愛すべき縄文人『ニタイとキナナ』『縄文物語』
最近もっとも楽しく読んだマンガ。
●高室弓生『ニタイとキナナ』(2006年青林工藝舎、1600円+税、amazon、
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●高室弓生『縄文物語 わのきなとあぐね』(2008年青林工藝舎、1300円+税、amazon、
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ちょっと前の作品になります。前者は「コミックトムプラス」に1998年から2000年にかけて連載されたもの。連載終了して6年後に初単行本化されました。
後者はもっと前、1989年~1990年に「モーニングパーティ増刊」に連載されたもの。1990年講談社から単行本化され、今年の春に青林工藝舎から新装刊。
えー、どういう作品かといいますと、時代は縄文時代中期、今の東北地方岩手県、湖のほとりにあるデランヌの村を舞台にした縄文ホームドラマであります。
『ニタイとキナナ』の主人公は、縄文時代の若夫婦。集落にはリーダーとして巫女の長老がいて、各人はその構成員として仕事をわりふられています。夫のニタイは夏には湖の魚を捕り冬には狩をする。妻のキナナも機織りや山菜採りに忙しい。そして冬至から春までは貯えた食べ物と酒で、食っちゃ寝のくり返し。
『縄文物語』のほうは、同じデランヌ村が舞台ですが、時代がさかのぼって『ニタイとキナナ』の150年前という設定。ただしこの時代、時間の流れがゆっくりしていますから、150年程度では時代の変化はほとんどありません。
わたしの縄文イメージといいますと、星野之宣が描く感じのあれ、半裸であらあらしいひとたちがまず頭に浮かびます。ところがこのマンガの縄文人は、高度な文明を持った知的な人々。服だって、ちゃんとしたデザインのものを着てます。
著者は子ども時代からの縄文好き。高校時代には発掘のバイトもしていたそうです。ですからマンガとはいえ縄文時代の考証は、すみずみまでじつにこまかい。
縄文時代の政治、経済、宗教、風俗、さらに建物、服装、小物にいたるまで、あやふやなところは、まったくない(ように見えます)。もしかすると、このマンガ、すごいことをやってるのじゃなかろうか。
もちろん娯楽作品ですし、想像の羽根を思い切りのばして描かれていますから、これまで考証についての批判もあったそうです。
しかしそれをはね返すほど、細部まできっちりと描き込まれた縄文の暮らし。誰も知らない世界を見てきたかのごとく再現、あるいは創造しています。
『縄文物語』のほうは、どちらかというと季節の区切りの儀式が中心に描かれてますが、『ニタイとキナナ』は当時の日常が描かれているだけ。ニタイが後輩に魚罠のかけ方を教え、狩の仕方を教え、神への祈り方を教える。キナナの妊娠と出産がもっとも大きな事件ですが、これもホームドラマの王道。
こういう日常を描いただけのマンガなのにこの楽しさはなんでしょう。登場するキャラクターがみんな生き生きとしているのですね。きちんと描かれた文化・風俗のなかを、愛すべきキャラクターたちが自由に動きまわり「生活」している。こんな単純なことが、どれだけすばらしい作品を作り上げているか。
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