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March 31, 2009

「レジュメ」の話

 マンガと無関係のどうでもいい雑談で失礼。

 ある特殊な分野でしか使用されない奇妙な言葉というのがありますが、そのなかのひとつ。医学方面での話です。

 「レジュメ」あるいは「レジメ」という言葉があります。フランス語の「résumé」のことで、要約とか梗概(こうがい)の意味です。

 日本では一般的に、講演とか講義で聴衆に配られる、内容を要約した文書のことをレジュメ、レジメと呼ぶことが多いですね。なぜこういうフランス語が日本で一般的になったのか、不思議です。何かのきっかけがあるはずなんでしょうけど。

 フランス語の「résumé」を英語に直訳すると、サマリー(Summary)です。ただし、「resume」が英語として使われるときは、ふつう「履歴書」の意味になります。

 さて、日本の医学方面で「レジュメ」あるいは「レジメ」は、さらに特殊な使い方がされています。

 医学方面で「レジュメ」「レジメ」といえば、「抗癌剤の投与計画、投与方法」という意味になります。1日目に○○を体重あたり何ミリグラム注射して、2日目には△△を体表面積あたり何ミリグラム点滴して、とかいうやつですね。

 ところがこれ、ずいぶん奇妙なことなのです。だいたい医学の世界で使われる言葉は、ドイツ語か英語。人名は別として、なぜフランス語がこんなところに登場するのか。

 しかも、ドイツでも英米でもフランスでも、「レジュメ」「レジメ」が抗癌剤の投与計画の意味で使用されることは、ありません。

 なぜ日本だけで、こんな言葉を使っているのか。

 実は、投与計画をカタカナで表現するとき、もっと適した言葉があります。「レジメン」というのがそれ。「regimen」と書きます。意味は「systematic plan」。たとえば、「Mayo Clinic Regimen」といえば、アメリカのメイヨー・クリニックで開発された抗癌剤の投与方法のことです。

 「regimen」と同系統の言葉が「regime」で、「レジーム」と発音します。もとはフランス語の「régime」からきています。アンシャン・レジームのレジームですね。

 「レジュメ」「レジメ resume」と「レジメン regimen」は、語源も発音も意味も、まったくちがう別の言葉です。ところがカタカナで書くと似ている。

 で、ここから先はわたしの想像なのですが、昔、どこかのエライ先生が、海外で「レジメン」という言葉を覚えてきて、日本に帰ってきてから「レジメン」「レジメン」とあちこちでしゃべっていた。日本語訳すればよかったのに、カタカナのままが好きだったんでしょう。アクセントは最初のほうにありますから「ジむん」という感じの発音。

 これを聞いたあちこちのセンセイがた、すでに日本でも使われてた「レジュメ」のことだと思いこんでしまったのですね。師匠が使えば弟子も使う、のが日本の医学世界ですから、あっというまに「レジュメ」は日本じゅうで使用される言葉になってしまいましたとさ。という経緯じゃないかと。

 最近になってやっと、いくらなんでも「レジュメ」「レジメ」はおかしいだろ、ということなのか、日本でも「レジメン」が主流になりつつあるみたいです。

 しかし言葉というのはどんどん奇妙に変化していくものですねえ。

 フランス人が「レジュメ」と言うときは、一般的な「要約」の意味。アメリカ人が「レジュメ」と言えば、これは「履歴書」のこと。日本人が「レジュメ」と言ったときは、講義の要旨をまとめた紙のこと。さらに日本人医者が「レジュメ」と言えば、抗癌剤の投与計画のこと。同じ言葉のはずなのに、集団によって使われかたがずいぶんと変わってしまうわけです。

 こういう例がありますと、「マンガ」とか「オタク」が国によって意味がちがってしまうのもしょうがないかな、と思いますね。

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March 27, 2009

天下の奇書になるかも『ハタキ』

 いやーこれはすごいというかなんともどうも。

 野中英次『ハタキ』1巻を読んだとき、わたしはわけわからんわー、という感想を書きましたが、2巻を読んでも、わけわからんぞー。

●野中英次『ハタキ』2巻(2009年講談社、533円+税、amazonbk1

 

 ジャンプシステムのせいかどうなのか、連載第一回で今後の展開が読めてしまう作品が多いなか、単行本一巻をついやしても先がまったくわからないという作品が『ハタキ』でした。

