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November 28, 2008

頭だけじゃなく手も

 特殊職業ものというジャンル(?)があります。あなたの知らないいろいろな職業を、マンガで紹介してくれるわけですな。

 ハデなパフォーマンスが可能な職業(消防士とか弁護士とか医師とか料理人)はもちろんマンガになりやすいのですが、ご近所の鉄工所が舞台ならどうなるか。マンガになるのか? 

●野村宗弘『とろける鉄工所』1巻(2008年講談社、580円+税、amazonbk1

 これがりっぱにマンガになるのですね。

 登場人物は広島の「のろ鉄工所」につとめるひとびと。彼らの仕事は「溶接」です。で、これがいかに熟練の技を要するか、危険と隣り合わせか、をゆるーい笑いとともに描いたマンガ。

 「とろける」とは溶接の火でもって、鉄やら皮膚やらが焼けることらしいです。コワいです。でも男らしいぞ。

 このマンガのどこがすばらしいかというと、登場人物がある技術を持ちたいと望み、技術を持っているひとを尊敬するという態度。これが読者を(ちょっと)感動させます。

 何らかの技術を持っている、しかも熟練者は、かっこいい。おそらくヒトがヒトであるならば、原初より持っているはずの意識です。これは地方の鉄工所でも同じのはず。


 で、方向性はまったく違うように見えるのですが、実は根っこで通じてるんじゃないか、と思われるのがこれ。

●今井哲也『ハックス!』1巻(2008年講談社、552円+税、amazonbk1

 こっちは高校アニメ部に入部したおねーちゃんが、どんどんアニメーション技術を習得して成長していく話(?)らしい。

 技術を習得してうまくなりたい、という気持ちは、溶接もアニメも同じなのじゃないかしら。

 頭で考えるだけじゃなくて、実際に手を動かして仕事するひとびとこそ、尊い。技術を尊敬する態度、これを忘れたくないものであります。

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November 26, 2008

トテカワY氏に対するお詫び

 昨2007年、わたしが盗作騒動で唐沢俊一氏ともめていたとき(まあ今も円満解決したわけではないのですが)、途中から唐沢氏はママのスカートの陰に隠れてしまい連絡が取れなくなってしまいました。その代わりわたしとの交渉の窓口になっていたのは、唐沢氏の日記に「トテカワYさん」として登場する幻冬舎の編集者Y氏でした。唐沢氏によりますと「トテカワ」とは「トテモカワイイ」の略だそうです。

 幻冬舎および唐沢氏との交渉が決裂してから唐沢氏の日記をチェックすることもやめてしまっておりましたが、本日2ちゃんねるを覗いてみますと、トテカワY氏は本年四月に幻冬舎から朝日新聞出版社に移動されていたようです。まったく知りませんでした。

 もしわたしと唐沢氏とのトラブルがトテカワY氏の転職の原因になったとしたら、トテカワY氏にはまことに申し訳ないことをしました。トラブルの原因はすべて唐沢俊一氏にあり、トテカワY氏には何の非もありません。

 当時わたしはトテカワY氏を交渉相手としていろいろとメールをお送りしていましたが、もしかしたら文章を書かれていたのは幻冬舎の法務担当のかたかもしれず、わたしのメールには失礼な表現も多々あったと思います。当時はわたしも頭に血がのぼっておりました。トテカワY氏にはお詫び申し上げます。

 本来ならば個人的にお詫びのメールをお送りするところですが、わたしの知っているのは幻冬舎のメールアドレスだけですので、すでにご連絡できなくなっていることになります。この場を借りてあらためてお詫び申し上げます。

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November 25, 2008

関谷ひさしの新作『侍っ子』

 昨日仕事帰りに書店によって、この本発見。

●関谷ひさし『侍っ子』(2008年双葉社、1800円+税、amazonbk1

 関谷ひさしは本年二月に80歳で亡くなられましたが、これは完全新作の長編。二百十数ページあります。著者70代の時期にかなりの時間をかけて描かれたものだそうです。

 実際、このマンガはすごい。何といっても驚いたのはその絵です。

 関谷ひさしの絵は1960年代後半が全盛期、『ストップ!にいちゃん』の後期で完成された、と思ってました。1970年代にはいって対象とする読者年齢を上げて描かれた作品は、無理にラフに描こうとした感じで、かなりキツかったです。リイドコミックに掲載された作品とかね。

