不条理日記ふたたび『地を這う魚』
『失踪日記』以来の吾妻ひでお本は、オレンジ色ばっかりになってるわけですが。
●『失踪日記』(2005年イースト・プレス)
●『うつうつひでお日記』(2006年角川書店)
●『逃亡日記』(2007年日本文芸社)
●『チョコレート・デリンジャー』(2008年青林工藝舎)
●『うつうつひでお日記DX』(2008年角川文庫)
●『うつうつひでお日記その後』(2008年角川書店)
『失踪日記』がヒットしたもんで、角川がマネして同じような色で本を出しました。続編と勘違いして手にとってもらいたい、という魂胆が見え見えでしたが、その次の日本文芸社も同じ色調。と思ってたら、さらに青林工藝舎までもこうきたか。各社さま、こうなったらもう吾妻本はオレンジで統一してくださいな。
で、今回出版された新作も、当然のようにオレンジ色です。
●吾妻ひでお『地を這う魚 ひでおの青春日記』(2009年角川書店、980円+税、amazon、bk1)
新刊にも「日記」というタイトルがついてますが、1950年生まれの著者が若き日を回想したマンガ。1960年代末に北海道から上京し、板井れんたろうのアシスタントをしながら、仲間とともにマンガ家をめざす日常を描いています。
とはいいながら、この世界、マトモではありません。師匠の板井れんたろうは、ウマの姿をしています。友人たちはワニやサイやアリクイ。編集者はコアラやゴリラ。空中には異形の怪物たちが浮遊し、地には魚が這う。地名は「臀部」「畦畔ヶ谷」。建物もクルマもすべてが変形しています。
ここは異世界。著者の心象フィルターをとおして見た東京です。一時荒れていた吾妻ひでおの絵ですが、本作はすばらしい。すみずみまで気合いがはいってて、絵も線も、色気たっぷりのなまめかしさであります。ヒトコマヒトコマ、ゆっくり読むべし。
つまりこれは「不条理日記」のスタイルで描いた「まんが道」ですね。いや時代や登場人物たちの感性はもっと新しいので、味わいは「まんが道」より永島慎二「若者たち(黄色い涙)」に似てるかな。ただし「青春」のいらだちや煩悶を直截に描かないのは、吾妻ひでおの個性ですが。
もちろん半自伝ですから、登場する実在人物の名もすごく興味深いものばかり。傑作。
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Comments
あ、そうなのか。ありがとうございます。
Posted by: not a second time | March 08, 2009 10:26 AM
>「わてんちゃん」「わへー」「まっちゃん」「ゆきみちゃん」など
それぞれ北海道からの上京組で武蔵野荘時代の仲間ですね。
伊藤(「ネムタくん」の“イトウ”のモデル)
和平(脇キャラ“ホオ骨”のモデル)
松久由宇
きくちゆきみ
なのかな。
Posted by: かくた | March 08, 2009 12:13 AM
買いました。素晴らしかったです。最後のあとがきまで堪能。でも、板井れんたろう先生とか編集の壁村さんとかわかるんですが、その頃の児童マンガ全部を読んでたわけではないので、「わてんちゃん」「わへー」「まっちゃん」「ゆきみちゃん」など誰がモデルなのかよくわかりません。(^^;
Posted by: not a second time | March 07, 2009 11:11 PM
「失踪日記」はおもしろかったですね。「うつうつひでお日記」もマンガ家の生活が書かれていておもしろかった。編集者との打ち合わせとか、アシスタントからアイデアを500円で買うとか。喫茶店でネームを考えるとか。
江口寿史の「中春こまわりくん」アシスタント日記と同じくらい面白い。
「地を這う魚 ひでおの青春日記」もおもしろそうですね。だがわたしは、本に金を使うのを自粛しょうと思っているのです。「侍っ子」も透明カバーをずらして、そっとページの一部を立ち読みして、(マンガの立ち読みは万引きと違い、警察に連絡されたりはしません。昔はもっと堂々とやっとった。)これはやっぱり買いかと自問している状態です。でも多分買うでしょう。ある日何か喜ばしいことがあって、あるいは逆に何か非常に哀しいことがあり、その弾みで。
Posted by: しんご | March 05, 2009 10:14 PM
お、これは買いですね!
週末の暇つぶしにします。
ありがとうございます!
Posted by: はんてふ | March 05, 2009 09:17 PM