 で、第2巻が発売されたわけですが、物語の謎はますます深まるばかりです。

 「ハタキ」という名のブタのようなペットを飼い出した主人公。ハタキの登場とともに、主人公のそれなりに安定していた生活は激変することに。

 2巻は主人公のアイデンティティ崩壊の危機から始まります。まさにディックのような展開。妻は本当にいたのか、これまでの人生は本当にあったものなのか、すべては自分の妄想なのか。おお、一巻の展開をすべてちゃぶ台返しするか。

 うわぁ、どうなるんだろう、という読者の興味はほったらかし、そんなことはどうでもいいこととして、お話はホラー方面に、さらに世界を巻き込んだSF(?)方面に展開していきます。

 わが家では、読んだ人間からつぎつぎと、なんじゃこりゃーっ、という声が上がってまして、深遠なストーリーが用意されている説と、いきあたりばったりにテキトーに描いてるんじゃないか説が対立しております。

 いずれにしても天下の奇書になりうる可能性十分です。ただし野中英次ですから、オチで脱力が待っているのはまちがいないような気がしますが。

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March 25, 2009

日本版スパイダーマンとハルク

 講談社「月刊別冊少年マガジン」1970年1月号から池上遼一『スパイダーマン』の連載が始まりました。

 当時の世界情勢は冷戦そしてベトナム戦争という戦時下。日本でも学生運動の余波さめやらず、マンガ方面でも青年向けマンガが出現し始め、読者年齢がどんどん上昇していました。

 そこへスーパーマンやバットマンとは異なる心情を持つ、マーヴェルの新しい「悩める」アメコミ・ヒーローが日本マンガに導入されました。日本マンガとアメコミがもっとも接近した時期です。仕掛け人は「週刊少年マガジン」の編集長でもあった内田勝。

 池上遼一版『スパイダーマン』は「別冊少年マガジン」1970年1月号では13ページの予告マンガでしたが、翌2月号からは毎号100ページの巨弾連載。構成を担当したのは小野耕世です。

 かつて桑田次郎が描いた『バットマン』では主人公はアメリカ人のままでしたが、池上遼一のスパイダーマンは日本人・小森ユウです。高校生の彼が奇妙なコスチュームを着て、これまた奇妙なコスチュームを着た怪人たちと戦うことになります。エレクトロ、リザードマン、カンガルー男、ミステリオたちですね。

 ところが池上遼一自身は「話が単調」なのが気に入らず、すぐにオリジナルのストーリーを描くようになります。

 池上遼一オリジナルの1970年7月号「疑惑の中のユウ」では、敵は優等生の皮をかぶった高校生で、お話にはスパイダーマンのコスチュームすら登場しません。1970年8月号「狂気の夏」でも敵は米軍脱走兵のハイジャッカー。時代ですなあ。主人公はつねにイライラしていて、汗をかいていて、どなっていて、自己嫌悪ばっか。

 さすがに毎月100ページのストーリーを考えるのはキツく、1970年9月号からは原作として平井和正が参加します。平井和正も池上遼一のラインを踏襲し、1970年9月号「おれの行く先はどこだ!?」は、主人公がガールフレンドの裸を妄想しオナニーするシーンから始まります。

 というわけでスパイダーマンというアメコミの代表的ヒーローは日本でまったく別の何かに変化してしまいました。以後も連載が続き、伝説的作品として、1976年の朝日ソノラマサンコミックス版をはじめとしてくりかえし単行本化されてます。

 さて、マーヴェルの悩めるヒーローとしてもうひとりの代表格であるハルク。

 講談社「週刊ぼくらマガジン」は月刊誌「ぼくら」の後継誌。「週刊少年マガジン」より年少読者向けとして1969年に創刊されました。こちらの編集長も内田勝です。

 「週刊ぼくらマガジン」1970年11月24日号から、西郷虹星『ハルク』が連載開始されます。こちらのハルクも主人公は日本人。

 これも当初、構成を担当していたのは小野耕世でしたが、第四話から小池一夫が参加します。

 小池一夫がハルクぅ? この話、知らないひとはびっくりするみたいですね。当時はまだ小池一雄名義で、さいとうプロから独立したばかり。すでに『子連れ狼』『御用牙』の連載は始まっています。

 この日本版『ハルク』こそまさにまぼろしの作品でして、もちろん単行本化されてません。わたしにしても西郷虹星によるやたらにうまい絵が記憶に残ってるだけ。

 で、この西郷虹星/小池一夫版『ハルク』についてのレポートが、現在発売中の「映画秘宝」2009年5月号(洋泉社、1000円+税、amazon)に掲載されてます。

映画秘宝 2009年 05月号 [雑誌]

