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September 28, 2008

五分でわかる『あたし彼女』

 第三回日本ケータイ小説大賞を受賞したkiki 『あたし彼女』。ネット上で読めることもあって、各方面で絶賛かつ非難のアラシをまきおこしているようですが、いやオープニングからしてトバしまくってます。

アタシ

アキ

歳?

23

まぁ今年で24

彼氏?

まぁ

当たり前に

いる

てか

いない訳ないじゃん

みたいな

彼氏は

普通

てか

アタシが付き合って

あげてる

みたいな

 これを読んだだけで、怒髪天を衝くかたが多数いらっしゃるのが目に見えるようです。この一行おきの空白行はともかく、句読点なし、ケータイで読むことが想定されたぶちきれた改行。

 さらに、限りなく話し言葉に近づいた文体、てか、平成の言文一致運動? みたいな。

 斬新といえばこれほど斬新な文体はありません。ただしあまりに斬新すぎて読みにくい。おそらく読みとおすことのできるひとは、ごく少数じゃないでしょうか。実際、わが家でもこれを読んでみようと思った物好きは、四人中わたしだけです。

 で、この文体で何が書かれているのか。脱落して読みとおせなかったかたにご紹介。

(以下、ネタバレを含みますので、自分で読んでみたいかたはご遠慮ください)

*****

 えー、お話自体は純愛モノです。小説としてめざすゴールは「泣ける」「感動」です。登場人物は主人公の語り手アキ、その彼氏トモ、トモの元カノで五年前に死亡したカヨ。

 主人公アキはもう限りなく極悪ビッチ。23歳、美人、無職、実家暮らし、料理まったくできず、セフレ複数、セックス相手の財布からカネ抜きまくり、中絶経験二回、本妻に刺されたこと一回。16歳ですでに百人斬りパーティーを開いたというつわものです。

 これほど読者の反感を買う主人公設定というのもめずらしい。これに対し、アキの現在の彼氏トモができた男で。

 31歳、CGデザイナー、会社常務、金持ち、マンション持ち、料理うまい。

 どうしてこんなデキた男がアキとつきあうことになったかというと、トモ君、五年前にステディのカヨを交通事故でなくしている。で、たまたま合コンで出会ったアキの顔が、カヨとそっくりだったのですね。

『常務さんなんですかぁ? 若いのに超凄いですねぇ やっぱり実力? みたいな』

 こういうしゃべりかたをするビッチでも、トモにとってはカヨを思い出してしまい、その顔だけでつきあうことになってしまいました。ただし、アキはカヨのことをまだ知らないし、トモはアキの過去なんかどうでもいいと思っている。この状況で物語が始まります。

 目次は以下のようになっています。

プロローグ
第1章:アタシ こんなんですけど
第2章:気持ちの変化
第3章:意味わからない 苛々するんだって
第4章:だってさ 好きなんだもん
第5章:人を好きになると ここまで変われる みたいな
第6章:頭の中は トモばっかり
トモ:君を想う
第7章:同棲生活ってやつ?
第8章:ごめんなさい
最終章:アタシ彼女

 この小説、実はかなり凝った構成をしてまして、なかなかあなどれません。まず第1章で、主人公アキの一人称でビッチな自己紹介がなされます。

 第2章、トモがアキにブレスレットを買ってあげるのですが、このとき、トモがブレスレットをペアで注文しなかったという一点で、アキはトモを好きになってしまう(男性読者諸兄は参考にするように)。

 第3章、アキがカヨの存在を知ってケンカ。マンション内をめちゃめちゃにしてアキは去っていきます。『アタシはカヨの代わりじゃね~んだよ!』

 第4章、ふたりの和解。第5章、再度ケンカ別れ。原因はやはりカヨの存在です。トモはカヨを忘れられない。

 第6章、アキの「おかん」に言わせると、『アキは可愛くなったよ いい女になってきたよ 前のアキなら正直嫌な女性だったかもしれないけど 最近のアキなら凄い素敵な女性になってきたよ?』←おいおい。この章の終わりでは、再度アキとトモの和解がなされます。

 この後「トモ」の章で、これまでのアキの一人称で語られたきたエピソードが、すべてトモの一人称で語り直されます。「みたいな」も封印され、男性っぽい文体。テクニカルな構成ですねえ。

 ただし困ったことに、トモが最初にアキにひかれたのはカヨに似てたから、というのはともかく、その後「アキという女の子が気になって来た」理由がまったく不明という大きな問題があるのですが、そこはさておき。

 第7章、ラブラブのふたりですが、アキがトモの両親に会ったとき、カヨにそっくりなことに驚かれ、これが原因でふたりはまたケンカ。この章には少女マンガ的な見せ場も用意されてます。ただそれが「夜の」ダイアモンドダストというのはどうかと思いますが。あれ、夜に見えるのか?

