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September 28, 2008

五分でわかる『あたし彼女』

 第三回日本ケータイ小説大賞を受賞したkiki 『あたし彼女』。ネット上で読めることもあって、各方面で絶賛かつ非難のアラシをまきおこしているようですが、いやオープニングからしてトバしまくってます。

アタシ

アキ

歳?

23

まぁ今年で24

彼氏?

まぁ

当たり前に

いる

てか

いない訳ないじゃん

みたいな

彼氏は

普通

てか

アタシが付き合って

あげてる

みたいな

 これを読んだだけで、怒髪天を衝くかたが多数いらっしゃるのが目に見えるようです。この一行おきの空白行はともかく、句読点なし、ケータイで読むことが想定されたぶちきれた改行。

 さらに、限りなく話し言葉に近づいた文体、てか、平成の言文一致運動? みたいな。

 斬新といえばこれほど斬新な文体はありません。ただしあまりに斬新すぎて読みにくい。おそらく読みとおすことのできるひとは、ごく少数じゃないでしょうか。実際、わが家でもこれを読んでみようと思った物好きは、四人中わたしだけです。

 で、この文体で何が書かれているのか。脱落して読みとおせなかったかたにご紹介。

(以下、ネタバレを含みますので、自分で読んでみたいかたはご遠慮ください)

*****

 えー、お話自体は純愛モノです。小説としてめざすゴールは「泣ける」「感動」です。登場人物は主人公の語り手アキ、その彼氏トモ、トモの元カノで五年前に死亡したカヨ。

 主人公アキはもう限りなく極悪ビッチ。23歳、美人、無職、実家暮らし、料理まったくできず、セフレ複数、セックス相手の財布からカネ抜きまくり、中絶経験二回、本妻に刺されたこと一回。16歳ですでに百人斬りパーティーを開いたというつわものです。

 これほど読者の反感を買う主人公設定というのもめずらしい。これに対し、アキの現在の彼氏トモができた男で。

 31歳、CGデザイナー、会社常務、金持ち、マンション持ち、料理うまい。

 どうしてこんなデキた男がアキとつきあうことになったかというと、トモ君、五年前にステディのカヨを交通事故でなくしている。で、たまたま合コンで出会ったアキの顔が、カヨとそっくりだったのですね。

『常務さんなんですかぁ? 若いのに超凄いですねぇ やっぱり実力? みたいな』

 こういうしゃべりかたをするビッチでも、トモにとってはカヨを思い出してしまい、その顔だけでつきあうことになってしまいました。ただし、アキはカヨのことをまだ知らないし、トモはアキの過去なんかどうでもいいと思っている。この状況で物語が始まります。

 目次は以下のようになっています。

プロローグ
第1章:アタシ こんなんですけど
第2章:気持ちの変化
第3章:意味わからない 苛々するんだって
第4章:だってさ 好きなんだもん
第5章:人を好きになると ここまで変われる みたいな
第6章:頭の中は トモばっかり
トモ:君を想う
第7章:同棲生活ってやつ?
第8章:ごめんなさい
最終章:アタシ彼女

 この小説、実はかなり凝った構成をしてまして、なかなかあなどれません。まず第1章で、主人公アキの一人称でビッチな自己紹介がなされます。

 第2章、トモがアキにブレスレットを買ってあげるのですが、このとき、トモがブレスレットをペアで注文しなかったという一点で、アキはトモを好きになってしまう(男性読者諸兄は参考にするように)。

 第3章、アキがカヨの存在を知ってケンカ。マンション内をめちゃめちゃにしてアキは去っていきます。『アタシはカヨの代わりじゃね~んだよ!』

 第4章、ふたりの和解。第5章、再度ケンカ別れ。原因はやはりカヨの存在です。トモはカヨを忘れられない。

 第6章、アキの「おかん」に言わせると、『アキは可愛くなったよ いい女になってきたよ 前のアキなら正直嫌な女性だったかもしれないけど 最近のアキなら凄い素敵な女性になってきたよ?』←おいおい。この章の終わりでは、再度アキとトモの和解がなされます。

 この後「トモ」の章で、これまでのアキの一人称で語られたきたエピソードが、すべてトモの一人称で語り直されます。「みたいな」も封印され、男性っぽい文体。テクニカルな構成ですねえ。

 ただし困ったことに、トモが最初にアキにひかれたのはカヨに似てたから、というのはともかく、その後「アキという女の子が気になって来た」理由がまったく不明という大きな問題があるのですが、そこはさておき。

 第7章、ラブラブのふたりですが、アキがトモの両親に会ったとき、カヨにそっくりなことに驚かれ、これが原因でふたりはまたケンカ。この章には少女マンガ的な見せ場も用意されてます。ただそれが「夜の」ダイアモンドダストというのはどうかと思いますが。あれ、夜に見えるのか?