 実はこの本が出版されるという話を聞いて、これもそういうタッチじゃないかとちょっと心配しておったのですが、これがまあすばらしい絵でした。

 1960年後半より、むしろていねいに描いてます。しかも線に迷いがなく、描き込みもきっちりされています。少しも枯れることなくみずみずしい絵。

 キャラクターも、主人公の「侍っ子」の「かわいさ」は、おそらく関谷マンガのなかでも最高レベルじゃないでしょうか。これが80歳前の人間の絵とは信じられない思いです。人生の最終局面でこれほどの完成度の絵と作品が描けるとは。

 出版に尽力したのが畑中純。解説はいしかわじゅんと夢枕獏ですが、いしかわは年をとったとき自分はこのレベルの作品を描けるかと自問し、夢枕も死ぬときはかくありたいと憧憬するほどのできです。

 じつにけっこうなものを見せていただきました。これはもう眼福でありました。

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November 22, 2008

オールタイムベスト『ストップ!にいちゃん』

 マンガショップで先々月から刊行が開始されていた『ストップ!にいちゃん』が、ついに全9巻で完結。

●関谷ひさし『ストップ!にいちゃん』全9巻(2008年マンガショップ/パンローリング、各1800円+税、amazonbk1

        

 マンガショップからは最近ビッグタイトルの復刊が多いのですが、まさに真打ち登場。

 昔の作品はノスタルジーやお勉強として読むのはオッケーとしても、今の目から見て実際のところどうよ、という部分がどうしてもあります。しかしこの『ストップ!にいちゃん』は今読んでもおもしろい、万人にオススメできる傑作。オールタイムベストクラスの作品です。
 
 光文社の雑誌「少年」に、1962年から雑誌が休刊する1968年まで連載された看板作品です。かつて1968年から1970年にかけて虫プロから全13巻で発売されたことがあります。子ども時代に雑誌で読み、単行本を全巻そろえてくり返し読んでたわたしが断言しますが、おもしろいっ。

 主人公の南郷勇一は中学の野球部キャプテン。スポーツ万能の正義漢ですが、おっちょこちょいで猪突猛進、ねんじゅう暴走しています。それを「ストップ!」とおさえるのが弟の賢二と、気の強いガールフレンド、サチコ。

 スーパーマンだけど「よい子」じゃない主人公、かけ合い漫才のようなセンスのいい笑えるダイアログ、などの魅力に加えて、なんつっても読者を引きつけたのは、びっくりするほど多彩な題材。

 勇一は野球以外にもボクシング、剣道、柔道、空手、サッカーといろんなスポーツで大活躍。こう種目を並べると、ちばてつや『ハリスの旋風』とそっくりでしょ。『ストップ!にいちゃん』は、後年の学園マンガの先駆でありました。

 ただし勇一の活躍が学園内にとどまらないのがこのマンガの魅力です。水泳やスキーも得意、オートバイやゴーカートも乗りこなし、ギャングやスパイ、金星人相手の活躍も。さらにはハワイ旅行までしちゃったり(連載中の1964年に海外旅行が自由化されたのですな)。

 なんでもやる、どこへでも行くという破天荒なところが、生活マンガにとどまらないマンガ本来のおもしろさ。こういう精神が現在の『こち亀』にも受け継がれているのです。

 どの巻を読んでもすべて楽しいのですが、最終9巻(三学期下巻)にはちょっとしたオマケがあります。連載終了10年後、1977年秋田書店の雑誌「プレイコミック」に掲載された「帰ってきたストップ!にいちゃん」。

 当時「プレイコミック」が名作マンガの続編シリーズというのを企画してまして、『宇宙戦艦ヤマト』とか『伊賀の影丸』『サブマリン707』『まぼろし探偵』なども続編が描かれました。

 現在の続編ブームみたいに後日談というわけじゃなくて、シリーズの中の一篇を描く、というコンセプト。『ストップ!にいちゃん』も「黒の応援団」というタイトルの新作でした。どおくまん『嗚呼!!花の応援団』が人気だったころの作品でありました。

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November 19, 2008

まだ買える20年前のバットマン本

 20年近く前に出版されたこういう本がありまして。

●『THE GREATEST BATMAN STORIES EVER TOLD 日本語版』(1989年近代映画社、1748円+税、amazonbk1

BATMANオリジナル・コミック日本語版

 表紙やカバーに書かれたタイトルは上記ですが、奥付は『BATMAN オリジナル・コミック日本語版』となってます。ネット書店などにはこちらで登録されてることが多いです。

