高校生限定オススメ『マンガ物理に強くなる』
『あんたっちゃぶる』以来の鈴木みそファンでしたが、かつてブルーバックスから『マンガ 化学式に強くなる さようなら「モル」アレルギー』(2001年講談社ブルーバックス、940円+税、amazon、bk1)が刊行されたときは驚きました。でも考えてみれば、レポートマンガをずっと描いてきたひとですから、ムズカシイことをわかりやすく伝えるのは得意なはず。
でも、モルですよモル。そういえば、モル沸点上昇、モル凝固点降下ってあったよなー。あれなんだったっけ。記憶の彼方であります。ちょと不安に思いながら読んだのですが、これが楽しくわかりやすい本でよかった。その後モルについては再度記憶の彼方に行っちゃいましたけど。
で、楽しみに待ってた、鈴木みそによる学習マンガ第二弾。
●鈴木みそ/関口知彦『マンガ 物理に強くなる 力学は野球よりやさしい』(2008年講談社ブルーバックス、980円+税、amazon、bk1)
今度は物理、しかも力学の基礎です。質量と速度と加速度と力だっ。さすがにこっちはモルよりは覚えてるぞ。
学年一の天然系秀才少女が、野球部のエースで四番、留年の危機にあるデンチュー君に物理の基礎を教えてくれます。彼らにからむのが、デンチュー君ラブの女の子と、顔ゴツイ系野球部捕手。というわけでラブコメ風味もあります。
ほんとに基礎の基礎をじっくり語ってくれてます。教科書の公式まる覚えより、ずっと役に立ちますね。登場人物が野球部員なので野球のボールが例として登場。著者にしてみれば、サッカーでなくて野球にしてみたけどこれで良かったのかしら、と不安があるみたいですが。
思えば戦前の少年倶楽部のキャッチフレーズ、「おもしろくてためになる」は、現在もレポートマンガやウンチクマンガに引き継がれています。しかし幼年向け以外の学習マンガは、おもしろさよりも、高度なことをわかりやすく、という大目標があります。
これを成功させるのはむずかしい。このジャンルでのゴールは感動じゃなくて理解なのですから、すでに普通のマンガとは違うものです。最近は幼年向けじゃない学習マンガも増えてきましたが、多くの作品はおもしろさを犠牲にしてるし、さらにわかりやすさという意味でももうひとつ(読者であるわたしの理解力の問題もあります)。
その点、本書は名作の部類にはいるのじゃないか。メインとなる講義部分と小ギャグやつっこみが渾然一体となり、「勉強の喜び」も描かれてて、気持ちよく読めます。
ただしこれは、一応理系であるわたしの感想でして、高校物理をやってない妻などは、すでにこの本の最初のほうでうーんうーんとうなっておるのでありますが。
しかしこういう本が読める今の高校生は幸せですね。わたしが若いときにこんなマンガがあったらなあ。高校生諸兄には、すっごくオススメ。
Comments
講談社ブルーバックスのマンガも、翻訳がずいぶんあります。立ち読みしただけですが、あれはわかりやすいとは言えませんですねー。
Posted by: 漫棚通信 | August 26, 2008 08:37 PM
boxmanさん、ありがとうございます。紹介いただいた本のうち、マンガ「アメリカの歴史」(勝手に邦題をつけました)は購入して、学習マンガを分類する際の参考にしました。
Posted by: すがやみつる | August 24, 2008 03:03 PM
> 卒論が「学習マンガ」です
それはおもしろそうな研究ですね。脱稿されたら読んでみたいです。
ちなみにこの手の「マンガでわかる」ものは決して日本独自のものではなく、欧米でもけっこう変なものが出ています。
一例を挙げると
http://www.amazon.co.jp/s/ref=nb_ss_fb?__mk_ja_JP=%83J%83%5E%83J%83i&url=search-alias%3Denglish-books&field-keywords=Cartoon+History+of&x=12&y=13
の検索でひっかかってるものは相当数がそれです。
日本のものと傾向を比較してみるとおもしろいかなと思います。
Posted by: boxman | August 24, 2008 07:59 AM
「化学式に強くなる」もそうでしたが、
当初の〆切からいったい何年……と考えると怖いです(笑)。
Posted by: かくた | August 24, 2008 12:00 AM
いま社会人学生の4年生をしていますが、卒論が「学習マンガ」です。
コンピュータやビジネス情報など、広い意味での学習マンガというジャンルを開拓した、というささやかな自負は持っているのですが、学習マンガで本当に内容が理解できるのかどうかが不安で、卒論では、100人以上の人たちの協力を得て、学習マンガの内容を憶えているかどうかの実験をやったりしています。
実作者の立場からすると、この手の学習マンガは、マンガ家(ネームという演出の担当者)が、そのテーマについて「理解」していないと、わかりやすい作品にはなりません。卒論のために200冊以上の学習マンガ(広義)を読みましたが、原作やシナリオのセリフを吹き出しの中に引き写しているだけの「お仕事」としてつくられた学習マンガが多いんです。
boxmanさんが紹介されているフーリエ解析の学習マンガも、絵は今風なんですが、肝心のフーリエ解析の説明部分がシナリオ型式の文章と図になってしまっていて、「マンガで絵解き」してくれていないのがちょっと残念なところです。
いま発売されている学習マンガの中では、作者の題材(科学)に対する好きさ加減(愛ですね)や「子どもに知ってもらいたい」というココロザシまでもが感じられるという意味で、あさりよしとお氏の『まんがサイエンス』シリーズを高く評価しています。
Posted by: すがやみつる | August 23, 2008 11:26 PM
「増えてきた」というより、この手の「マンガで学ぶ~」ものは最近それ自体かなり変な世界を形成してると思います。
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%81%A7%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%82%8B%E3%83%95%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%82%A8%E8%A7%A3%E6%9E%90-%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%97%E3%83%AD/dp/4274066177/
とか、数もけっこう半端じゃなく出ているし。
Posted by: boxman | August 23, 2008 09:56 PM
このモル本知ってます!今年の春に図書館で借りたことがあって、
家のテーブルに置いておいたら父親(70歳)が読んでました。
「いいなぁ、これ分かりやすいなぁ」だそうです。
ちなみに経済学部(というか大学柔道部の副主将)出身です。
同じブルーバックスにある『偉人と語るふしぎの化学史』も萌えねらいですね。AMAZONで表紙をチェック!
Posted by: ど~ | August 22, 2008 08:12 PM