 その後ふたりの冷戦は続き、アキが妊娠に気づきますがトモには言い出せません。

 第8章、アキは自然流産。ところが産婦人科から出てきたアキを目撃したトモは言います。

『中絶したの?』『最低だね 気まずいからって勝手に堕ろすなんて』

 これをきっかけにアキはトモのマンションを出ることになります。

 そして最終章は翌年春。この間にふたりになにがあったか。前章末の描写を受けて、叙述トリック的なものも存在しますので、ここには書かないでおきます。

*****

 理由はどうあれ、アキとトモがくっついたり離れたりを繰り返すだけの展開。小説における描写といえるものも、ほとんどありません。

 なんつっても主人公があまりにビッチすぎますので、主人公が不幸になってもかわいそうに思えない、どころか、読者としては、トモ君、あんた悪いこと言わないからさっさとこの子と別れてしまえ、とアンハッピーエンドを期待してしまいます。

 ただしそれなりに考えられた構成を持った作品ですし、その文体はまさに画期的。

 だいたい最近のネット上の文章も(さらにわたしの文章にしても)、限りなくしゃべり言葉に近く書こうとしているのです。その傾向からすると、この文体は無視できるものではありません、みたいな。

 「生理整頓」「いつもの用に」「つけずらい」「いつもと違く感じる」「ご飯をよそおった」といった奇妙な表現も、書き手がアキだから、という意味で納得できないこともありません。

 少し、感心しました。ただしこの手の作品はもう二度と読もうとは思いませんが。あー疲れた。

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September 26, 2008

あなたの知らないピョンヤン

 邦訳されたのは二年前ですが、わたしが読んだのがごく最近なのでご紹介。

●ギィ・ドゥリール Guy Delisle 『マンガ平壌(ピョンヤン) あるアニメーターの北朝鮮出張記』(2006年明石書店、桧垣嗣子訳、1500円+税、amazonbk1

 著者はカナダ生まれ、フランスのアニメーター/マンガ家。2001年、アニメーション指導のため、二か月間ピョンヤンに滞在しました。うーん北朝鮮が外貨獲得のため、フランスアニメの下請けをしてるとは知らなかった。

 本書はその時の見聞をマンガでレポートしたものです。原著は2003年にフランスで出版されてます。

 著者は2000年に中国・深圳のレポートマンガを描き、昨2007年にはビルマ/ミャンマーについてのマンガも出版してます。ディープ・アジアのレポートですから、日本でいえば西原理恵子、かな。でももちろん、サイバラみたいにはっちゃけてるわけはなくて、本作はマジメでちょっと暗い感じの作品になってます。

 まあこれは、題材がピョンヤンだからしょうがないのかもしれません。人民との交流があるわけでもなく、現地のアニメーターとすらほとんど会話がない。アニメのできあがりを見てリテイクを出すだけ。話すのはガイドと通訳、ばかりで、著者にとってはずいぶんつらい二か月だったようです。

 食事はまずいし、仕事はおもしろくないし、友人ができるわけでもない。とくに生活に自由がない。

 単純な線で描かれた絵で、薄墨(色鉛筆かクレヨン?)で濃淡をつけています。この絵の感じからもダウナーな印象を持ってしまいます。原著もモノクロで出版されたものらしいです。

 本書中にもありますが、「外国人に認められる自由度は様々だ 最低レベルの自由しか与えられないのは 多分、取材にやってくるジャーナリスト」。というわけで、本書はジャーナリストよりちょっとだけ自由を許されていた、西側外国人の目をとおしたピョンヤン。

 北朝鮮は彼らをどのように遇しているか、逆に彼らからは北朝鮮がどんな国に見えるか。日本というフィルターを通さない、という意味でも、ここに描かれているのは、わたしたちの知らないピョンヤンです。

 マンガ読みとしては、日本以外、ベーデーではレポートマンガはどのように描かれるか、興味のあるところでありました。レポートマンガでもフランス作品はどこか芸術っぽい、と思うのは気のせいでしょうか。味付けが違う、という感じ。

 金正日の体調問題がウワサになってますが、北朝鮮の体制がいよいよ変わっちゃうかもしれないので、読んでみたいかたは今のうち……かも。

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September 24, 2008

熱き思い

 人生のある時期、何かに意味もなく情熱をかたむけてしまうものですが、それが正しいほうに向いているのかどうか、だれも知らない。ですからすべてムダになっちゃうかもしれないけど、やっぱりそうしてしまう。それが若いということなんでしょう。ああ年寄りくさい文章だ。

 そんなことを考えてしまった三冊。

●小林裕美子『美大デビュー』(2008年ポプラ社、1200円+税、amazonbk1

 タイトルどおり「美大」を描いたマンガ。いちおうフィクションですが、多くのエピソードは事実に基づいているのだと思います。

 ハチクロのあと追い企画みたいな気もしますが、あっちよりエピソードは多彩。わたし、美大とかにはまったくの門外漢なのですが、やっぱ全国から絵がうまい芸術家肌のやつばっかり集まってきてて、世間から隔絶されてますと、こういう奇妙な空間になりますか。

 裏山でニワトリ追っかけてるし、アトリエに住み込んでるし、授業に出ず課題ばっかりやってるし、セブンスターの箱の模写してるし。

 絵はアクがなくさらっと描いた達者なものです。ペンを使わず、鉛筆で描いたうえからCGでトーン処理をしてある……のかな? 

 劇的な事件は何もなく、たんたんとした日常をつづった地味なほのぼの系マンガです。それぞれのキャラクターたちには個性があって、青春群像にもなってて楽しく読めます。人気が出たらシリーズ化されるかも。


●藤野美奈子『明日ひらめけ! マンガ家デビュー物語』(2008年メディアファクトリー、880円+税、amazonbk1

 こちらは純フィクション。主人公は少女マンガ家をめざす三人の高校生(♀2,♂1)。さらに落ち目の大御所少女マンガ家、そのライバル、編集者などが登場。

 えー、書影を見ればわかるように基本的にはギャグマンガ、と思って読んでました。ところがこれが意外と熱血な展開になっておどろいた。

 「マンガを描く」というテーマのマンガのなかでも、熱血度が高いのは、こっちも燃えてきていいですねえ。


●カラスヤサトシ『おのぼり物語』(2008年竹書房、562円+税、amazonbk1

 で、カラスヤサトシだけは、ちょっと年齢が上。著者が29歳のとき、マンガ家になるため上京したときのお話。約一年半のことを描いてます。

 仕事が月に四コマ一本から五本、だけ。あとは貯金で食いつなぎ、ひたすら悶々とヒマな日々を送ります。ムダにポジティブだったり、落ちこんだりのくりかえし。

 四コママンガ形式で描かれた長編エッセイで、すでに求めるものは笑いではありません。熱い思いがあるけれど、どっち方面に噴出させていいのかわからん、という感じが強くこっちに迫ってきて、カラスヤ作品で感動するとは思わなかった。