 1989年といえば、ティム・バートンの映画「バットマン」が公開された年です。近代映画社というアメコミにしてはちょっと変わったところから出されたこの本も、その線で出版されたもの。当時は映画のストーリーをコミカライズしたアメコミの邦訳を、旧中央公論社が発売したりもしてました。

 『THE GREATEST BATMAN STORIES EVER TOLD 日本語版』はじつにけっこうな本でして、原著は1988年にDCから同名タイトルで出版されたもの。1939年ボブ・ケインが描いたバットマン第一作に始まり、1983年の作品まで、計26作のアメコミ版バットマンを読むことができます。

 かっこいい作品やら、珍品やらさまざまでして、アメコミのバリエーションの多さというか迷走というか、そういうのが楽しめる作品集。最近のコンピューター彩色が導入される前のハデハデしい四色カラーは、アメコミの原点を堪能することができます。

 日本語版はハードカバー、343ページのりっぱなもの。紙はざらっとしたタイプでかすかに黄色っぽく、かつてのアメコミが印刷されてた紙に似てて、それも味です。解説や作家紹介は、原著のものをそのまま訳しただけなのでしょうが、ここも読みごたえあり。

 で、この本、10年くらい前に書店で見かけて、うわぁ、まだ売ってたんだと驚いたのですが、さっき調べてみたら現在も、アマゾンでもビーケーワンでもジュンク堂でも、普通に現役で買えるみたいです。当時と同じ価格で(消費税だけはかつての3%から5%になりました)。

 20年もたってるのにこれはびっくり。というか、日本じゃどれだけアメコミは売れないんだ、という話になるかもしれませんが。

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November 16, 2008

作家は変身する『神戸在住』『巨娘』『からん』

 講談社の新雑誌「good!アフタヌーン」は読んでて楽しかったです。それにしても付録のフィギュア、上着が着せにくいったらなくて、あれは無理でしょう。ウチでもなんとか組み立てようとしましたが、結局、右腕がぽっきり折れちゃいました。一応ボンドでくっつけてますが。

 新雑誌の中でもやたらとおもしろかったのが木村紺『巨娘』。あれれ、このひと『神戸在住』のひとだよね。

●木村紺『神戸在住』全10巻(1999年~2008年講談社、457円~514円+税、amazonbk1

 『神戸在住』は神戸を舞台にしたしっとり系女子学生日常活写マンガ。マンガで震災をきちんと描いた、という点でも歴史に残る作品でしょう。

 その作者が、こんなつきぬけたギャグを描いてたのかっ。しまった、単行本が昨年末に出てる。出遅れました。

●木村紺『巨娘』1巻(2007年講談社、514円+税、amazonbk1

 連載一回が30ページと長いコメディ。昔ならストーリーギャグと呼ばれたかしら。

 主人公のジョーさん(♀)は身長181cmの巨娘(きょむすめ)。焼き鳥店の店長をしてます。体もでかいが態度もでかい、乱暴者の正義漢、力は強いしケンカも強い。歩く姿はまさにゴジラ。

 いや笑った笑った。

 キャラクターのバックグラウンドを徹底的に書きこむのが作者の得意技ですから、『巨娘』でもその線でストーリーが組み立てられてます。

 規格外の彼女やその周辺のひとびとの場合、生活がいやがうえにも過激になっていくのをギャグにしたマンガです。『神戸在住』で善人ばかりを描くのに飽きたのか、ろくでなしがいっぱい登場するのがたいへんけっこうです。

 『神戸在住』と同じように、コマとコマの間に書かれたキャプションがアクセント。

 『神戸在住』ではキャプションの語り手は主人公の女性でした。つまり主人公の心の声という昔ながらの少女マンガ的手法(マンガを描いているのが主人公自身らしい、ということも匂わせてましたが)。

 『巨娘』のほうではキャプションの語り手は、神の声=作者自身。作者が登場人物の行動にツッコミを入れる「ちびまる子ちゃん」パターンですな。同じような手法が、『神戸在住』では抒情、『巨娘』では笑いのために使用されています。

 でもって、作者はさらに変身します。キャプションをぐっと減らした作品がこれ。

●木村紺『からん』1巻(2008年講談社、543円+税、amazonbk1

 内容もがらっと変わって、今度はなんと京都が舞台の女子高柔道部のお話です。熱血です、スポコンです。『柔道部物語』か『帯をギュっとね!』か。ただし雰囲気としては『少女ファイト』に似てるかな。

 時代は現代、のはずだけど、今はもう廃駅となった京阪電鉄蹴上駅が出てきます。あそこが最寄り駅の女子高といえば、ダム女か? でもダム女の制服はセーラー服じゃなかったよねえ。

 ローカルな話題はさておき、1巻ではまだ人集めの段階なのでお話は進んでません。それでも多数の登場人物をきっちり書きわけようとする意図がはっきりとしてて、おもしろくなりそうなニオイがぷんぷんと。

 ゆっくりじっくり話を進めてて、前二作より「普通」に近いマンガです。絵や演出はこれまでとはまったく変化してます。別名義で発表されたら、同一作者の作品とはわからないかもしれない。

 ただどの三作とも、作者はかっこいい女性キャラクターをじっくり掘り下げて描きたいと思ってるようです。目的のためには手段は選ばんっ、みたいな?

