マンガに対する批判と規制
マンガというメディアには、どうしたって下品でジャンクな側面があります。時代の経過とともに表現が洗練に向かういっぽうで、下品でどこが悪い、ジャンクでこそマンガであると開き直る態度も存在します。
となると、どうしたってマンガと社会は衝突することになるわけでして、今年になっても児ポ法改正の動きがあり、マンガもそのターゲットになっています。
ただこれは避けられない運命とでもいいますか、マンガが下品でジャンクなものであることをやめない限り、すなわちマンガがマンガである限り、今後もずっとくり返されることになるのでしょう。
じゃ過去はどうだったか。マンガが社会あるいは国家から批判、そして規制されてきた歴史というのを知ってみたくなります。ネット上にはAMI-Web のサイトに「日本でのマンガ表現規制略史」というありがたいものがありますが、書物として何かいいものがないかと探しておりました。わたしが最近読んだのはこれ。
●竹内オサム『戦後マンガ50年史』(1995年ちくまライブラリー、1400円+税、amazon、bk1)
●橋本健午『有害図書と青少年問題 大人のオモチャだった“青少年”』(2002年明石書店、2800円+税、amazon、bk1)
ともにちょっと古い本ですが、まだ現役で買えるようです。あと多くの図書館にはいってるのじゃないかしら。
『戦後マンガ50年史』はあとがきにもあるように、「“事件”を通してみた戦後マンガの五〇年の歩み」を書いた本です。
「事件」の内容は主に、マンガ出版・流通・作品そのものが社会からどのように批判され非難の対象になってきたか、です。本書に書かれているマンガ批判とは、(1)赤本マンガ、(2)絵物語、(3)月刊誌時代のマンガ、(4)1955年からの「悪書追放運動」、(5)貸本マンガ、(6)マンガ週刊誌、(7)戦記マンガ、(8)雑誌で台頭してきた劇画、(9)そして本書が書かれた1990年代の大きなテーマだった「黒人差別」と「有害コミック」問題、など。
個々の作品になると、残酷・差別・戦争・エロ・ジェンダー・モデル問題・著作権問題と、さまざまなトラブルもありました。それぞれについてはわたしも知識がありましたが、きちんとまとめて読んだのはおそらく初めて。
歴史をていねいに追った労作で、少なくともマンガ批判に関する基礎知識は、この本で十分得られるのではないでしょうか。
ただし、悪書追放運動などはマンガだけを対象にされたものではありません。古くは「不良週刊誌」なんつー言葉もあったそうです。そこで『有害図書と青少年問題』。
こちらはマンガを含めたいろんな本に対する規制の動きを、経年的に細かく追っかけたもの。『戦後マンガ50年史』よりもさらにくわしい記述になってて、規制推進派の主張や行動がこまかく調べられてます。こっちはわたしが知らなかったことも多かったです。
本書を読みますと、(1)「青少年を守る」というお題目のもと、(2)「悪いものは悪い」という思考停止の結果、(3)いろんな本の発行や流通がくりかえし規制されようとしてきたことがわかります。『戦後マンガ50年史』とあわせて読めば、表現の規制の歴史が立体的にあらわれてくる感じ。
日本人は戦時下とGHQ による統制を経て、やっと表現の自由を享受できるようになりました。ただしそれは国民が勝ち取った権利というより、敗戦によって突然転がり込んできたもの、とも言えます。だからなのか、われわれは国家による表現の規制を簡単に求めすぎていないか。
両書とも新聞や雑誌からの引用が多数あり、その時代その場で実際にどのような発言があったのかよくわかるようになってます。いや勉強になりました。
Comments
ここ数年で規制という単語自体が「ネタ」になってしまっているので、騒ぐ側も一回まとめたほうがいいかもね。。。。
Posted by: ロスペド | July 17, 2008 05:52 PM