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September 21, 2008

『血で描く』感想

 こわごわ、という感じで、唐沢俊一/河井克夫『血で描く』(2008年メディアファクトリー)を読んでみました。

 うーん、マンガを扱った小説で、作品内に実際のマンガが登場するというアイデアは良かったのですが、小説としては文章がちょっとひどすぎましたね。

携帯電話のベルが鳴った。

 いや、「携帯」だったら「ベル」じゃないでしょう。読んでいてこういうつまづくような表現が多すぎる。

 たとえば、ヒロインが拉致監禁される場所がありまして、そこが犯人のアジトらしいのですが、描写というものがまったくありません。畳のアパートなのか、事務所なのか、倉庫なのか。

 出てくるのが、椅子と木製の小さなテーブル、だけ。あとで警官が踏み込んでくると、部屋の中には古本と段ボール。いったいここはどこなのか、最低限の描写はしてほしいものです。

 クライマックスの舞台となる鎌倉の古書店。書庫兼事務所は本でいっぱいで、「人間の立ち居するスペースは、ほんのわずかしか残っていない」ので応接スペースもなく、訪問者は、本をくずさないかと心配しながら、小さな丸椅子に座らされていました。

 ところがラストシーンでは、この部屋で怪物との「必死の追跡劇」はあるわ、テーブルと旧式パソコンはあるわ、男が女をソファに放り投げるわ。そんなに広い事務所だったのなら、最初の訪問のときに来客はちゃんとソファに座らせてくださいよ。

 ちょっとどうかと思うのが昭和35年=1960年の考証です。高卒初任給が一万円前後の時代です。貸本マンガ編集者の仕事ぶりがこんな感じ。

オオエ・サブロー氏に原稿催促の電話掛ける。

すぐ沼波のところに電話をかけ直したが、電話も止められているようだった。

 記憶しているかたもあるでしょうが、以前は電話加入権が高価(1960年なら10000円、1976年には80000円)だったうえ、さらにもっと高額の電話債券というものを(一時的にでも)購入しなければ、固定電話に加入できませんでした。

 ですから1950年代までは、緊急連絡は電報が主でしたし(藤子不二雄『まんが道』などに出てきますね)、もっと後年になっても、他家の電話を借りる「呼び出し電話」というものが存在したのです。

 極貧の生活をしていたはずの貸本マンガ家が、固定電話を設置しているという不思議。しかも編集者がそれを不思議と思っていない。

 マンガ家は「松下電器のトランジスタラジオ」(今でいうならiPod やウォークマンと同様に音楽を持ち歩くための最新機器でした)も持ってます。1955年に発売された日本初のソニー製トランジスタラジオは18900円でしたが、1960年ごろは他社製でもまだ6000円から16000円ぐらい。

 卓上の真空管ラジオじゃなくてわざわざトランジスタラジオを選ぶとはなかなかのこだわりですが、家計は圧迫されるなあ。

 いちばん奇妙なのは登場人物の行動です。

 ヒロインは尾行されているような気がして、「わざと人通りの少ない通りを抜けようと」して、誘拐されてしまう。

 探偵役の大学教員は、自分ではスーパーナチュラルな体験を何もしていないのに、「呪いの本」の存在をまったく疑っておらず、一瞬で真相にたどりつき、警察にも連絡する。

 だいたい主人公の大学生は、せっかく手に入れた古書マンガ、しかも秘密がありそうなそれを、盗まれてしまうまでまったく読もうとしてないんだよ。なぜなんだよー。

 もっと調べて考えて推敲して、きちんと書いたほうがいいと思いました。

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September 18, 2008

こういう楽しみ方はすてき『名作マンガの間取り』

 こういう本が出てまして。

●影山明仁『名作マンガの間取り』(2008年ソフトバンククリエイティブ、952円+税、amazonbk1

 漫画やアニメ(あるいは小説)に描かれた家の間取りを、作品から推理して製図した本。間取りがずらっと並んでいるだけの小さな本ですが、いやもう、楽しいったらありません。

 毎週放送されてるアニメ「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」の家の間取りを、あなたはどう考えているか。マンガ『ブラック・ジャック』の家や『あたしンち』のマンションの間取りをどう思うか。

 いや実はそのあたり、何も考えてませんでした。スミマセン。

 ところがプロのかたになりますと、そこがずいぶん気になるものらしくて。本書を書かれたのは盛岡市で建築コンサルタントをされているかた。ネットに発表したものを書籍化したものです。

 アニメ「ドラえもん」の家を作図すると、階段が急すぎて、ドラえもんのあの体形、短い足では昇れなくなっちゃうそうです。アニメ「カードキャプターさくら」には、巨大な地下図書館が登場しますが、柱や壁がないから、地上の建物をどう支えてるのか、なんてね。