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November 14, 2008

マンガの青春時代

 ネット上で連載されていた、すがやみつる先生の自伝「仮面ライダー青春譜」が完結しました。

すがやみつるblog

 トップページに「主要記事目次」がありますので、そこから各章の目次に飛ぶことができます。

 幼稚園時代に始まって、マンガ家を目指して上京、アシスタント時代、編集プロダクション時代、石森プロ時代、そして『ゲームセンターあらし』の連載開始まで。

 いやこれほどおもしろい読み物もちょっとありません。登場人物は多彩、裏話てんこもりです。ここで初めて知った話題もいっぱいあって資料性も高い。ネットの連載らしく、図版も豊富です。

 主要な舞台は60年代末から70年代ですから、日本マンガの青春時代がちょうどすがや先生の青春と重なっていて、読んでいて熱いこと。

 わたしは以前に掲載されていたブログで読み始めたのですが、もともとはなんと1990年から書き始められたものだそうです。完結おめでとうございます。

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November 12, 2008

テレビが大きくなりました

 買った、買いましたよ、薄型テレビ。

 電化製品は基本的に故障しないかぎり買いかえにくいです。うちの1999年製29型ブラウン管テレビもずっと現役でご活躍だったのですが、最近はともかく地デジ地デジとうるさい。

 今年の年末商戦にあわせて買おうかなと家電店に行ってみたら、イッキに物欲に火がついて、買っちゃいました、ソニーのブラビア46型。

 プラズマはきれいなんですけどねー、ウチのテレビの位置は映り込みしやすい場所なのと、ちょっと熱さが気になったもので液晶にしました。

 大きさはちょっとだけ見栄をはって46型。居間に置くと大きいなあ。

 工事の関係でしばらくはアナログで見てたのですが、でかいテレビになるとアナログ放送てのはちょっときついですね。で、地デジになると画質がまったく違うのであらためてびっくりしました。でも、はっきりくっきりの画質でワイドショー見てどうなる、というようなものですが。

 いくつかDVDも見てみましたが、プログレッシブ接続にするとやっぱ違いますな。WiiもD端子のプログレッシブ接続でにじみが消えました。

 テレビの音声もずいぶんよくなってるらしいのですが、ウチでまだ現役で活躍中のケンウッドKA-V4000というAVアンプ(20年前の機種ですが、一応ドルビーサラウンド対応)と、パイオニアのむちゃでかくて重いスピーカーのセットで聞くほうが、音がいいような気がします。わたしの耳のせいかなあ。

 レーザーディスクもつないでみました。もちろんD端子なんてのは存在しないころの機種ですからS端子。

 ひさしぶりにレーザーディスクでポール・グリモーのアニメ「王様と幸運の鳥」を見てみました。今は「王と鳥」というタイトルで知られてますか。この作品、「やぶにらみの暴君」のリメイクなのですが、日本で上映されたときは、「暴君」は名作だけど「王と鳥」はダメダメという評判になってました。

 「王と鳥」しか知らないわたしとしては、これじゅうぶん傑作じゃないかと思うんですけどね。ちなみにレーザーディスク版の吹き替えでは、王が納谷悟郎、鳥が熊倉一雄です。

 画質については、もう歴史的遺物の範疇ですからねー、見られるだけでじゅうぶんでございます、オッケーでございますということにしておきます。

 あとはビデオ。ウチにはまだVHSビデオレコーダーしかありません。かつて大量に撮りためたビデオカセットは、煩悩を捨ててほとんど廃棄しちゃったので少ししかありませんが、さすがに大画面で見るとちょっとキツイか。