 4ページの記事で大西祥平による労作です。「第一部完」による中断やその後のマンガ家交代の経緯についても書かれてます。このあたり興味のあるかたはどうぞ。

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March 23, 2009

『劇画漂流』英語版

 ニュースとしてはちょっと古くなりましたが、第13回手塚治虫文化賞ノミネート作品がこちら

●吉田秋生『海街diary』
●くらもちふさこ『駅から5分』
●よしながふみ『大奥』
●五十嵐大介『海獣の子供』
●辰巳ヨシヒロ『劇画漂流』
●中村光『聖☆おにいさん』
●さそうあきら『マエストロ』

海街diary 1 蝉時雨のやむ頃海街diary 2 (2) (フラワーコミックス)駅から5分 1 (1) (クイーンズコミックス)駅から5分 2 (2) (クイーンズコミックス)大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))大奥 (第2巻) (JETS COMICS (4302))大奥 第3巻 (3) (ジェッツコミックス)大奥 第4巻 (4) (ジェッツコミックス)海獣の子供 1 (1) (IKKI COMICS)海獣の子供 2 (2) (IKKI COMICS)海獣の子供 3 (3) (IKKI COMIX)劇画漂流 上巻劇画漂流 下巻聖☆おにいさん 1 (1) (モーニングKC)聖☆おにいさん (2) (モーニングKC)聖☆おにいさん 3 (3) (モーニングKC)マエストロ 2 (2) (アクションコミックス)マエストロ 3 (3) (アクションコミックス) (アクションコミックス)


 どちらかというとジミめの作品が並びました。今年は選考委員が交代したこともあって(印口崇、呉智英、竹宮惠子、中条省平、永井豪、藤本由香里、三浦しをん、村上知彦)、賞レースとしてはなかなか予想しづらい。

 この選考委員メンバーたちが、吉田・くらもち・よしなが作品をどのように考えるかがポイントかしら。票が割れそうな気もします。

 ただわたしとしては、“手塚治虫”文化賞なんだから今年は辰巳ヨシヒロ『劇画漂流』しかない、と思ってますけどね。手塚リスペクトにあふれた作品ですし。

 この『劇画漂流』、英訳されるはずだったけど、どうなってんのかなとアマゾンをのぞいてみますと、ありました。予約受付中です。

●Yoshihiro Tatsumi 『A Drifting Life 』(2009年Drawn & Quarterly、amazon

A Drifting Life

 出版元のサイトに行きますと、辰巳ヨシヒロ描くところの手塚キャラの模写があって、そこをクリックすると『A Drifting Life 』のページに飛びます。

 英文タイトルでは、漂流するのは「劇画」じゃなくて「人生」です。さすがに「gekiga 」は説明しづらいよなあ。日本版の上下巻を一冊にまとめて840ページ、枕にするのもキツいくらいのぶ厚い本になってます。ちょっと読みにくそう。

 気になるのは書影を見ていただければわかるように、英語版は左開きになってます。つまり左右逆版にしてるみたいですね。

 歴史的な作品や本にいろいろと言及している作品ですから、これを左右逆版にしちゃってどうする、という気もします。きちんとできているかちょっと心配。ってわたしが心配してどうなるわけでもないのですが。

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March 20, 2009

「秒速5センチメートル」に対する一般女子の反応

 新海誠のアニメ「ほしのこえ」は、いちおうハヤリモノということでDVDを持ってるのですが、その他の作品は見たことがありませんでした。そのうち「秒速5センチメートル」が先日BSで放送されてました。

 そこで本日は録画してあった「秒速5センチメートル」を見ておったわけです。真っ昼間からけっこう大音量で。休日だしいいじゃないか。

 で、うしろで見ていた女子三人が外野からうるさい。

 「なぜこういう暗いアニメを見るのか」「プリキュアとこれとふたつあったとして、こっちを選ぶのか」「ヤマがなくて単調」「セリフを聞いていられない」「心が暗くなる」「胃のあたりが痛くなる」「サブイボがたつ」「尻がかゆくなる」「たのむから夜中にひとりで見てくれ」