 いちばん感心したのは江口寿史『ストップ!!ひばりくん!』(マンガ版)から、大空組邸宅を作図したもの。中庭がむちゃ広くて、これは立派な建物ですよ。

 マンガやアニメに新しい発見があります。こういうのは好きだなあ。

 さらに小説からも、『我が輩は猫である』の苦沙弥先生邸はどうかとか、『注文の多い料理店』はどうなっているのかとか。前者はこんなに広いとは思わなかった。後者は平屋にムリヤリ詰め込んで作図されてますが、著者のサイトには二階建ての修正版も描かれてます。

 こういう楽しみ方の元祖は、かつてベストセラーになった『磯野家の謎』(1992年飛鳥新社、今は日本文芸社パンドラ新書)。この本には磯野家邸宅について同様の考察があって、マンガ版からは、どう考えてもトイレは三ないし四つある、との結論になってました。

 そして『磯野家の謎』には、磯野家の間取りをアニメ版から推理した図も掲載されているのですが、これが『名作マンガの間取り』で推理された磯野家と、まるきり同じ。おー、あのアニメの設定はきちんとしてたのですねー。

 わたしが知りたいのは、『らんま1/2』の天道家邸宅です。あれはずいぶんと複雑な建物じゃないかな。

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September 16, 2008

手塚治虫の評伝

 手塚治虫のことを調べるのは、もちろん彼が多くの傑作を描き、日本マンガの方向性を定めたからです。ただそれにくわえて、人格者にしてウソつき、ヒューマニストにして嫉妬深いことこのうえなし、という複雑な人間性も、興味が尽きないところであるのですよ。

 竹内オサム『手塚治虫 アーチストになるな』(2008年ミネルヴァ書房、2400円+税、amazonbk1)読みました。

 新しく書かれた手塚治虫の評伝で、手塚の生活史中心に書かれています。

 手塚治虫の伝記を書くとき、何が問題かといって、手塚自身が大量の文章を残していることであります。これがもうなんというか、韜晦というかウソというかホラというかハッタリというか、これらが多くて全然あてにならない。

 いやもちろん自身の手になる文章ですから、真実もいっぱい書いてあるはずなのですが、手塚先生、話をおもしろくするために、自身を大きく見せたり、逆に卑小に見せたり偽悪的に書いたり、そんなことばっかりしてるのです。

 さらにずっと年齢を二歳上に詐称し続けたひとですから、作品が書かれた年代や少年時代の思い出などは、読者のほうが計算し直さなきゃいけなかったりするわけです。

 だもんで、手塚が書いたものと、家族や友人たちの証言が食い違うことが多い。資料が少ないのも困りますが、多すぎるのも困ったことであります。

 本書は、手塚治虫自身の文章と、周辺のひとが書いた文章や講演、証言などを比較し、手塚の生活史を明らかにする試みです。参照された資料や取材は多岐にわたり、著者が手塚の同級生たちにインタビューもしてます。労作ですね。

 これまでにいろんなひとが指摘し、他の文献などで明らかにされていた謎や食い違いが、本書で一覧できるようになっています。また書誌的な謎もいろいろとあります。

●いじめられっ子だったのは本当か
●めずらしいチョウを発見したのは本当か
●修練所を脱走したのは本当か
●戦争中にマンガを雑誌に投稿したのは本当か
●「桃太郎」でデビューしたというのは本当か
●「マアチャンの日記帳」連載のきっかけは何か
●酒井七馬との出会いはいつか
●「新宝島」の異本はいくつあるのか
●「ロストワールド」私家版はいつ何作描かれたのか
●ノイローゼになったのは本当か

などなど。

 手塚没後現在まで、著者だけじゃなく諸氏の手によって、手塚治虫の生活史に関する研究がいろいろとなされてきました。本書は、その総括ともいえる本になってます。まとまった手塚の伝記としては、今後第一に参照される本になるのじゃないでしょうか。

 本書の記述は1970年代初めまでが中心ですが、もちろん上記以外の手塚の生活史もきちんとこまかく書いてありますし、作品評も書かれてます。わたしのようなスレた読者以外の、手塚治虫に興味あるかたにもおすすめ。あまりに細かい考証部分もあるのですが、そういうところもおもしろいです。

 疑問点がひとつ。

 手塚治虫は昭和20年春に大阪大学附属医学専門部入学。医学専門部はもともと四年制だったのですが、終戦後の改正で五年制となります。手塚はマンガが忙しくて一年留年、六年かかって昭和26年春に卒業しました。そこからインターンがまる一年。そこでやっと国家試験の受験資格を得て、実際に受験したのは昭和27年春の第12回医師国家試験。