 ビデオ時代ってけっこう長かったですから、ビデオコレクションとかしてたひとたちは、今どうしてるんでしょ。

 さて、次の物欲の対象はきっとHDDレコーダーですが、イッキにブルーレイつきのところまで行っちゃうべきか、自重すべきか。

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November 08, 2008

テプフェール本邦初訳

 ロドルフ・テプフェール Rodolphe Töpffer をご存じでしょうか。現代マンガの祖と考えられている人物です。

 かつてわたしが書いたテプフェールに関する記事はこちら。

マンガを創った男:ロドルフ・テプフェール

 最近はササキバラ・ゴウ氏によるサイトで細かく論じられています。これは力作ですので、ぜひご一読をおすすめします。

まんがをめぐる問題


*****

 テプフェールこそ、今わたしたちが知っている「マンガ」を発明した人物と言ってもいいでしょう。

 絵と絵の間には枠線が引かれ、はっきり別のものであることが示されます。「コマ」という存在が誕生しました。複数のコマが並列に並べられ、その内部では順番に時間が経過していく。さらに場所も変化する。

 あるコマから別のコマに移動したとき、読者が時間が経過していると感じるのは、同じ人物(あるいは物体)がそれぞれのコマに登場しているのに、その人物のポーズや周囲に存在するものが変化しているからです。わたしたちは何かの変化をみて、時間を感じます。

 サンプルとしてこちらのサイトを見てください。

http://www.zompist.com/bob25.html

 ページの下のほうに六つの連続したコマが掲載されています。これがテプフェールの「ヴィユ・ボワ氏」です。

 失恋し首をつって死のうとしたヴィユ・ボワ氏ですが、縄が長すぎて失敗。戸外の恋人の声を聞いて思わず駆け出す。すると梁がはずれちゃった。梁を引きずって走るヴィユ・ボワ氏。梁になぎ倒されるひとが続出。街は大騒ぎです。

 下に書いてあるフランス語のキャプションやその英訳を読まなくても、話の流れがなんとなくわかるでしょう。しかもおもしろい。現代のマンガとほぼ同一のものが、テプフェールによって描かれているのです。

 コマ(1)と(2)にはヴィユ・ボワ氏が登場しています。コマ(3)には梁が初登場しますが、そこに結びつけられている縄は、すでにコマ(1)から読者の前に提出されていたものです。コマ(4)と(5)では梁と縄が大活躍。コマ(6)でヴィユ・ボワ氏が再登場しますが、彼の首には縄が結わえられたまま。

 ヴィユ・ボワ氏が登場しないコマ(3)(4)(5)でも、読者は縄の先に彼が存在することがわかるはずです。テプフェールのこの表現は、原初のマンガにしてきわめて高度なことをなしとげています。

 隣りあったコマには、ヒトであったり縄であったりしますが、必ず同じ物体が登場します。このおかげでわたしたちは、これらのコマ間で時間が経過していると読むことができるのです。

 連続したコマに同一人物が登場するということは、その人物のポーズや見る角度が変化しても、読者から見て同一人物であると認識できなければなりません。マンガ家は人物に何かしら特徴を与え、確かに同一人物だと示す必要があります。そして、何度も何度も同じ人物を描くことになります。必然的に読者はその人物と顔なじみになります。

 これこそキャラクターの誕生です。

 ヒトコママンガでも、別作品に同じ人物がくりかえし登場すれば「キャラクター」になります。しかし連続コママンガの場合、「必ず」キャラクターが存在します。というか、キャラクターがなければコママンガは成立しない。コママンガの誕生したときから、マンガとキャラクターは切り離せない関係なのです。

 さらにテプフェールは、「いっぽうそのころ……」という技法、すなわち時間は同じで場所だけ変化する、という表現までも使用しています。マンガは、時間と空間を自由に扱うことができるようになりました。

 近代マンガはテプフェールの手によって「ほとんど」完成しました。あとは、「フキダシ」が登場しさえすればわたしたちの知っているマンガになります。コママンガとフキダシの統合は、R・F・アウトコールトの『イエロー・キッド』によってなされたと言われています。


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 そして今回、テプフェールの代表作「ヴィユ・ボワ氏」が、ササキバラ氏の手で邦訳されました。まずは11月16日のコミティアで販売されるそうです。

テプフェールの本

 テプフェールの「マンガ」作品としては本邦初訳であります。ついに、ですね。マンガの歴史に興味あるかたは、どうぞ手にとってみてください。


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(付録)