 じゃかましわっ。

 そういう側面がなくはないにしても、すばらしい風景描写とか、詩情とか、いいところがいっぱいあるじゃないかよう。

 しかし、もしわたしが独身男性であったとして、デートの際にこういう映画を選ぶのはたいへん危険であるというのはよくわかりました。

秒速5センチメートル 通常版 [DVD]

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March 16, 2009

『鼻紙写楽』はどうなる

 小学館「ビッグコミック1(ワン)」が休刊しちゃいましたね。

 時代歴史マンガ雑誌を標榜し、再録はなしで新作ばっか、という編集方針で2001年以来、計22冊が刊行されたそうです。

 手塚番と呼ばれる手塚治虫担当編集者たちに対するインタビュー「神様の伴走者」の連載や、永島慎二追悼特集などもあって、意欲的な雑誌だったんですけどねー。

 ただし不定期刊でいつ書店に並ぶかわかんないというのが最大の難点。最近なら2004年が三冊、2005年が四冊、2006年二冊で、2007年と2008年が三冊ずつ。わたしも買うことができたのは、とびとびの号でした。

 で、2003年以来「ビッグコミック1」に掲載されていた最注目作品が、一ノ関圭『鼻紙写楽』でした。

 一ノ関圭は、日本マンガ史上もっとも絵のうまいひと、と言いきってしまいましょう。しかも絵のうまさにもかかわらず、男はかっこよく女はかわいく、その作品はまぎれもなくちゃんと「マンガ」になっているのです。それにおとな向けで娯楽性の高いストーリーが加わる。芸術性と大衆性をあわせもっているのが一ノ関圭作品でした。

 1975年ビッグコミック賞を受賞したデビュー作『らんぷの下』は、まさに満天下を驚愕させました。これほど完成された作品を描く新人がいようとは。デビュー時、彼女は東京芸大油絵科在学中の学生だったそうです。

 受賞作は70ページの大作だったので、ビッグコミック本誌にふつうに掲載するのが困難。で、1ページに2ページぶんを縮小して印刷するという変則的な掲載も話題になりました。

 以後意欲作をつぎつぎ発表しますが、寡作なひとなので、1980年代までのほぼすべての作品が二冊の作品集におさまってしまいます。

●一ノ関圭『らんぷの下』(1992年小学館叢書、2000年小学館文庫)
●一ノ関圭『茶箱広重』(1992年小学館叢書、2000年小学館文庫)

 

 1990年以降はマンガの仕事はぐっと縮小して、こんな作品を描いてました。

●塚本学/一ノ関圭『江戸のあかり ナタネ油の旅と都市の夜』(1990年岩波書店、2300円+税、amazonbk1

 これは「歴史を旅する絵本」というシリーズの一冊。小学校高学年向けの本ですが、その絵はまさに絶品です。

 続いていどんだのが、8年がかりのこの大作。

●服部幸雄/一ノ関圭『絵本 夢の江戸歌舞伎』(2001年岩波書店、2600円+税、amazonbk1

 江戸の芝居小屋をじつに細密な絵で図解した本で、「絵本」とはいってもおとな向けです。すごいったらないです。

 この作品が発売されたときの著者インタビューがこちら

 あと福音館書店の月刊科学絵本シリーズの一冊でも絵本の仕事をしていたようです。

 で、このあと彼女はマンガの世界に戻ってきました。これが『鼻紙写楽』です。今度は『絵本 夢の江戸歌舞伎』で勉強した歌舞伎世界が舞台。

 田沼時代、五代目市川団十郎とその子、将来六代目となる徳蔵をめぐるひとびとの物語。写楽とか、鶴屋南北とか、連続幼女殺しとか、もと芝居小屋で働いていた同心とかが入り乱れる意欲作。すっごくおもしろい。

 完結後は、代表作『茶箱広重』をこえる傑作になるに違いありません。

 しかし掲載誌が年数回刊行されるだけの不定期刊、しかも一ノ関作品は年に一回か二回しか掲載されません。ついに2008年は一回も掲載されず、連載開始から七年、「ビッグコミック1」最終号でも連載第八回にたどりついただけです。物語はまだ先が見えません。

 というときに、掲載誌がなくなっちゃって。いやもうどうしてくれるんだ。小学館はちゃんと次の連載先を用意するように。

 あと、途中でもいいから、そろそろ単行本化してくれませんかねえ。


【追記】そして2015年、ついにめでたく『鼻紙写楽』は単行本されました。単行本化されたときに書いたわたしの記事がコチラ。→(

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March 12, 2009

「ユーロマンガ」2号発売

 日本初のバンドデシネ専門誌『euromanga ユーロマンガ』2号(2009年Euromanga合同会社/飛鳥新社、1800円+税、amazon)が発売されてます。

