿もWW2を舞台に描いてまして、ドイツ兵とロシア兵がブタ、イギリス兵が耳の長いイヌ、米兵がサルでした。女性キャラは何故か人間のままで、敗戦後の逃走劇で美少女とブタのドイツ整備兵の若者が知り合い、戦後になって恋に落ちておりました。
Posted by: トロ~ロ | April 06, 2009 09:23 AM
関連?で思い出したのですがジョージ秋山先生の「ラブリンモンロー」はもう永遠に復刻されないのでしょうか(^^;
Posted by: くもり | April 05, 2009 08:55 PM