まんがは読みたいけど本はいらない『まんが王国の興亡』
中野晴行『まんが王国の興亡 なぜ大手まんが誌は休刊し続けるのか』(2008年イーブックイニシアティブジャパン、500円+税)読みました。えー、新書みたいなタイトルですが、紙の書籍じゃなくて、電子ブックです。こちらで買えます。
●http://www.ebookjapan.jp/shop/special/page.asp?special_id=itv003
いろいろと評判になった『マンガ産業論』(2004年筑摩書房)の続編です。
前作からたった四年経過しただけですが、マンガを取り巻く環境はますますきびしくなっています。その一方で、ケータイマンガがずいぶん売り上げを伸ばしている。
前著から四年後の「今」のマンガビジネスはどのようになっているか、さらに今後はどうなるのか、どうすればいいのか、を論じた本。
内容は三部に別れてまして、第一部「まんが史クロニクル」は、『マンガ産業論』のおさらい。
しかし以下のような指摘をあらためて読むと、マンガというくくりでも文化とビジネスは切り離せないんだなあと。
●1973年第一次オイルショック→紙の価格の高騰→雑誌の減ページ→雑誌の広告収入の減収→単行本の重視→自社の雑誌で連載したマンガは自社で単行本化するようになる。
というわけで、雑誌は赤字でもよりも単行本で稼ぐ、というその後、現在まで続くマンガビジネスモデルは、オイルショック以来のものだったのですね。
たしかに、小学館が「少年サンデーコミックス」をスタートさせ、少年サンデーのマンガを単行本化し始めたのは1974年6月でした。そうか、あれはオイルショックのせいだったのか。そういえば、初期の少年サンデーコミックスのカバーの紙質は悪かったよなあ。
第二部「現代まんが市場のしくみ」は、まさに「今」のマンガビジネスのレポート。で、第三部「まんが産業の未来予想図」、これが本書の最大の読ませどころです。
まず、今後のマンガビジネスの具体的な打開策として提言がふたつ。シンクタンクを作ろう、エージェントを作ろう、という提案は新鮮。著者のいうシンクタンクとは、(1)マンガ産業の調査・研究とその公開、(2)企業と契約しての調査・分析・提言、(3)さらに政策への関与を目的とするものですが、これ、もしできたらほんとに魅力的だなあ。
エージェントについては竹熊健太郎氏のブログ「たけくまメモ」でも提案されていました。
●マンガ界崩壊を止めるためには(3)(4)(5)(6)(補足)
ただし本書での「エージェント」は、竹熊氏の理想とするマンガ・プロデューサーよりもっと限定的な仕事が考えられており、創作にはタッチしません。創作内容にまで踏み込む日本型エージェントではなく、アメリカの作家と契約するリテラリ・エージェントのような存在の提案です。
こちらには交渉、渉外に特化した役割を持たせています。著者は竹熊氏よりもマンガのコンテンツビジネス展開を重要視しているので、このような考えかたになるのでしょう。わたしにはどちらが現実的かわかりませんが、日本でもたとえば、石森プロとして仕事を受け、石森プロ作品としてスタッフが作品をつくる、というこれらに近い例もありますから、可能性があるのじゃないでしょうか。
そして本書に最後に書かれているのが、デジタルマンガの可能性についてです。これが本エントリのタイトルにあげた、「まんがは読みたいけど本はいらない」という言葉。こう考えてるひとがどんどん増えていると。
ここまではっきり書かれると、本好きとしては衝撃的でした。
たしかに読んだ雑誌は捨てられます。全盛期も今も、何百万部という少年ジャンプがほとんど全部、いっせいに捨てられているのです。これは地球にもやさしくない。わたしは一応「漫棚」を名のっていますが、基本的に雑誌は捨てます。単行本にしても、本好きのひとであるならあるほど、置く場所に困ることになります。
著者はいずれデジタルマンガが普及し、紙の雑誌はなくなりウェブに移行し、本としては豪華な書籍が残るであろうと予測しています。安価なウェブ、高価な本、という二極化ですね。まさに、とり・みき/田北鑑生のマンガ『DAI-HONYA』の世界ですなあ。
先行する音楽の世界では、CDやレコードというパッケージを買うのではなく、デジタルの曲を買う、というスタイルが定着しつつあります。マンガもいずれそうなるのか。
そして著者は、デジタルマンガには新しいデジタルマンガの文法が出現するだろうと、文化的側面についても希望を持っています。
ううーん、ここまでドラスチックな変化が、もうそこまで来てるのか。いろいろと考えさせられる本(というか、電子ブック)でした。
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Comments
はじめまして。
当電子書籍の企画担当者の者です。
書評をご掲載いただきどうもありがとうございました。
とり・みきさんの『DAI-HONYA』の存在を知らなかったのでとても参考になりました。
実は、当企画は「まんがは読みたいけど本はいらない」という読者ニーズの検証実験でもありました。
中野さんご自身が書いていらっしゃる今後のデジタルモデルを電子書籍先行配信によって検証してみるというのが当企画目的のひとつでもありました。
デジタルマンガや電子書籍をウェブ連載→ウェブ先行配信→マーケット分析後にやや高価な本として国内外で書籍出版、という形に移行していくための先行実験です。
書店数減や製本価格高騰により、こうしたニッチジャンルの専門書の書店配本状況はジャンル全体でおそらく全国500店舗前後、初回2000部~最大5000部と採算的にかなり厳しくなってきている状況です。
ただし、電子書籍のデメリットとして、書店委託配本による店頭発売告知ができない点があるため、情報サイトやブログ書評による口コミプロモーションでどこまで発売認知ができるのかという検証課題がありました。
今回、読者ニーズさえあればウェブでも十分に有料販売可能ということが検証できましたので、今後はウェブで無料連載後にアクセス数などを分析しつつ電子書籍先行販売、という新しいモデルが普及していくことを願っています。
あとは、中野さんが本書で言及されているように、新しいモデルならではの新しい表現を期待していきたいと思っています。
Posted by: ebi | January 25, 2009 12:12 PM