ユーロマンガ 1 ユーロマンガ vol.2 (2)

 書影の左が1号、右が2号です。発売は飛鳥新社、発行はEuromanga合同会社。本書は発行元からご恵投いただきました。ありがとうございます。

 わたしが「ユーロマンガ」1号について書いた記事がこちら

 2号に収録されているBDは以下のとおりです。

●バルバラ・カネパ/アレッサンドロ・バルブッチ「スカイ・ドール」1巻後半
●エンリコ・マリーニ/ジャン・デュフォー「ラパス」1巻後半
●ファーノ・ガルニド/ファン・ディアス・カナレス「ブラックサッド」3巻後半
●ニコラ・ド・クレシー「天空のビバンドム」1巻後半

 バンドデシネの単行本はかたい表紙の大判、カバーなしで発行されることが多いのですが(福音館書店版タンタンを思いうかべてください)、この形式の本をアルバムと呼ぶそうです。「ユーロマンガ」1号+2号をそろえますと、このアルバムがまるまる四冊読めることになります。

 1号+2号=3300円+税で、オールカラーのBDアルバムが四冊、これはお安いっ。ご奉仕価格ですよ。しかも1号ではどの作品も中途半端なところで終わってたのが、それぞれ一段落するキリのいいところまでお話が進んでます。

 「スカイ・ドール」の舞台は多数の異星人が同居する星間世界。この世界では宗教対立があります。性的娯楽用につくられた女性ロボット=主人公が施設を逃げ出し、自分が「異端の法王」と深くつながっていることに気づくまで。

 「ラパス」は、組織された吸血鬼集団と人間との戦い。吸血鬼たちは人間社会のいたるところに侵入しており、彼らに気づいた人間を逆に追いつめてゆく、というホラー・サスペンス。こういうのは日本マンガにもありそうですね。

 「ブラックサッド」は、すでに早川書房から邦訳が二冊出版されてます。黒猫の探偵が主人公のハードボイルド・ミステリ。今回は冷戦と赤狩りの時代を背景に殺人事件がおこります。

 で、本書最大の売りが、ニコラ・ド・クレシー「天空のビバンドム」。天才アザラシを教育して「愛のノーベル賞」を受賞させようとする市長と学者たち、それに対抗する悪魔とその手先。さらに事故で頭部だけとなりながらアザラシの物語を語り続ける学者ロンバックス。と、奇想に満ちた物語が、超絶画力で描かれます。

 バンド・デシネの最大のアドバンテージがその絵です。デッサンは破綻なく、カラーは美しい。これは日本マンガにもっとも欠けているものでしょう。

 しかしいっぽうでBDの最大の弱点もその絵です。

 日本マンガは「カワイイ」を極限まで追求してきました。その結果読者の最大の興味は、キャラクターがカワイイかどうか、萌えられるかどうか、になってしまっています。「カワイイ」の先鋭化は読者の許容範囲を狭くしてしまい、「カワイイ」以外のキャラクターを受け入れにくくしてしまいました。このため、BDやアメコミのごついキャラクターは、それだけで不利なのです。

 もうひとつは、日本のマンガ誌が安価で質の悪い紙を使用してきた歴史があります。そのため日本マンガは大量のページを消費するタイプのモノクロマンガを進歩させてきました。動線や漫符の多用。大きなコマの多用。視線誘導の進歩。読者がページを繰るスピードはどんどん速くなりました。

 BDは動線や漫符が少なく絵はすみずみまで描き込まれ、ヒトコマにおける情報量がとても多い。このため日本の読者が慣れた速読を許しません。これが読みにくさとなっています。

 しかし。

 BDもアメコミも、マンガと同じ地平にたっている、基本的に同じもののはずです。そこには無視することのできないすばらしい作品がたくさん眠っています。知らないですますのはもったいないじゃないですか。

