オールタイムベスト『ストップ!にいちゃん』
マンガショップで先々月から刊行が開始されていた『ストップ!にいちゃん』が、ついに全9巻で完結。
●関谷ひさし『ストップ!にいちゃん』全9巻(2008年マンガショップ/パンローリング、各1800円+税、amazon、bk1)
マンガショップからは最近ビッグタイトルの復刊が多いのですが、まさに真打ち登場。
昔の作品はノスタルジーやお勉強として読むのはオッケーとしても、今の目から見て実際のところどうよ、という部分がどうしてもあります。しかしこの『ストップ!にいちゃん』は今読んでもおもしろい、万人にオススメできる傑作。オールタイムベストクラスの作品です。
光文社の雑誌「少年」に、1962年から雑誌が休刊する1968年まで連載された看板作品です。かつて1968年から1970年にかけて虫プロから全13巻で発売されたことがあります。子ども時代に雑誌で読み、単行本を全巻そろえてくり返し読んでたわたしが断言しますが、おもしろいっ。
主人公の南郷勇一は中学の野球部キャプテン。スポーツ万能の正義漢ですが、おっちょこちょいで猪突猛進、ねんじゅう暴走しています。それを「ストップ!」とおさえるのが弟の賢二と、気の強いガールフレンド、サチコ。
スーパーマンだけど「よい子」じゃない主人公、かけ合い漫才のようなセンスのいい笑えるダイアログ、などの魅力に加えて、なんつっても読者を引きつけたのは、びっくりするほど多彩な題材。
勇一は野球以外にもボクシング、剣道、柔道、空手、サッカーといろんなスポーツで大活躍。こう種目を並べると、ちばてつや『ハリスの旋風』とそっくりでしょ。『ストップ!にいちゃん』は、後年の学園マンガの先駆でありました。
ただし勇一の活躍が学園内にとどまらないのがこのマンガの魅力です。水泳やスキーも得意、オートバイやゴーカートも乗りこなし、ギャングやスパイ、金星人相手の活躍も。さらにはハワイ旅行までしちゃったり(連載中の1964年に海外旅行が自由化されたのですな)。
なんでもやる、どこへでも行くという破天荒なところが、生活マンガにとどまらないマンガ本来のおもしろさ。こういう精神が現在の『こち亀』にも受け継がれているのです。
どの巻を読んでもすべて楽しいのですが、最終9巻(三学期下巻)にはちょっとしたオマケがあります。連載終了10年後、1977年秋田書店の雑誌「プレイコミック」に掲載された「帰ってきたストップ!にいちゃん」。
当時「プレイコミック」が名作マンガの続編シリーズというのを企画してまして、『宇宙戦艦ヤマト』とか『伊賀の影丸』『サブマリン707』『まぼろし探偵』なども続編が描かれました。
現在の続編ブームみたいに後日談というわけじゃなくて、シリーズの中の一篇を描く、というコンセプト。『ストップ!にいちゃん』も「黒の応援団」というタイトルの新作でした。どおくまん『嗚呼!!花の応援団』が人気だったころの作品でありました。
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Comments
いや、懐かしい!ストップ!にいちゃんのホームページがあるなんて。このコミック、凄く面白くて中1のとき大人買いしました・・・といっても、貸本屋さんに無理言って譲ってもらったものですが(笑)当時、1,300円で全13巻を譲ってもらいました。
スポーツ万能なのにおっちょこちょいの勇一くん、ギャグ漫画として読んですごく面白かったです。そして、隣に住むガールフレンドのサチコさんの存在が羨ましかったのを覚えています。
コミックは不覚にも無くしてしまったのが残念です。もう一度読んでみたいマンガです。
Posted by: 三宅達也 | December 01, 2012 10:23 PM
ありゃりゃ、夏目房之介さんの本に博報堂とあったので、ずっとそうと思っていたんですがね。あちこちで言いふらしてしまい、大恥ですね。柏鵬堂だと、なるほど時代を考えれば納得です。
Posted by: 藤岡真 | November 25, 2008 05:35 PM
按摩は博報堂ではありません。当時の人気力士柏戸と大鵬から取った柏鵬堂です。双葉社から遺作『侍っ子』も出ています。いしかわじゅん氏が解説しています。ユーモアのセンスは少し古いと思いますが、線が枯れていません。80歳であの絵が描けるなんて、すごいです。
Posted by: misao | November 25, 2008 09:19 AM
無敵の南郷勇一が、唯一苦手にしていた按摩が、博報堂というのです。後年その名の会社に入社するとは夢にも思いませんでした。
プロ野球のスーパースター銀田投手からホームランを打って自信喪失させたエピソードなんか、銀田がよろよろと膝を付くカットまで、鮮明に覚えております。『帰ってきたストップ! 兄ちゃん』もリアルタイムで読みましたが、連載終了は十年前だったのですね。はるか昔だ思っておりました。
Posted by: 藤岡真 | November 24, 2008 07:14 PM
不思議です。
生まれる前の作品なのに、幼年雑誌で読んだ記憶があります。しかも連載だったような気が。
テレビマガジン、テレビランド、テレビくんとか冒険王…コロコロ?あたりで再録されていたのでしょうか。
とにかくこの機会に手元に揃えておきたいです。
Posted by: inuneko | November 23, 2008 05:01 AM