自虐ネタ爆裂『がんばれ!猫山先生』
医療マンガはすでにジャンルとして確立されてますが、やはり元祖は、手塚治虫の『きりひと賛歌』と『ブラック・ジャック』でしょう。これに続く医療マンガのほとんどは、もちろん熱血でヒューマンなものばかり。
で、そういうのとはちょっと違うのがこれ。
●茨木保『がんばれ!猫山先生』1巻(2008年医事新報社、952円+税、amazon、bk1)
主人公は民間病院に勤める内科の猫山先生と、産婦人科の奈良野シカオ先生。「日本医事新報」という医療従事者向けの情報誌に連載された四コママンガです。
読者は内輪ばっかりのはずなので、ヒューマンな医療ドラマでもなく、医療崩壊を大上段に憂えるのでもなく、あるあるネタを中心に、医師の日常をゆるい笑いをまじえて描いたマンガ。
のはずだったのでしょうが、これが日本の医療環境の悪化とともに、自虐ネタばかりが爆裂していきます。
産婦人科医の奈良野先生は、勤務先の病院が産科を閉めてしまうのをきっかけに、開業。ところが悪徳業者にだまされるわ、患者は集まらないわ、ライバル医院は開院するわで、経営は火の車。開業医なのに他の病院の夜間当直アルバイトをしなきゃ、やっていけない。
奈良野先生の顔がどんどん暗くなっていくのが、ブキミです。医院の経営に協力しようとする子どもたちがケナゲ。
いっぽう内科の猫山先生、こちらも病院の経営改善のためリストラされそうになったりして、煮つまってきます。というわけで開業を決心するのですが、ここにも悪徳業者の魔の手が。
というところで以下続刊。たしかにムチャおもしろいのですが、ここまで自虐的なマンガもめずらしいぞ。
どういう感じのマンガか、医療系有名ブログ、NATROM先生のところで紹介されてますので、どうぞ。
著者は現役の婦人科開業医です。マンガ家としては1989年にヤングジャンプ増刊でデビュー。『Dr.コトー診療所』の医学監修・作画資料も担当されてるそうです。現在、医療系雑誌にマンガ連載をなんと三本も持ってる、その筋ではかなり売れっ子のセンセですね。
著者自身が二年前に勤務医をやめて開業してますから、奈良野先生の話は実話に近いのかしら? ちょっと心配になるなあ。
著者は医学史に関する学習マンガも描いてます。こっちもそうとうにいいデキでして、読みやすいうえにおもしろくてためになる。興味のあるかたは手にとって損はないです。
Comments
ちょうどこの連載が始まった頃、機会があって医事新報を毎号読んでおりましたので、結構楽しみしてました。まさか単行本になるとは思いませんでしたが。
掲載誌の欄外にあったアオリでは、著者はちょうど奈良野先生と同じ時期に個人開業をしたものの、「患者一桁の日が多い」「貯金を食いつぶす日々」などと近況が描かれていたと記憶しております。かなり実体験が反映されているようです。
Posted by: Ishi | December 19, 2008 02:40 AM
親戚の医者に見せてあげようと。両者まとめて(ここのアマゾン紹介から)買いました。
アマゾンで漫画を買うのは初めてだ…
医学史は村上もとか「JIN-仁-」
みなもと太郎「風雲児たち」
そして手塚治虫「陽だまりの樹」と
比較しながら読み比べるのが楽しみです。
Posted by: Gryphon | December 16, 2008 01:31 AM
ちょうどこの本、今日、買ったところです。
これから読みます!!
Posted by: ひざげり | December 14, 2008 06:48 PM
自己レス。そういえば医師が主人公の古いマンガに、ちばてつや『ハチのす大将』という熱血医療マンガがありましたね。連載としては『ちかいの魔球』と『紫電改のタカ』の間になります。映画の若大将シリーズみたいで、好きだったなあ。
Posted by: 漫棚通信 | December 13, 2008 10:28 PM
なるほど、医療コメディですね。そういえば『ののちゃん』に出てくる広岡先生も医療コメディか。
Posted by: 漫棚通信 | December 13, 2008 10:17 PM
>医療マンガのほとんどは、もちろん熱血でヒューマンなものばかり。
TONO氏の『犬童医院繁盛記』は医療ギャグマンガです.
「眠れぬ夜の奇妙な話コミックス」で3冊,「ソノラマコミック文庫」で2冊が刊行されています.
『犬童医院~』はできれば継続して書きついでほしい,とわたくしはおもっています.TONO氏の作品も,もっとひろく知られてほしいので,お知らせをかねてカキコミさせていただきました.
Posted by: ひでかず | December 13, 2008 09:11 PM