 これまで Rodolphe Töpffer は日本語で以下のようにさまざまに表記されてきました。

●ロドルフ・テプフェール:ジェラール・ブランシャール『劇画の歴史』、ティエリ・グルンステン『顔が線になるとき』
●ロドルフ・テプファー:以前にネットで見かけた美術系の論文、ササキバラ・ゴウ「まんがをめぐる問題」
●ルドルフ・テプフェル:『アルプス徒歩旅行 テプフェル先生と愉快な仲間たち』、秋田孝宏『「コマ」から「フィルム」へ マンガとマンガ映画』
●ルドルフ・テファー:スコット・マクラウド『マンガ学』
●ロドルフ・トプファー:小野耕世『アメリカン・コミックス大全』
●ロドルフ・トッフェール:雑誌「pen」2007年8/15号「世界のコミック大研究。」

 いっぱいありすぎて、どれを使うかわたし自身も迷っていたのですが、今回の『ヴィユ・ボワ氏』の邦訳では「ロドルフ・テプフェール」が採用されています。これを機に、わたしも今後は「ロドルフ・テプフェール」と表記することにしました。

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November 07, 2008

『バットマンガ!』桑田次郎インタビュー

 以前、アメリカで桑田次郎版『バットマン』が復刻されるという記事を書きました。

桑田次郎版『バットマン』復刻!

 日本アマゾンで買うよりアメリカアマゾンで買うほうが送料込みでも安くなるのでそっちで注文。10月28日の発売当日にアメリカから発送され11月6日にわが家に到着しました。おお、意外と早く来た! 

Bat-Manga!: The Secret History of Batman in Japan(2008年Pantheon Books)

Bat-Manga!: The Secret History of Batman in Japan Bat-Manga!: The Secret History of Batman in Japan

 タイトルは『バットマンガ!』。左がハードカバー版、右がペーパーバック版書影です。書影クリックで日本アマゾンに飛びます。ハードカバー版のほうが収録エピソードがひとつ多いそうですから、買うならこっちでしょう。しかも今はドルが安い。

 ハードカバー版は布張り表紙で重いです。もともと紙質の悪い日本マンガ誌にちょっと青っぽいインクでモノクロ印刷されたマンガですから、当然経年変化で黄ばんでしまってる。これを写真撮影して上質紙にカラー印刷してあります。アチラで復刻といえばこのやりかたですね。カラーの上質紙上でザラ紙の黄ばんだモノクロマンガを読む不思議。日本の復刻版とは違ってかなり豪華です。カラーページや二色ページもそのまま。

 日本のマンガと同じようにちゃんと右開きの本で、英訳されてるのはフキダシ内のセリフやキャプションだけで、手描きの擬音などは日本語のままですからわたしたちにも読みやすい。

 編集とブック・デザインはチップ・キッド。彼のいつもの本と同じように、ずいぶん派手でポップな仕上がりです。「少年画報」や「少年キング」、少年画報社版の雑誌「バットマン」の書影や特集ページ、バットマンオモチャの写真などがてんこもり。さらには中国語版パチモンマンガ『蝙蝠黒飛侠』のオマケもあります。

 ただし編集がポップすぎて、右ページにもとの雑誌の奇数ページ、左ページに偶数ページという収録方法をとってる部分がずいぶん多いです。どうもデザイン優先でこういうスタイルを選んだらしい。

 これではハシラとノドが逆転してしまい、この本のノドの部分にはもとの雑誌のハシラがきてるわけです。見開き二ページをひとつの単位とする日本マンガの習慣とは違う見せ方をしていて、視線誘導を考えるとちょっとアレですが、まあ日本でも旧作の復刻はこのあたりきちんとはしてないような気もしますし。

 もととなる雑誌のハシラ部分には「星のいろいろ」とか「大リーグ百科」などの一行豆知識や、自社雑誌広告が載ってるわけですが、そんなところまで英訳してある部分もあって、いろいろと凝ってますねえ。

 収録作品は以下のとおり。

●怪盗ドロ人間の巻:少年画報1966年9月号
●ドロ人間の復しゅう(2):週刊少年キング1966年43号
●ドロ人間の復しゅう(3):週刊少年キング1966年44号
●死神男の巻(1):週刊少年キング1966年23号
●死神男の巻(2):週刊少年キング1966年24号
●死神男の巻(3):週刊少年キング1966年25号
●魔人ゴゴの巻(1):週刊少年キング1966年35号
●魔人ゴゴの巻(2):週刊少年キング1966年36号
●顔なし博士の巻(2):週刊少年キング1966年27号
●ゴリラ博士の復しゅう(2):週刊少年キング1966年33号
●ゴリラ博士の復しゅう(3):週刊少年キング1966年34号
●人間をやめた男の巻(1):週刊少年キング1966年38号
●人間をやめた男の巻(2):週刊少年キング1966年39号
●人間をやめた男の巻(3):週刊少年キング1966年40号
●人間をやめた男の巻(4):週刊少年キング1966年41号
●ロボット強盗の巻(1):少年画報1966年7月号

 桑田次郎のシャープな線で描かれたバットマンはかっこいい! オリジナルよりいい!

