少年探偵のこと
「少年探偵」。うーん、かっこいい響きです。
金田一やコナンは少年探偵ヒーローですし、『デスノート』のL は年齢的に迷うところですが、ニアになるとまちがいなく「少年」探偵でしょう。
さかのぼって横山光輝『鉄人28号』の金田正太郎くんも、手塚治虫『ケン一探偵長』や桑田次郎『まぼろし探偵』も、みんな少年探偵でした。
時代劇になると石森章太郎『佐武と市捕物控』の佐武とか、うしおそうじ『朱房の小天狗』とか、捕物帖ヒーローもいました。彼らも少年探偵。
少年探偵は子どもたちにとってまちがいなく理想像です。「探偵」という響きだけでも知恵と力をかねそなえてる、というイメージがあるのに加え、しかも少年。自分たちとあまり変わらない年齢のくせに、オトナの警官と対等に話せるだけじゃなく、たよられたり賞賛されたりするのです。子どもの夢じゃないですか。
さらにかつては、ピストルを撃ちまくったり免許証なしにクルマを運転できるのも、少年探偵に許された特権でした。
子ども時代のわたし、オトナになったら何になりたい、という質問にいつも、「マンガ家」とともに「探偵」をあげていました。バカです。
もちろん、明智探偵やホームズや祝十郎にもあこがれていたのでしょうが、もしかすると、わたしがなりたかったのは「探偵」じゃなくて「少年探偵」だったのかもしれません。
少年探偵は、マンガよりむしろ小説のほうに多く存在するでしょう。現在の子ども向け小説にも、きっとたくさんの少年探偵が登場しているのだと思います。
かつてはどうだったかなあ、と考えてみると、まずはルルー「黄色い部屋の謎」のルールタビーユ(わたしの読んだバージョンではルー「レ」タビーユだったような記憶が)がもっとも古い少年探偵なのかな。
これに続くのがルブランのルパン・シリーズ「奇巌城」の少年探偵イジドール・ボートルレ。彼もかっこよかったですねえ。
日本ではもちろん江戸川乱歩「少年探偵団」の小林少年。でも彼は基本的に「助手」ですからちょっと微妙。
しかし小林少年よりもっと古い、日本の少年探偵もいました。明治末には、すでに小説内に少年探偵が登場していたそうですが、小林少年以前、もっとも有名な少年探偵は、小酒井不木が創造した「少年科学探偵」こと塚原俊夫くんでしょう。
塚原俊夫くんは、6歳のとき三角形の内角の和が180度になることを発見し、小学一年で俳句をたしなみ、遊星の運動を説明する模型で特許をとるという天才ぶり。あまりにかしこいので、小学校を中退して独学で勉強しているという12歳。
彼が科学知識を生かして、暗号を解いたり、盗難事件や殺人事件を解決するのです。
「紅色ダイヤ」「暗夜の格闘」「髭の謎」「頭蓋骨の秘密」「白痴の知恵」「紫外線」「塵埃は語る」「玉振時計の秘密」「墓地の殺人」などの短編があります。大正末から昭和はじめに書かれた作品です。
じつはわたし、子ども時代に塚原俊夫くんの活躍をくり返し読んでまして、なぜかというと、ウチに1964年から1968年にかけて発行された「小学館版少年少女世界の名作文学」全50巻という子ども向けの文学全集がありまして、この日本編4に「少年科学探偵」シリーズのうち四作が収録されていたのですね。
塚原くんの推理は子どものくせに快刀乱麻を断つがごとし。ただしあまりにキレすぎて、子どもらしさには欠けます。乱歩の小林少年が、子どもらしい弱点を持っていたのとはずいぶん違いますね。でもそのぶん塚原くんはずいぶんかっこよかった。
というわけで少年探偵といいますと、どうしても彼のことを忘れることができません。「紅色ダイヤ」と「暗夜の格闘」は、青空文庫でも読めます。
ちなみに「小学館版少年少女世界の名作文学」の挿絵には伊藤彦造が多く採用されてまして、わたしが彼の名を知ったのはこのシリーズによってでありました。
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Comments
「ルコック探偵」1869年というのもあります。 パリ警視庁の若手刑事で、読んだ感じでは、年齢はルレタビーユ(黄色の部屋1907年)とよく似ています。奇巌城1909年より古いが、高校生のボートルレよりは年を食っています。
「トムソーヤーの探偵」1896年というものある。探偵を業としているのではありませんが。Gutenbergで読める(ひとは読めます)。
「エーミールと探偵たち」1928年では、大人の使い走りではなく、少年たちだけで犯人を捕まえます。小酒井不木「深夜の電話」1928年と同年です。少年探偵団で検索するとWIKIPEDIAで出てきました。
