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January 07, 2009

本がなくなる未来『ダイホンヤ』『ラスト・ブックマン』

 前エントリで、「本」がなくなる時代がもうそこまできてる、かもしれないと書きましたが、これを予言した傑作マンガ。旧作ですが。

●とり・みき/田北鑑生『ダイホンヤ DAI-HONYA 』(2002年早川書房、1500円+税、amazonbk1
●とり・みき/田北鑑生『ラスト・ブックマン THE LAST BOOK MAN 』(2002年早川書房、1400円+税、amazonbk1

 

 えー、まず書誌的なことを書きますと、『ダイホンヤ』は、「月刊アスキーコミック」(月刊コミックビームの前身ですな)1992年8月号から1993年9月号に連載、1993年にアスキーから単行本化されました。

 『ラスト・ブックマン』はその続編。「月刊コミックトムプラス」(あーこれも今はない)2000年7月号から2001年4月号に連載。2002年に早川書房から単行本化。そのとき『ダイホンヤ』も早川書房から新装刊されました。

 さて『ダイホンヤ』、書影で気づくひともいるかもしれませんが、タイトルは映画「ダイハード」のもじりであります。そしてマンガの最初に登場するのが「幕張」のコミケ会場。前世紀のマンガですねー。でもこの本が今も現役で買えるのはすばらしいことです。

 199X年のコミケ会場がテロで爆破されるのがプロローグ。そして、20XX年、ひとつの超巨大ビルがまるごと本屋という超巨大書店文鳥堂。年末クリスマス商戦のさなか、そこを訪れたのは文部省直属第一級書店管理官・紙魚図青春(しみずせいしゅん)でありました。

 この時代、書店内の犯罪を防ぐため、書店管理官は武器の携行を許されています。深夜、書店をねらうテロリストグループがビルに侵入。閉ざされた空間内で、紙魚図と彼らとの戦いが始まる!

 とまあ、ダイハード第一作のごときアクションマンガなのですが、同時に一ページにどれだけたくさんのギャグを詰め込めるかという実験をおこなった、超絶的なギャグマンガでもあるのです。

 そしてこのマンガの世界観。21世紀初め、コンピューター・ネットワークの発達と地球的な森林資源の不足のため、活字文化は衰退してしまうおそれがありました。このため国は「書店法」を制定し、弱体化した出版社や書店を保護することになります。しかしこのため大資本が介入し、町の小さな本屋はつぶれ、巨大書店だけが生き残る。

 マルチメディア時代となり、「本」には「読む」こと以外の価値があたえられるようになります。「いまや本はステイタスであり信仰であり美術品でありインテリアであり、マニアックな読書家にはドラッグでありそうでない者には投機の対象であり…」 いっぽうで本を買わずに立ち読みで情報だけ盗んで、それをネットに流したり売ったりする犯罪者もいる。さらに悪書追放運動はあいかわらずだし、本を自然破壊としてエコロジー関係からは敵視される。

 マンガが描かれた16年前より、著者が予言した未来はますます現実化してるじゃないですか。

 小さな書店は減少して大資本の巨大書店が登場。消費者は書棚に本をコレクションして悦に入る。平積みの上から三番目の本を抜く。読書用と保存用に二冊買う。読まずに売ったり買ったり。アマゾンにはとんでもない古書値段をつけた本が出品される。同人誌は先鋭化。いっぽうで本は読まずにネットですませるだけの連中もいっぱい。

 さらにネット上には違法なブツ(小説もマンガもアニメも)があふれています。先日、ネット上でマンガ4万冊のデジタルデータをコレクションしたというかたからメールをいただき、その話にぶっとびました。

 とまあ『ダイホンヤ』は、近未来SFアクションギャグマンガの傑作であり、予言の書でもあったわけです。

*****

 『ラスト・ブックマン』になりますと、時代はもっと進んでいます。

 今度は西部劇。紙魚図青春は、かつて自分が働いていた荒野にたつ小さな書店を訪れます。そこへあらゆる書物の情報を独占しようとする、情報ネットワーク企業が襲ってきます。主人公は映画「シェーン」のごとく彼らに立ち向かう。

 すでに全世界の書店はつぎつぎと消えていってる。すでにヨーロッパに残った書店は三軒だけです。「本」はすでに好事家向けの工芸品か、いくつかのパターンをコンピュータで組み合わせるだけの自販機本(おお、ハーレクインかケータイ小説か)となっている。

 「本」文化は絶滅寸前です。主人公・紙魚図の言葉。

「確かに俺がジタバタしたところで結局は本というものは消えていく運命にあるのかもしれない」「そういう意味では俺は風車に挑むドン・キホーテみたいなもんさ」「たぶん俺は人よりちょっとだけ本が好きなんだよ」

 すべての本好きは読め。そして泣け。

 『ダイホンヤ』も『ラスト・ブックマン』も、発売された当時より、今読んだほうが身にしみる作品になってしまいました。

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