 この本に桑田次郎(現在は二郎)氏のインタビューが掲載されてます。以下に抄訳してみます(誤訳かつ意訳御免)。

*****

1.「少年キング」にバットマンを描かれるようになった経緯はどのようなものだったのでしょうか。

 「少年キング」編集部からの依頼です。バットマンのTVシリーズが日本で放映されることになったので雑誌にバットマンを載せたいとのことでした。バットマンが雑誌売り上げを伸ばすことを期待したのでしょう。

 わたしが引き受けた大きな理由は、かつてスーパーマンを描くことができなかったからです。バットマン以前にスーパーマンを描かないかという依頼がありましたが、そのときは忙しすぎたのです。ですからバットマンに挑戦できるのはとてもうれしいことでした。
 
 最初はアメコミのリアルでダイナミックなスタイルと、わたし自身のスタイルをブレンドするつもりでした。アメコミの人物のプロポーションは日本マンガのそれとはずいぶん違うでしょ。アメリカンスタイルを取り入れることで、わたしの絵が進歩することを期待していました。

 しかしやはり忙しすぎました。ボブ・ケインのバットマンを真似ることはできず、自分のスタイルで描かざるをえませんでした。でもそのおかげでこういうインタビューを受けているのですから、もしかしたらそれで良かったのかな(笑)。


2.どのようなものを参考にしてバットマンを描かれたのでしょう。以前から彼のファンだったのですか。

 とくにファンというわけではありませんでした。「少年キング」の編集者がオリジナルコミックスをいくつか見せてくれたので、そのところどころを参考にしました。とくに怪人の造形やコスチュームですね。


3.先生自身がバットマンのストーリーを考えられたのですか。

 編集者からもらったオリジナルコミックスをもとにわたしが考えました。しかしまったく違ったものにしています。キャラクター、怪人、ストーリー、設定などを日本の読者向けに作り直したのです。

 よく覚えている例では、生きるか死ぬかという場面で怪人がバットマンにナゾナゾを出す。死にそうになってるのに、バットマンはそれに真剣に答えるのですよ! リアリティがないしかっこよくありません。日本の読者向けにはもっと大人っぽくてリアルなストーリーが必要です。


4.当時「8マン」スタイルの日本製アニメ「バットマン」が計画されていたという噂がありますが。

 アメリカのTVシリーズは日本で放映されましたが、日本製アニメの計画はなかったですね。


5.当時の雑誌には先生の住所も掲載されていますね。バットマンファンからの手紙は多かったですか。

 たくさんもらいましたよ。とくに年賀状で。でも同時にいくつものマンガを描いていましたから、バットマンファンがどれくらいいたかはわからないなあ。最近になって、40代や50代になった読者がわたしの描いたバットマンの思い出を語ってくれることがあります。


6.子ども時代にはどんなマンガを読んでいましたか。

 そうだなあ…… わたしは13歳でプロになりましたから、子ども時代からマンガを読むことは仕事の一部でした。でもそれ以前は『のらくろ』や『冒険ダン吉』などを楽しんでいましたよ。これらは手塚治虫より前の有名作品です。


7.どうしてマンガ家になろうと思ったのですか。

 わたしはもともとマンガ家をこころざしてはいませんでしたが、『ヤネウラ3ちゃん』を読んで四コママンガを描き始めました。この新聞連載の四コママンガは、笑いで敗戦後の日本人に勇気を与えたのです。

 小学六年生のとき、わたしの四コママンガが学校新聞に掲載されました。わたしは毎朝のように学校新聞用の投書箱に作品を投稿しました。でも学校新聞は週刊ですから何百というマンガがムダになります。わたしがそれを製本すると評判になり、中学生がわたしの家にマンガを読ませてほしいと頼みに来たこともありました。

 そのころ手塚治虫がデビューしました。いつか彼のようなストーリーマンガを描いてみたいと強く思ったことを覚えています。

 そして、友人の友人が出版社にマンガを持ち込み編集者の指導を受けているという話を聞き、わたしもやってみることにしました。そしてすぐにデビューが決まったのです。


8.あなたにもっとも影響を与えたマンガ家は?