少年探偵の起源は少年探偵団の起源と区別したほうがいい・・・
「ケン1探偵長」の先行作品としては、海野十三「少年探偵長」1949年というのがあるらしいです。
エラリークイーンのジュブナイルシリーズの「黒い犬の秘密」(ほかにもいっぱいあったが、すぐに飽きてしまう)は1941年です。
カロリン・キーン「古い柱時計の謎」1930年(意外に古い。最近になって読みました。おはずかしい)
怪人二十面相1936年。
ウイリアム・アイリッシュ「裏窓」1942年。
「名探偵カッレ君」1946年
ビリーパックは20代前半でしょうか。
Posted by: しんご | November 12, 2008 05:20 AM
「少年を主人公にするとストーリーの可能性が拡がる。少年は神にだってなれる」と述懐したのは諸星大二郎でありましたね。
Posted by: トロ~ロ | October 21, 2008 11:53 AM
少年探偵で思い出すのは、小学館の学年誌に連載されていた横溝正史のジュブナイル作品で活躍した「探偵小僧」の異名をもつ新聞社(新日報社)の給仕(もう死語ですね)御子柴進少年です。
新聞記者の三津木俊助とともに、空とぶ風船魔人などと戦いましたが、少年探偵団の小林団長などとちがい、テレビや映画にならなかったので、知名度はいまいちです。
マンガでは、手塚治虫のライバル高野よしてるが月刊誌の少年に連載していた「とびだせ鉄平」。
江戸川乱歩が少年探偵団ものの「黄金豹」などを連載している同じ雑誌に少年探偵団ならぬ「探偵少年団」を登場させました。そろいのキャップにユニフォームでスクーターを走らせるという探偵少年団のリーダーが警視庁捜査課の刑事を兄に持つ中学生の飛田鉄平君でした。
Posted by: マンチュウ | October 21, 2008 12:11 AM
よく「子供がメインヒーローとなるのは日本特有の現象で、子供の地位が低い欧米ではあまりそういう例は無い」と聞いていたのですがそれなりにあるものですね。
Posted by: Gryphon | October 20, 2008 12:40 AM
みなさま、いろんな少年探偵のご紹介、ありがとうございます。はやみねかおるの三つ子も少年探偵だね、とか言ってましたら、あのシリーズは別に探偵がおる、と家族からツッコまれました。
Posted by: 漫棚通信 | October 17, 2008 08:06 PM
理論社MISTERY YA!の芦部拓『月蝕姫のキス』では、内気な少年が事件を通して名探偵になっていく様が描かれていて感動的です。お薦めですよ。
Posted by: 藤岡真 | October 17, 2008 06:59 AM
こちらも岩波少年文庫でリンドグレーンの『名探偵カッレくん』シリーズを愛読していましたが、この作品は第二次大戦後だったんですね。岩波少年文庫版は1957年だったようですが、こちらが小学校の図書室で最初に借りたのは1962年頃でした。
「少年」で応募券を集めるか何かして「少年探偵手帳」ももらいました。金色のシャープペンシルがついていたはずです。
Posted by: すがやみつる | October 16, 2008 09:35 PM
アメリカの少年ならぬ少女探偵ナンシー・ドルーは最近ジュブナイル枠ではなく創元推理文庫から本が出てたりしますが、数年前からこのシリーズのコミック版が向こうで展開されています。
http://www.amazon.co.jp/Cheeters-Missing-Nancy-Graphic-Novels/dp/1597070300/
作画担当はSho Muraseという日系、というより日本国籍がある人なのかな? の女性アーティストです。彼女のサイトは以下
http://sho.moonfruit.com/
個人的にはジュブナイルでは岩波少年文庫の『オタバリの少年探偵たち』なんか好きでした。
Posted by: boxman | October 16, 2008 04:31 AM
少年探偵の起源といえば、シャーロック・ホームズのベイカーストリート・イレギュラーズではないでしょうか。子供の頃は「ホームズ少年探偵団に入りたい!」なんて憧れてましたけど、今考えてみると探偵団どころかほとんど使いっ走りですね。
Posted by: ふう | October 15, 2008 11:29 PM