 ところが本書では以下のように書かれてます。

手塚は一年目、マンガに時間をとられて医師免許の国家試験に落ちているが、二年目の昭和二七年七月一六日に、第一二回医師国家試験に合格している。

 わたしの計算では、手塚は医師国家試験に落ちていないはずなのですが。

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September 14, 2008

『イキガミ』と『生活維持省』について

 これまで間瀬元朗『イキガミ』については2回書いてきました。

目覚めないネオの物語「イキガミ」
『イキガミ』再考

 どちらかというと、批判的に言及してますね。

 最近『イキガミ』と星新一『生活維持省』の類似について話題になっていますが、先日、あるかたからわたしに、この件に関する意見を求めるメールがありました。

 それに対する返答メールをアップしておきます。

*****

○○○○○様


はじめまして。
ネット上では漫棚通信と名のっております。

下記のメールをいただきました。

「イキガミ」と「生活維持省」に関して
わたしの意見を書かせていただきます。


(1)「イキガミ」と「生活維持省」の設定の類似について

よく似ています。

ただし、もちろん異なるところもあり、
国家による殺人の目的が違いますし、
殺人の方法も違います。

また、作品から受ける印象が違います。
「生活維持省」社会はじつに静かな感触ですが、
「イキガミ」社会はいかにも暑苦しい。


(2)「イキガミ」は「生活維持省」を参考にしたか

これについては不明です。

真実がどうかは別として、
アイデアが偶然に似てしまったという主張をされれば、
有効な反論はできないでしょう。


(3)著作権侵害が成立するか

残念ながら、成立しないと考えます。

作品の設定は似ていますが、
「生活維持省」が設定そのものをオチにしているのに対して、
「イキガミ」は死亡する人間についてのお話を、
複数展開させています。

この段階で、
すでにストーリーラインやプロットは別のものとなっています。

また著作権法ではアイデアは保護されませんので、
法律的な意味での著作権侵害にはなりません。


(4)倫理的に非難されるべきか

上記三点につきましては、
どなたからも同意をいただけると思います。
問題はここから先です。

「盗作」や「剽窃」については、
法律的な定義が存在するわけではありません。
この言葉を発するとき、
ひとは非難の意味をこめて使います。
倫理的な意味をこめて使用される言葉ですから、
言葉を発するひとそれぞれの倫理観が反映されていることになります。

同じ作品を、
あるひとは「盗作」と呼び、
あるひとは「無断引用」と呼ぶ。
さらにあるひとは「焼き直し」「参考」
「換骨奪胎」「古い革袋に新しい酒」
というかもしれません。
ひとによって意見は異なってくるのです。

「イキガミ」が「生活維持省」を下敷きにした作品であると仮定して、
「イキガミ」は非難されるべきでしょうか。

わたしは、
非難されるべきものではないと考えます。

「生活維持省」が設定そのものを扱ったショートショートであるのに対し、
「イキガミ」は設定を読者にも既知のものとして扱い、
さらにそこに登場する人物に焦点をあててストーリーを展開し、
一歩踏み込んだ別作品を作ったと考えます。

SF分野でも、
H・G・ウェルズが小説で「タイムマシン」を発明し、
それをパクった作家が複数存在したからこそ、
「タイムマシンもの」というジャンルが成立した、
と言われています。

初期にパクリがあったからこそ、
後世の作家はそのジャンルの作品を自由に書けるようになりました。

「イキガミ」も、
大きなくくりで言えば「ディストピアもの」のひとつですから、
「生活維持省」以外にも、
オーウェル「1984年」や映画「未来世紀ブラジル」の影響を受けているはずです。
もしかすると「生活維持省」を書いたときの星新一の頭の中にも、
先行する「ディストピアもの」の作品が存在したかもしれません。
先行作品や参考にした作品というのは、
フィクションの場合、
網の目のように入り組んでいて当然です。

いわゆる「パクリ」について、
これを完全に否定してしまえば、
フィクションの進歩を縛ってしまうことになるでしょう。
これは誰にとっても良いこととは思いません。

実は「イキガミ」は、
わたしとしてはあまり好きな作品ではありません。
(連載途中の現在までの感想ですが)
その内容に関しては、
むしろ批判的に読んでいます。

ただし作品成立の経過については、
非難しようとは考えておりません。


一読者の意見としてご参考になれば幸いです。


漫棚通信

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September 12, 2008

つうこんのいちげき! 1000ポイントのダメージをうけた!

 アマゾンでコレ↓を注文したところ、今日とどいたのではありますが。

●大友克洋/寺田克也『ビバ・イル・チクリッシモ!』(2008年マガジンハウス、5800円+税、amazonbk1

 

 箱を開けてみますと、あれれ、同じものが二部はいってるじゃないか。二冊組だから? ……でもまったく同じものだ…… ぐわあっ、ダブって注文したっ!!!

 あわててネットで注文履歴を確認すると、やっぱり二部注文してるじゃないですか。

 値段で気づきそうなものですが、実はほかの本もいっしょに注文してたうえに、アマゾンポイントとか使ってたから、そのあたりよく見てなかったんですよー。

 ダブりはときどきしていますので、安い本ならあきらめるのですが、なんせ税込6000円超ですよあなた。ブックオフに持っていくわけにも行かず、ここは返品するしかあるまい。しかし送料は自分持ちだしなあ。

 アマゾンは返品の場合同じ箱で送り返せとか書いてあるし、アマゾンの箱で計算してみると、ウチの地方から千葉まで、宅急便で1160円、ゆうパックで1000円。とほほ。クリックミスでこれか。

 この世でいちばんのムダ金は、レンタルビデオの延滞金だと思っておるのですが(←あれほどクヤシイものはない)、それに続くムダ金であります。

 これなら将来値打ちが出るまで抱いておくか。って、となりで妻がすごく怒っていますのでそういうことはできません。

 あ、本の内容につきましては、あまりのダメージにしばらく読めそうもありませんです。

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September 10, 2008

日本初ベーデー雑誌「ユーロマンガ」

 アメコミですら日本に定着しないのに、これを創刊するとは思いきったことをするなあ。

●「euromanga ユーロマンガ」1号(2008年飛鳥新社、1500円+税、amazonbk1

 日本初のバンドデシネ(BD=ベーデー)専門誌です。オールカラー120ページ。内容はBDが四作品と、あとはBDの歴史を書いた小文、作者紹介やインタビューなど。それぞれの作品は原著一巻の半分ほどが収録されてるそうです。

 収録作品はこれ。

●バルバラ・カネパ/アレッサンドロ・バルブッチ『スカイ・ドール』
●エンリコ・マリーニ/ジャン・デュフォー『ラパス』
●ファーノ・ガルニド/ファン・ディアス・カナレス『ブラックサッド』
●ニコラ・ド・クレシー『天空のビバンドム』