 手塚治虫です。

 最初に読んだときは衝撃でした。彼こそマンガの新しい次元を開きました。手塚治虫ほど感動的でドラマティックなストーリーを描けるマンガ家はいません。彼こそマンガをナンセンスなお笑いから新しいレベルに進歩させたのです。手塚治虫を目標とすることは、わたしにとって太陽に近づくのと同じことでした。


9.8マンとバットマンが戦ったらどちらが勝つと思いますか。

 困った質問だなあ。そんなの想像できないよ…… たぶんジャンケンで勝負を決めるんじゃない? 


10.手塚治虫の『ブッダ』をどう思いますか。

 よくできたフィクションです。とてもおもしろく読めるのですが、真のブッダの哲学とは違うものだと思っています。

(チップ・キッドは英語版『ブッダ』のデザイナーをしてました。いっぽう桑田次郎もご存じのように仏教マンガを多く描いてます)


11.バットマンの新作を描いてみたいですか。

 もちろん。


*****

 バットマンが日本でも超メジャーだったに違いないと信じてる(?)インタビュアーと、実はそうでもないんだけどなー、と思ってる(?)桑田先生が、微妙にズレてるところが味わい深いインタビューとなってますね。

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November 05, 2008

積ん読はいけません

 フランク・ハーバートのSF小説に『デューン 砂の惑星』というのがありまして、ハヤカワ文庫から邦訳開始されたのが1972年。カバーイラストと挿絵は石森章太郎でした。

 アメリカでは1965年のヒューゴー賞/ネビュラ賞のダブル・クラウン。のちにデヴィッド・リンチの手で映画化されてます(デキはちょっとアレでしたが)。

 小説は日本でも評判が良くて、半村良がパロディを書きました。宮崎駿『風の谷のナウシカ』の王蟲(オーム)のモトネタも『デューン』に登場する砂虫サンド・ウォーム(表記はワームのほうが良いのでしょうが、訳者の矢野徹がこう書いちゃった)ですし、『デューン』は萩尾望都が描く異星の風景にも影響を与えてるとにらんでおります。

 ところがこの作品、わたしにとっては相性が悪いというか何というか、途中で挫折をくり返してなかなか読み通せない。数年にわたり何度も最初からリトライして、三回目の挑戦でやっと読了できました。続編もありますが、手を出してません。

 ダメだったのが、トールキンの『指輪物語』。『ホビットの冒険』を読了して、さあ『旅の仲間』だと読み始めましたが、ホビット庄を出て宿屋に着いたものの、どうしても宿屋を出られない。これも三回アタックしましたがいつも宿屋で挫折。

 わたしにとっての『指輪物語』は、ホビット庄からブリー村までの短い物語でありました。結局、やっと映画で全貌を知りました。とほほ。

 マンガでいうと、これ。

●林静一『pH4.5 グッピーは死なない』(改訂版1999年青林工藝舎、2000円+税、amazonbk1

 最初の版は1991年青林堂。男女のセックス描写の間に、歴史上の事件や人物や作品イメージがはさみこまれるというマンガで、もしかすると傑作かもしれない。しかし実はわたし、買ってから二十年近くなってますが最後まで読めてません。

 何度も読み直してるのですが、途中でダウンしちゃうんですよ。セックスがまったく欲情を引き起こさないように描かれてるのが、かえってつらい。

 で書棚のうち、こういう「積ん読」本ばかりを集めた棚、その奥のほうをのぞいてましたら、こんなマンガが出てきました。

●フジモトマサル『二週間の休暇』(2007年講談社、1238円+税、amazonbk1

 おそらく今年になってから書店でジャケ買いしたものだと思いますが、持ってるのをまったく忘れてました。

 長編とはいうものの100ページほどの薄い本。二色です。

 女性がふと目を覚ますと、見知らぬ町の見知らぬ部屋。どうも自分は記憶をなくしているらしい。買い物に出かけるとそこは飛べない鳥たちの町。彼女は鳥の店でトウフやホウレン草を買い、部屋で晩ごはんをつくって食べて本を読んで寝ます。

 というのんびりした展開。

 この世界はどういうなりたちなのか、彼女はなぜここに来たのか。謎がラストで明らかにされます。

 絵は絵本ふうで、コマはページを三段に分けた単純なもの。アメリカン・オルタナティヴというか、旧「ガロ」の香りというか。レモンを切って絞ってレモネードを作るまで、5コマもかける描写や展開やテーマと絵柄がベストマッチ。こちらが著者のサイトです。

 今回初めて読みましたが、いやこういう作品を読みのがしていたとは。積ん読はいけませんね。

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