 読みにくさは慣れでなんとかなります。キャラクターの違いは寛容の精神で受け入れてくださいな。

 当ブログでは以前から「海外マンガもっと読もうよ」キャンペーンを勝手に続けております。どうぞ、この機会にご一読を。

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March 09, 2009

映画「ジャイアンツ」をめぐるどうでもいい話

 週末には録画してあった「ジャイアンツ」(1956年アメリカ)という古い映画を見ておりました。ジェームズ・ディーンの遺作として有名ですね。

 彼は映画公開前に交通事故で亡くなりましたが、この映画でアカデミー賞にノミネートされました。

 わたしが昔に淀川長治解説の「日曜洋画劇場」で見たときは、たしか野沢那智による吹き替えだったので、字幕版は今回初めて。彼が猫背で上目づかい、ぼそぼそしゃべるのはなかなかかっこよくて、ずいぶんあちこちでマネされたんじゃないかな。

 映画自体はテキサスの大牧場主一家のお話。時代の流れを描いた大河ドラマであり、かつホームドラマでもあります。ジェームズ・ディーンは、そこの若奥さん(エリザベス・テイラー)に横恋慕する牧童、のちに石油であてて大金持ちになる役。

 自分のホテル開業パーティーで、飲んだくれてスピーチできなくなるシーンは、おお、中川のもうろう会見はこのパロディだったか、とひとりでウケてました。

 ちなみにジェームズ・ディーンの役名はジェット・リンクで、石森章太郎「サイボーグ009」に登場する002の名前はここからとられてます。

 で、この映画で、初老になった牧場主、ロック・ハドソンが、夫婦の寝室でベッドに横になって新聞を読んでる。これがカラーのマンガばっかりあつめた別冊で、いわゆるサンデー・ストリップというやつですね。

 長回しの多い映画なので最終ページがずっとカメラのほうに向いているのですが、そこに載ってたマンガが「Mutt and Jeff 」というもの。このシーンが1930年代末。

 このマンガ、知らなかったの調べてみましたら、かなり有名なものらしい。グーグルで画像検索するとこんな感じ

 このヒゲをはやしたノッポとチビのおっさんコンビは、二次元のキャラクターでありながら、アボット&コステロ、ローレル&ハーディくらいには有名らしい。今でいうとマリオ&ルイージみたいなものかな。無声映画時代にはアニメーションにもなってます。

 1907年にBud Fisher により創造され、作者はこのマンガのおかげで大金持ちになったそうです。Fisher の没後も別人の手で1980年代まで描き続けられたといいますから、いやアチラのキャラクターは長命ですねえ。

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March 07, 2009

「少年サンデー創刊物語」に疑問あり

 2009年3月4日発売の「週刊少年サンデー」2009年14号(3月18日号)はおもしろい表紙で、創刊号表紙の長嶋が松坂大輔でリメイクされていたわけですが。

Sunday200914_2

 この号にはこういうマンガが掲載されてます。

●「週刊少年サンデー創刊物語 ~夢の始まり~」取材脚本・浜中明/漫画・山田一喜/取材協力・藤子不二雄A・豊田亀市

 1958年3月17日、「週刊少年サンデー」と「週刊少年マガジン」が同時に創刊されたときの話は、講談社/マガジン側からはいろいろと証言があります。しかし小学館/サンデー側からのそれはほとんど存在しませんでした。

 今回のマンガは小学館側から当時の状況を語ったもので、これは貴重。サンデーに掲載されたことを考えても小学館の公式見解と考えてもいいでしょう。

 ところがちょっと疑問点もあるのですよ。

 まず少年向け週刊誌を発行しようという企画は、サンデーの創刊編集長である豊田亀市が提案したことになってます。トップダウンではなかったと。このあたりは、当時の小学館の内部状況がわからないのでなんとも言えません。

 大きな疑問は、サンデー創刊の理念が「マンガ」週刊誌であったという点。これは今回のマンガ内でくりかえし表明されています。

 でもねー、対する講談社のマガジンは、創刊時にはあくまで「少年向け週刊誌」であって、「少年向けマンガ週刊誌」ではなかったのです。

 これは復刻されたマガジン創刊号を見ればわかることです。創刊時のマガジンは、マンガや小説、スポーツ記事、グラビア、科学記事などを集めた総合週刊誌でした。マンガ部分は総ページの半分もありません。

 しかし今回のマンガによりますと、サンデーのほうは「マンガ週刊誌」をめざしていたと。

 比較してみますと、マガジンのマンガは、高野よしてる、忍一兵(うしおそうじの変名)【追記:これはマチガイだそうです。コメント欄をご覧ください】、山田えいじ、遠藤政治、伊藤章夫。さらに別冊付録に矢野ひろし、水島順。