 書影の表紙イラストが『スカイ・ドール』。ディズニー系の絵で、セクシーなロボットのヒロインを描くとこうなります。お話は、掲載されてるぶんがほんとにプロローグなので、まだよくわかりません。

 『ラパス』はホラー。四作のうちでは日本マンガにもっとも近い感触があって読みやすいのじゃないかしら。

 『ブラックサッド』はすでに早川書房から邦訳があります。これもディズニー系で、あいかわらず達者な絵と展開。

 で、必見なのが、ニコラ・ド・クレシー。なんとも圧倒される絵で、内容は難しくてよくわかんないけど、なにやらスゴイものを見てしまった、という感想です。

 かつて日仏作家のアンソロジー『JAPON 』(2006年飛鳥新社、1238円+税、amazonbk1)で、ひときわめだつ作品を描いていたのがド・クレシーですが、あれはモノクロ。カラーではこんな絵を描くのかー。ページごとに画材やタッチがどんどん変化していってて、これって気合いがはいりまくってるのか、それともすごく飽きっぽいひとなのか。ともかく続きが読みたいっ。

 ユーロマンガ2号は来年三月発売だそうですが、お願いですから休刊せずにずっと刊行続けてくださいよー。

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September 08, 2008

スピリッツ創刊号

 「週刊ビッグコミックスピリッツ」の新装刊第一号が発売されております。
 付録がいっぱいついて、286円+税=300円というのはちょっとびっくり。しかしこの通巻1369号(第29巻41号)が9月26日増刊号と、増刊扱いなのはなぜなのかしら。

 スピリッツ新装刊記念として、「ビッグコミックスピリッツ」創刊号を紹介してみます。書影はヤフーオークションのものなので、いずれ消えちゃうでしょうけど。

 創刊号は1980年11月号でした。1980年11月15日発行毎月15日発行の月刊誌。第1巻第1号です。発行人・小西湧之介、編集人・白井勝也、定価230円。まだ消費税が存在しないころです。

 表紙はエアブラシで描いた宇宙船。画家のクレジットはありません。コピーは「ニューパワーを結集して第3のビッグここに誕生!」。

 表2の広告は「YMO イエロー・マジック・オーケストラ 米国編集版」。ただしもちろんCDじゃなくてレコードです。

 以下収録作品。

●はるき悦巳「ガチャバイ」第1話:24ページ(カラー4ページ、二色4ページ)

 「じゃりン子チエ」の作家が巻頭カラーです。はるき悦巳がアクションを離れて描いた、というのが衝撃だった時代。

●本宮ひろ志「俺の女たち」第1話:28ページ
○自社広告:本宮ひろ志単行本「男樹」「ドン」:1ページ
○自社広告:ビッグコミックスピリッツ創刊第2号:2ページ

 第2号の目玉は、長谷川法世と池上遼一です。

○クイズ:「創刊記念プレゼント付 立体クロスワード」第1回:1ページ
●いしかわじゅん「ちゃんどら」第1話「ちゃんどら最初のご挨拶」:16ページ

 ビッグマイナーのいしかわじゅんが、メジャーに進出しました。

●青柳裕介「はるちゃん」第1話「源氏名」:32ページ(二色4ページ)
○自社広告:青柳裕介「土佐の一本釣り」1ページ
○エッセイ:椎名誠「全日本食えばわかる図鑑」第1回「青イソメ・ゴカイ丼」:1ページ

○自社広告:ビッグコミックフォアレディ:創刊号11月28日ごろ発売230円:1ページ

 創刊号のラインナップは、池田理代子、水野英子、牧美也子、竹宮惠子、倉田江美、土田よしこ、冴木奈緒、風野朱美。

○自社広告:郷ひろみ「たったひとり」:1ページ
●谷口ジロー/狩撫麻礼「青の戦士」第1話:32ページ

 谷口ジロー、メジャーへの第一歩であります。

○自社広告:篠山紀信「激写」:1ページ(カラー)
○広告:PIONEER:ALL DAY COMPO SYSTEM (オーディオ、センターカラー2ページ)
○自社広告:名宝日本の美術全26巻:1ページ(カラー)

●岩重孝「ぼっけもん」第1話「秋本番」:26ページ
○自社広告:一ノ関圭「らんぷの下」「裸のお百」:1ページ

○自社広告:ビッグコミック11月10日号200円:2ページ

 このころの巻頭は、ちばてつや「のたり松太郎」。

○自社広告:小学館文庫(コミック):1ページ
○映画評:松浦理恵子「ルードウィヒ神々の黄昏 倒錯者たちのアイドルの王はどこにいってしまったのか!?」:1ページ
○自社広告:探訪日本の古寺 京都(一):1ページ
●御厨さと美「56マイルの悪魔」読み切り:32ページ

●高橋留美子「めぞん一刻」第1話「隣はなにを…!?」:20ページ(二色4ページ)

 スピリッツ創刊号は「めぞん一刻」第一回が掲載されていたことで歴史に残るかもしれません。しかし二色あつかいではありましたが、掲載順は中盤以降。けっしてビッグネームであったわけではありません。

○自社広告:続男の料理:1ページ
○自社広告:ビッグコミックオリジナル11月5日号200円:2ページ

 このころのトップは水島新司「あぶさん」。

○自社広告:白土三平異色作品集:1ページ
●はしもといわお「村塾物語」第1話:8ページ
●宮谷一彦「虎の娘」第1話「虎事来歴」:32ページ

 スピリッツ創刊号の最大の目玉は、じつは宮谷一彦。宮谷ねらいでスピリッツを買ってたひとは多いはずです。

○自社広告:ちばてつや「のたり松太郎」:1ページ
○「SPIRITS FAN 」読者ページ:創刊号は作者より:2ページ

 みなさんが興味あるかもしれない作家たちのひとことを再録しておきます。

▲吾妻ひでお:創刊おめでとうございます。思わず買いたくなるようなメンバーがそろっているスピリッツ。本宮氏、青柳氏……… そして吾妻ひでおもいる!! それに、な、なんと、い、いしかわじゅんもいるではないか!!

