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December 09, 2008

マンガのベストテンというのは

 『このマンガがすごい!2009』(2008年宝島社、552円+税、amazonbk1)をやっと手に入れました。

 ベストテン以外にも読ませる記事がいろいろとあって、楽しい仕上がりの本になってますね。本家の『このミステリーがすごい!』のつくりが年々ジミになってる印象なのと対照的。

 ただしマンガ周辺の状況(雑誌の創廃刊とか、売り上げとか、いろんなスキャンダルとか)をまったくスルーしてるのが、年末にでる本=ある種の年鑑としてはちょっとものたりないかな。ま、そういうことは扱わないブックガイド、というポリシーでつくられてるのでしょうけど。

 今年の個人的な興味は、すっごい売れたらしい中村光『聖☆おにいさん』と、最近評価が上昇しつつあるツジトモ/綱本将也『GIANT KILLING』が、どのあたりに食い込んでくるか、というところだったのですが、『聖☆おにいさん』がぶっちぎりの第一位とはこりゃおどろいた。昨年の『ハチワンダイバー』にもおどろきましたが、いや最近はわたしの予想外ばかりです。

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 しかしあれですな、毎年この季節になりますと、自分が参加してるわけじゃないけどこういうマンガの人気投票はムズカシイものだと思いますね。

 あたりまえですが、『このミステリーがすごい!』なら、対象となる作品は一年間に刊行された単行本で、すべて完結してます。ミステリーをお話の途中で評価することはありえない。そしてそれぞれの作品は翌年には投票の対象外となります。

 映画賞ならその年に公開された作品が対象。ですから年末ベストテン=その年の最も優れた作品を選ぶことになります。数年にわたる三部作、なんてのもありますが、それぞれを別作品と考えるのが慣習です。

 ところがマンガのベストテンは、連載中の作品が対象にされることがほとんど。多くの作品が数年間にわたって連載されてます。去年はおもしろかったけど今年はもうひとつで、さらに来年は盛り返した、なんてことがあるかもしれないけど、それは長編作品としての山や谷でしょう。

 ですから『ハチクロ』や『よつばと!』が、毎年ベストテンに顔を出すことになります。

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 だったら完結した作品だけを対象に、というわけにもいかないのですね。花咲アキラ/雁屋哲『美味しんぼ』は今年暫定的に完結しましたが、こういう大長編マンガになると、とっくに旬は過ぎている。

 たしかに名作だし大ヒットしましたが、年末のベストテン本で今、積極的には推しにくいでしょ。これは「今」を象徴するマンガではなくなってますし。

 望月峯太郎『万祝』が美しい大団円を迎えたのも今年ですが、このウェルメイドな傑作も、完結してからは票を集めないのですねえ。森恒二『ホーリーランド』も、花沢健吾『ボーイズ・オン・ザ・ラン』も、今年終わったんだよう。みんな完結後の作品には冷たい。

 さらにみなもと太郎『風雲児たち幕末編』みたいな傑作でも、いつ終わるともしれない作品となるとどの年に投票すればいいのやら。

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 どうもマンガのベストテンの場合、先物買いしておこうという意識がはたらいてるみたいです。

 象徴的なのが、今年のオンナ編のトップスリー。小玉ユキ『坂道のアポロン』、くらもちふさこ『駅から5分』、末次由紀『ちはやふる』、どれもぜんぶ発売されてるのが2巻まで。みんな早いよー。

 わたし自身としては、『坂道のアポロン』は期待作ではありますが、現段階なら同じ作者の『光の海』の完成度を買います。アポロンの物語は、まだ序盤なのじゃないのか。

 対して『駅から5分』はその実験的な構成がキモみたいなところがありますから、2巻までで評価してもいいかな、なんて思ったり。

 『ちはやふる』も傑作の予感がしますが、まだ高校でメンバーを集めてる段階じゃないですか。

 またこうの史代『この世界の片隅に』は、全三巻の予定で二巻までしか刊行されてません。もう少しで完結するはずなんだから、今年この作品に投票するのは、紙屋さーん、フライングだぞー。

 でも『聖☆おにいさん』はどこから読んでもいいはずのギャグマンガ。1巻だけで評価しても問題なし、みたいな。

 どの段階で推すのかは、作品にもよりますね。

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 結局マンガの年末ベストテンは、その年の最も優れた作品を選んでるというより、選者たちによる、これをオススメしたいっ、という主張の表明なんですね。

 「賞」じゃなくてお祭りの人気投票なんだから、楽しんでいろんなマンガを教えてもらいましょう。

 ちなみのわたしの今年のベストは、これだっ。

●丸尾末広/江戸川乱歩『パノラマ島綺譚』(2008年エンターブレイン、980円+税、amazonbk1

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Comments

>パノラマ島
ね、いいですよね。
ぼくも、ベスト6で選びました!

大量には読めてないぼくですが…。

Posted by: 長谷邦夫 | December 10, 2008 12:08 AM

単純な興味ですが、
漫棚さんはこのガイドの「投票者になってくれ」とかの依頼は無いのでしょうか。
もし、そういう依頼があったらどうされますか?

Posted by: Gryphon | December 10, 2008 07:30 AM

もしチャンスがもらえるならこういう人気投票には参加してみたいですねー。でも読んでるマンガの総量が少なすぎるかも。今年はオトコ編トップ20中8割、オンナ編トップ20中6割を読んでました。

Posted by: 漫棚通信 | December 10, 2008 01:21 PM

>どうもマンガのベストテンの場合、先物買い
> しておこうという意識がはたらいてるみたいです。

そこにはおそらく、面白いマンガの連載が打ち切られることに対する危機感があるのではないでしょうか?

ところで、私が今年の作品のベストに選びたいのは、この夏webアクションで連載が完結した『ガチ博士のヤンキーラボラトリー』

http://www.futabasha.co.jp/wm/wm_yrabo.html
(双葉社のサイト上で読めます)

サイエンスをテーマにしたギャグマンガですが、特に41話から最終話では、これがネタの域を超え、
学ぶことの喜びまでをも描いて、もはや学習マンガが(本来)目指すべき頂にも到達した、
スケールの大きな作品ではないかと思うのですが、
連載終了はwebアクションの規模縮小にともなう打ち切りだったらしい。
これだけクオリティが高くてwebで読めれば、正直みんな読んでいると思ってましたが、
どうやら全然そんなことはなかったようです。
単行本も2巻以降の刊行は絶望的とのこと。

面白い!と思ったらすぐに反応しておかないといけなかったんですね……

Posted by: idiot-i | December 10, 2008 11:34 PM

先物買いというよりも、地味ながらも勢いがあってこれから伸びそうな作品にスポットをあてて紹介するってのがこういう雑誌の始まりでは。

「この漫画いいよ!一度よんでみて」というのはファンになった読者ならあると思います。

そもそもメジャーになってしまっているのは、あえていまさら一押しする必要がないからですね。

Posted by: もけ | December 13, 2008 07:02 PM

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