 その後ふたりの冷戦は続き、アキが妊娠に気づきますがトモには言い出せません。

 第8章、アキは自然流産。ところが産婦人科から出てきたアキを目撃したトモは言います。

『中絶したの?』『最低だね 気まずいからって勝手に堕ろすなんて』

 これをきっかけにアキはトモのマンションを出ることになります。

 そして最終章は翌年春。この間にふたりになにがあったか。前章末の描写を受けて、叙述トリック的なものも存在しますので、ここには書かないでおきます。

*****

 理由はどうあれ、アキとトモがくっついたり離れたりを繰り返すだけの展開。小説における描写といえるものも、ほとんどありません。

 なんつっても主人公があまりにビッチすぎますので、主人公が不幸になってもかわいそうに思えない、どころか、読者としては、トモ君、あんた悪いこと言わないからさっさとこの子と別れてしまえ、とアンハッピーエンドを期待してしまいます。

 ただしそれなりに考えられた構成を持った作品ですし、その文体はまさに画期的。

 だいたい最近のネット上の文章も(さらにわたしの文章にしても)、限りなくしゃべり言葉に近く書こうとしているのです。その傾向からすると、この文体は無視できるものではありません、みたいな。

 「生理整頓」「いつもの用に」「つけずらい」「いつもと違く感じる」「ご飯をよそおった」といった奇妙な表現も、書き手がアキだから、という意味で納得できないこともありません。

 少し、感心しました。ただしこの手の作品はもう二度と読もうとは思いませんが。あー疲れた。

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Comments

初めまして。
洗練のされ方に雲泥の差がありますが、漫棚通信さんのレビューを読んで、「アルジャーノンに花束を」を思い出しました。
一人語りの手法と、思考回路を文体で表現するところ。

もちろん携帯小説の方を読んでみようとは思いません。

Posted by: あ~る。 | September 28, 2008 11:19 PM

 この小説(?)、半分くらいまで読みました。

 小説と思って読むと、う~ん……となりますが、マンガのネームだと思って読むと、とくに問題ありません。ぼくもいまマンガを描くときは、先にエディターでネームを書いていきますが、最初から分かち書きしていくせいで、ちょうど、このケータイ小説みたな感じになります。

 このケータイ小説も、この文章を吹き出しに入れたりナレーションのような配置にして、『NANA』とか安野モヨコさんみたいな絵を添えたら、
まんま
一人語りの
マンガに
なりそうな
てか

Posted by: すがやみつる | September 29, 2008 02:28 AM

画期的といわれますが、なんかブログってこういうの多い様な・・・
なにか理由があるのでしょうか?
アフェリエイトをみせる為に長く・・とか

Posted by:   | September 29, 2008 07:51 AM

おお
たしかに
マンガのネームに
そっくり
かも

Posted by: 漫棚通信 | September 29, 2008 09:08 AM

あらすじをありがとうございます。

あらすじだけで判断しますと(笑)。
映画やテレビドラマにまでなった「恋空」もそうですが、
(すいません。どっちも読んでません。笑)
セックスがらみの悲劇があってその克服がないと読者は盛り上がれないんでしょうか。
読者にとってはそれだけ身近な話だってことなのかなあ。

つーか今の若い奴はセックスにしか興味ないのかい(笑)。

Posted by: かくた | September 30, 2008 02:48 AM

いま、
ジイサン
夢小説
書いて中
ギャラ
取れる??
ってか…
チョダイ
ね!
絵文字
ハート

Posted by: 長谷邦夫 | October 01, 2008 12:58 AM

>>この小説、実はかなり凝った構成をしてまして
いやいや
フツーに
あるある
みたいな

Posted by: 知床 | August 19, 2011 03:58 PM

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Tracked on September 30, 2009 10:53 AM

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