 対するサンデーの作家が手塚治虫、寺田ヒロオ、藤子不二雄、益子かつみ、横山隆一、山田常夫。たしかに後年に名が残っているビッグネームはサンデーのほうが多い、のではありますが。

 もし創刊編集長の豊田亀市のもくろみが「マンガ」週刊誌をめざしていたとしたら、これはすごく先進的なことですが、ホントにそうなのか。当時の出版状況やマンガの扱いを考えると、やはり疑問が残ります。

 当時は「マンガ」ブームではなく、「週刊誌」ブームだったはずです。各社とも週刊誌を創刊しようといろいろと画策していました。そこにマンガがとりこまれることがあっても、「マンガ中心」という企画がありえたのかどうか。これはあやしい。

 あと気になったのが「やっぱり手塚先生は漫画の神様だ…」というセリフ。1958年の手塚治虫は、まだ神格化されてなかったと思いますよ。

 いっぽう信じてもいいかなと思われる裏話もいろいろと描かれてます。

●少年向け週刊誌の企画は、マガジンよりサンデーのほうが早かった。

 他の文献でも言われていたことですが、サンデー側もこういう認識であることがわかりました。

●サンデーが週刊誌に手塚治虫を確保するため、月刊誌連載を中止する見返りに巨額の原稿料を用意した。

 これは手塚が断って実現しませんでしたが、以前よりウワサされていた話であります。

●連載マンガの穴が開いたときの代用原稿として、石森章太郎や赤塚不二夫の作品が用意されていた。

 これははじめて聞きました。ホントかどうかは不明です。

●創刊競争の結果、同日発売となった。

 発売日については両社トップによる調節があったかもしれないのですが、今回のマンガでは触れられてません。

●マガジンとサンデー、価格競争のため雑誌表紙の価格の部分を空白にしたまま、お互い印刷所で相手の雑誌が印刷されるのを待っていた。

 これも初耳。本作のクライマックスとなってるエピソードですから、おそらくホントなのでしょう。

 というわけで、いろいろと隔靴掻痒の企画マンガでありました。さらに小学館側の証言が出てきてほしいものです。

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March 05, 2009

不条理日記ふたたび『地を這う魚』

 『失踪日記』以来の吾妻ひでお本は、オレンジ色ばっかりになってるわけですが。

     

●『失踪日記』(2005年イースト・プレス)
●『うつうつひでお日記』(2006年角川書店)
●『逃亡日記』(2007年日本文芸社)
●『チョコレート・デリンジャー』(2008年青林工藝舎)
●『うつうつひでお日記DX』(2008年角川文庫)
●『うつうつひでお日記その後』(2008年角川書店)

 『失踪日記』がヒットしたもんで、角川がマネして同じような色で本を出しました。続編と勘違いして手にとってもらいたい、という魂胆が見え見えでしたが、その次の日本文芸社も同じ色調。と思ってたら、さらに青林工藝舎までもこうきたか。各社さま、こうなったらもう吾妻本はオレンジで統一してくださいな。

 で、今回出版された新作も、当然のようにオレンジ色です。

●吾妻ひでお『地を這う魚 ひでおの青春日記』(2009年角川書店、980円+税、amazonbk1

 新刊にも「日記」というタイトルがついてますが、1950年生まれの著者が若き日を回想したマンガ。1960年代末に北海道から上京し、板井れんたろうのアシスタントをしながら、仲間とともにマンガ家をめざす日常を描いています。

 とはいいながら、この世界、マトモではありません。師匠の板井れんたろうは、ウマの姿をしています。友人たちはワニやサイやアリクイ。編集者はコアラやゴリラ。空中には異形の怪物たちが浮遊し、地には魚が這う。地名は「臀部」「畦畔ヶ谷」。建物もクルマもすべてが変形しています。

 ここは異世界。著者の心象フィルターをとおして見た東京です。一時荒れていた吾妻ひでおの絵ですが、本作はすばらしい。すみずみまで気合いがはいってて、絵も線も、色気たっぷりのなまめかしさであります。ヒトコマヒトコマ、ゆっくり読むべし。

 つまりこれは「不条理日記」のスタイルで描いた「まんが道」ですね。いや時代や登場人物たちの感性はもっと新しいので、味わいは「まんが道」より永島慎二「若者たち(黄色い涙)」に似てるかな。ただし「青春」のいらだちや煩悶を直截に描かないのは、吾妻ひでおの個性ですが。