▲いしかわじゅん:フッフッフッ… とうとう大小学館のコミック誌にも登場しちゃったのよね。全コミック出版社制覇まで、あと三社、いしかわじゅん時代の夜明けも近いのよね。

▲高橋留美子:これまでの私の作品はSF的なものがほとんどだったのですが、『めぞん一刻』はSF的なタネやシカケはぜんぜんないのです。創刊号のメンバーになれるだけでもうれしいのに、私にとっては非SFの連載という初めての試みができるなんて、ほんとに胸がときめきました。

▲谷口ジロー:メロウな時代かしらないが、やたらナヨナヨしたコミックばかりがもてはやされて、私のところにはまるで仕事が回ってこない。(略)狩撫氏とは初コンビ。正直いうと、少々とまどいもあるが、ダイナミックなストーリーを得て、やりがいはある。私はスピリッツに賭けている。

▲宮谷一彦:名古屋の郊外から、創刊に参画する喜びをしみじみと感じている。これまで、いろんなことがあり過ぎて、言葉もないが、なんとか、ここでと、まさに背水の陣である。もう後はない。運命的なビッグスピリッツと出会いの中で、結果は恐れず、とにかく、一つの作品を完成させようと思っているL鬼才などという冠詞のとれた一人のコミック作家として。

▲白井勝也:ビッグ創刊より12年、オリジナル創刊より8年。いま、また、ここに三つの祈りをこめて、スピリッツを創刊させていただく。その第一は、コミックを血肉化した若き読者に、コクのある作品で充足感を味わっていただきたい。第二は、スピリッツ連載群から、80年代の財産となるべき名作を生み出していきたい。第三は、一日も早く月二回刊とし、真の第三のビッグとしての位置を確立したい。末長い御愛読を乞う。

○モノクロページの巻末に目次:1ページ

●吾妻ひでお:「とつぜんDr.(ドクター)」カルテ1:二色4ページ

○表3:広告:日本ホビー協会:総監修・矢口高雄の釣り講座
○表4:広告:ダイハツ:シャレード

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September 05, 2008

マンガの調べもの

 マンガの書誌的なことをよく調べるほうなのですが、いつもお世話になってるところ。一次資料である本や雑誌からこれらのデータを作って公開されたかたがたには、いつも感謝しています。ありがとうございます。

●書籍

 これは書店のデータベースを使用することが多いです。アマゾンやビーケーワンも使いますが、いちばんお世話になってるのが「紀伊國屋書店 BookWeb 」。ものによってはかなり過去、1970年代後半の書籍データまであって充実してます。作者の名を打ち込むと年代順にずらっと検索結果が見られてずいぶん便利。

 ところが紀伊國屋は最近リニューアルしてしまって、以前はページあたり80件一覧表示してくれてたのですが、今は大きな書影つきで20件しか表示してくれません。使い勝手が悪くなってしまいました(←スミマセン、今も詳細検索から設定すると、ページあたり100件表示できるみたいです)。

 新書版マンガ単行本に限りますと、コチラの「新書版コミックス総合リスト!」がたいへんありがたい。すごい労作。

 1970年代以前の古い本は、書店にデータがないことが多いので、図書館データベースを利用してます。ただし図書館でこの時期のマンガはまずヒットしませんので一般書だけ。よく使うのは「東京都公立図書館横断検索」。時間がかかるのが難点ですが、ねらい目の本一冊だけを探すときは便利です。

●雑誌

 少年画報社「少年画報」は、『少年画報大全』(2001年少年画報社、2762円+税、amazonbk1)という立派なムックが出てまして、これにまさるものなし。今も買えるはずです。

 光文社「少年」については、(1)2005年に出版された『「少年」昭和37年4月号オ-ル復刻 BOX 』の付録小冊子の「全少年目次リスト」と、(2)「少年傑作集第3巻」(1989年光文社文庫)の「少年・付録全リスト」を合わせて参照すれば、なんとかなります。

 集英社「おもしろブック」「少年ブック」はこちらの「ちょろおじさんの遊び場」さんにあるリストがありがたい。

 講談社「週刊少年マガジン」は書誌的にはいちばん充実しています。『復刻版少年マガジン漫画全集』(全三巻、講談社1992年)などは、それまでのマガジン掲載マンガをすべて網羅していて、すごく便利。

 これに対して、小学館「週刊少年サンデー」は書籍の形でデータ化されてるものが少なくて困ります。ネット上では、「週刊少年サンデー超名鑑!!」にいつもお世話になってます。

 集英社「週刊少年ジャンプ」については、西村繁男『まんが編集術』(1999年白夜書房)の巻末データが充実してますのでこれを使用することが多いです。ネット上には超有名な「思い出の週刊少年ジャンプ」というサイトがあります。

 少年画報社「週刊少年キング」も、「ちょろおじさんの遊び場」の「少年キング雑誌リスト」を使わせてもらってます。

 秋田書店「週刊少年チャンピオン」が困っちゃうんだよなあ。雑誌としての検索はなかなかむずかしいので、作家や作品ごとに検索するしかないみたいです。

 青林堂「ガロ」。以前は「長井勝一漫画美術館」のサイトがあったのですが、最近はアクセスできません。もう閉めちゃったのかな。だもんで「三月劇場」のサイトと、「ちょろおじさんの遊び場」を併用して。ただし初期のものしかありません。

