熱き思い
人生のある時期、何かに意味もなく情熱をかたむけてしまうものですが、それが正しいほうに向いているのかどうか、だれも知らない。ですからすべてムダになっちゃうかもしれないけど、やっぱりそうしてしまう。それが若いということなんでしょう。ああ年寄りくさい文章だ。
そんなことを考えてしまった三冊。
●小林裕美子『美大デビュー』(2008年ポプラ社、1200円+税、amazon、bk1)
タイトルどおり「美大」を描いたマンガ。いちおうフィクションですが、多くのエピソードは事実に基づいているのだと思います。
ハチクロのあと追い企画みたいな気もしますが、あっちよりエピソードは多彩。わたし、美大とかにはまったくの門外漢なのですが、やっぱ全国から絵がうまい芸術家肌のやつばっかり集まってきてて、世間から隔絶されてますと、こういう奇妙な空間になりますか。
裏山でニワトリ追っかけてるし、アトリエに住み込んでるし、授業に出ず課題ばっかりやってるし、セブンスターの箱の模写してるし。
絵はアクがなくさらっと描いた達者なものです。ペンを使わず、鉛筆で描いたうえからCGでトーン処理をしてある……のかな?
劇的な事件は何もなく、たんたんとした日常をつづった地味なほのぼの系マンガです。それぞれのキャラクターたちには個性があって、青春群像にもなってて楽しく読めます。人気が出たらシリーズ化されるかも。
●藤野美奈子『明日ひらめけ! マンガ家デビュー物語』(2008年メディアファクトリー、880円+税、amazon、bk1)
こちらは純フィクション。主人公は少女マンガ家をめざす三人の高校生(♀2,♂1)。さらに落ち目の大御所少女マンガ家、そのライバル、編集者などが登場。
えー、書影を見ればわかるように基本的にはギャグマンガ、と思って読んでました。ところがこれが意外と熱血な展開になっておどろいた。
「マンガを描く」というテーマのマンガのなかでも、熱血度が高いのは、こっちも燃えてきていいですねえ。
●カラスヤサトシ『おのぼり物語』(2008年竹書房、562円+税、amazon、bk1)
で、カラスヤサトシだけは、ちょっと年齢が上。著者が29歳のとき、マンガ家になるため上京したときのお話。約一年半のことを描いてます。
仕事が月に四コマ一本から五本、だけ。あとは貯金で食いつなぎ、ひたすら悶々とヒマな日々を送ります。ムダにポジティブだったり、落ちこんだりのくりかえし。
四コママンガ形式で描かれた長編エッセイで、すでに求めるものは笑いではありません。熱い思いがあるけれど、どっち方面に噴出させていいのかわからん、という感じが強くこっちに迫ってきて、カラスヤ作品で感動するとは思わなかった。
Comments
はじめまして。
時々楽しく拝見させていただいています。
漫棚通信さんの記事に触発されて、『美大デビュー』と『明日ひらめけ!』を本屋さんで買ってしまい、感想をブログに書きました。
http://chaihana.cocolog-nifty.com/ch/2008/10/post-d542.html
私も「若いっていいなあ〜」と思ってしまった、マンガ好きの年寄り(の部類)です。
今後とも広く深〜い考察を楽しみにしていますので、よろしくお願いします。
Posted by: しの | October 22, 2008 11:54 AM