 もちろん半自伝ですから、登場する実在人物の名もすごく興味深いものばかり。傑作。

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March 02, 2009

ハードカバーとか限定版とか豪華版とか

 洋書を買おうとするとき、多くの場合同じ本にハードカバーとペーパーバックの二種類があるわけです。どこが違うかといいますと、表紙がかたくてカバーがかかってるのがハードカバー。ペラ一枚の表紙でカバーなしがぺーパーバック。

 カラーで描かれてるコミックスの場合、どちらも本文の紙質は同じ、内容も同じ、のことが多いです。ペーパーバックでも本文はつるりんとした上質の紙が使われてることがあり、ちがいはホントに表紙部分だけだったりします。

 ただしハードカバーとペーパーバックのページ数が異なるときは要注意。ハードカバーのほうにボーナストラックというかオマケがはいってることもあります。

 内容が同じなら、ハードカバーかぺーぺーバックかは、自分のサイフと相談すればすむのでそんなに迷うわけではありません。

 ところが内容がちがうときが困ってしまう。

 日本で最近増えてきた「初回限定版」というやつ。これってあれですか、CDとか音楽業界で先にやってました? これはいろいろと悩みが多い。なんせあとから手に入らない「限定」ですから。

 先日ウチの子がCLAMPの『DVD付初回限定版 XXXHOLiC 14巻』が欲しいとか言うわけです。25分のアニメDVDが付いて、560円の本が3700円。さらにこのDVD、前編であって完結していない。さらに『ツバサ』のほうでも同じようなことをやってて、『HOLiC』と『ツバサ』、四巻すべてを集めると14800円となるのですな。とほほ。

 これどうよと思いながらも、わたしも似たようなことをすることもあるし、まあしようがないか。というわけで近所の書店に向かったところ、発売日には二、三部見かけたはずのものが、その二日後にはすでになくなってました。じゃあネットで、と思ったら、ネット上の新刊書店ではすでに扱ってないし、アマゾンのマーケットプレイスやヤフーのオークションでは早くも転売屋さんが活動開始してて、定価で売ってるところなんかありません。

 半年待ちなさい、値崩れするから。という説得はコドモには通じません。こらこら転売屋さんを相手にするんじゃない。その翌日、紀伊國屋まで足をのばしましたら平積みにして売ってました。ふー。

 あと浦沢直樹の『PLUTO』ですね。これは通常版と「豪華版」。どこがちがうかというと、本の大きさがちがうのと、パートカラーなのと、オマケがついてる。価格は550円対1400円~1600円。

 1巻のオマケは手塚治虫版『鉄腕アトム 地上最大のロボットの巻』ですが、すでに持ってますし、2巻のオマケは鉄腕アトムシール。これはいらないなあ。というわけで、ここまでは通常版を買ってました。3巻からオマケに過去の浦沢作品が付くようになって、豪華版のほうを買ってます。やっぱ本が大きいのは絵の感じがちがってて捨てがたいですねえ(と、自分を納得させる)。

 でも6巻のオマケ、『月に向って投げろ!』なんかは掲載誌を持ってましたから、ああ失敗したー、とそのあたりを転げ回りました。

 でね、手塚治虫/酒井七馬『完全復刻版 新寶島』(2009年小学館クリエイティブ)であります。

完全復刻版 新寶島 完全復刻版 新寶島 豪華限定版

 同じに見えますが、左が通常版2000円、右が「豪華限定版」7980円。「豪華」で「限定」であります。

 迷ったのですが、わたし通常版を買いました。復刻本+「新寶島読本」、これが紙製の箱にはいってます。

 たけくまメモによりますと、豪華限定版はこれに加えて(1)金ピカ全面箔押しの箱、(2)習作『オヤヂの宝島』、(3)不二書房『タカラジマ』の復刻、(4)未使用の(つまり酒井七馬にボツにされた?)『新寶島』原画の複製、が付いてるそうです。

 ネックだったのが『オヤヂの宝島』。かつて「手塚治虫漫画大全集DVD-ROM」を買ったとき、立派な箱入り単行本『オヤヂの宝島』がオマケになってたんですよー。

 不二書房『タカラジマ』も読んだことあるしなあ。ただクヤシイのが、複製原画です。欲しくはないけど、欲しいわけじゃないけど、見てみたい。

 というわけで、豪華限定版というものは、買っても買わなくても後悔してしまうのでありました。ふんっ。ま、いいんですよ、わたしゃ別にコレクターじゃないもんねっ。←酸っぱいブドウ。

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