 虫プロ「COM」も同じで、上記「三月劇場」と「ちょろおじさんの遊び場」の併用。ただし「COM」に関しては、いつかはわたし自身で、ネット上にこまかいインデックスをアップするつもりではいるのですが(いつになるやら)。

●作家

 あとは各作家の公式ページやファンサイトがいっぱいあります。みなさん力作ばかりで頭が下がりますねえ。有名作品になりますと、『現代漫画博物館』(2006年小学館、4200円+税、amazonbk1)などが利用できます。

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September 03, 2008

マンガはSFに限る『戦後SFマンガ史』

 米沢嘉博による“戦後マンガ史三部作”というのがあります。

 『戦後少女マンガ史』(1980年新評社)、『戦後SFマンガ史』(1980年新評社)、『戦後ギャグマンガ史』(1981年新評社)。発行日を見ますと、一年半のあいだにこの三冊、イッキに出版されています。

 このうち『戦後少女マンガ史』が昨年文庫化されたのに続いて、『戦後SFマンガ史』も文庫になりました。

●米沢嘉博『戦後少女マンガ史』(2007年ちくま文庫、880円+税、amazonbk1
●米沢嘉博『戦後SFマンガ史』(2008年ちくま文庫、900円+税、amazonbk1

 

 『戦後少女マンガ史』のほうは、少女マンガを初めてきちんと整理して記述した、まさに名著ですので、米沢嘉博構成の『別冊太陽子どもの昭和史 少女マンガの世界』1・2とあわせて、よく参照させてもらってます。

 でも『戦後SFマンガ史』はすっごく昔に読んだことがあるだけ。今回、文庫化されたのを機に再読しました。いやおもしろい、こういう内容でしたか。すっかり忘れてました。

 文庫で約400ページの本ですが、明治期の押川春浪に始まり1968年の雑誌「少年」の休刊まで、ここまでの記述が300ページ。この部分を実にじっくり語る語る。

 この本の刊行が1980年で、1970年代のSFマンガ、スパイダーマンとかデビルマンとか萩尾望都は残り100ページに詰め込まれてます。本書のラストは、大友克洋『Fire-Ball 』と吾妻ひでおで締められます。本書の段階では、まだ大友の『童夢』も登場していません。

 というわけで、「SFマンガ」史というよりも、少年向けSFマンガを軸に書かれたマンガ史でありました。マンガ史といっても、状況論よりも作家・作品論に重心が置かれています。とりあげられた作品は膨大で、著者の知識量はおそるべきものです。

 SFマンガについて語るなら、記述の中心となるのは手塚治虫です。本書の前半でも当然ながら手塚が多く登場しており、この本は米沢嘉博による手塚治虫論として読むのも可能です。

 著者によると、世界や物語を描く手塚SFは、少年キャラクターの弱さと記号的絵が弱点であった、という指摘は現代から考えても的確。1980年ですから手塚は存命ですが、そのころに書かれた手塚論としてじつに先進的です。

 また、著者は雑誌におけるマンガ対劇画を以下のように表現します。

単純な線と落書きじみた絵の荒唐無稽でうそっぽい単純なストーリーのケバケバしい少年マンガは、リアルに描き込まれ疑似リアリズムでそれらしい社会性を持たされスピーディなコマ運びの劇画の迫力の前には、あまりにも子供っぽく軽かった。

 このようにどちらかを称揚するわけでもなく、本書は冷静なバランス感覚で書かれています。

 世界を描くSFマンガに対抗するのは、キャラクターを描くスポーツ・格闘マンガであるはずでした。しかし80年代以降描かれるようになった、ファンタジーやSFのような格闘マンガ、『ドラゴンボール』や『北斗の拳』は、SFマンガの系譜にどのように位置づけられるのか。米沢嘉博が存命なら、再版にあたりきっと加筆したでしょう。

 今、本書を文庫で読める、というのはすばらしいことですが、複雑な気分でもあるのです。

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September 01, 2008

産業スパイはドロボウです

 ちょっと変わったマンガを読みました。

●竹本真『サンスパ』(2008年講談社、695円+税、amazonbk1

 タイトルの「サンスパ」とは、「産業スパイ」を若い子ふうに略してみた言葉だそうです。

 家電大手に勤める技術者、花丸ひな子は首からさげる金メダル型携帯音楽プレーヤーを開発しますがこれが大コケ。左遷されて失意の生活を送っていたところ、社内の謎の部署から産業スパイとしてスカウトされ、ライバル会社に潜入することに。

 とまあ、家電業界の産業スパイを扱ったマンガ。情報を盗もうとする側、守ろうとする側のタタカイ。サスペンス+コメディです。

 家電業界も技術開発も、さらに産業スパイの存在もまったくわたしの知らない世界です。基本的に犯罪者の話なので、倫理観との葛藤もあります。エンタメの題材としてはいい感じ。現代の世相を斬る、というところまでには踏み込んでいってません。

 一巻だけで完結しちゃったということは、雑誌(イブニング)連載としては失敗だったのかもしれません。でも実は、これぐらいの長さのものを単行本で読めるのは、読者としてはありがたい。映画やTVにするとしてもちょうど二時間ぐらいでしょうか。

 絵は井浦秀夫に似たタッチかな。ケレンに欠けて地味なのがもひとつですが、奇妙な味があって楽しく読みました。

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