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July 17, 2008

娯楽としての盗作鑑賞

 栗原裕一郎『〈盗作〉の文学史』(2008年新曜社、3800円+税、amazonbk1)読みました。

 いやどうもおもしろいのなんの。盗作ヲチがこんなにおもしろいものとは知りませんでしたねー。

 オビにある「盗作大全」というコピーにふさわしく、明治以来の日本文学における盗作事件を総まくりした本。とくに戦後の小説中心に書かれてます。

 本書でとりあげられている戦後の作品は、小説45作、その他ノンフィクション/エッセイ、翻訳、短歌、俳句、映画、TVドラマ、TVドキュメンタリー、シナリオ、歌詞など、となっております。

 これ以外にも、学術論文やら評論やら、さらに絵画、デザイン、マンガと、盗作として報道された作品はもっと多いはずですが、さすがにすべてに言及するのはムリ、というわけでそっち方面は本書ではパスされてます。惜しいことに唐沢俊一氏による漫棚通信ブログ盗用事件は載ってません。

 それぞれの作品については、わたしが読んでもこりゃ盗作やないやろ、と思うものも含まれてます。これは盗作というものが、盗作であると報道するメディアの問題でもあるからです。「盗作」「盗用」「剽窃」という言葉そのものが、法的に定義されているものではありません。

 さらに本書では「無断引用」といういまだに使用され続けている珍妙な言葉も、それぞれのマスコミ各社内で規定されているジャーゴンであると指摘されています。

 引用は無断でしてかまわないとあれほど言われていても、「無断引用」という言葉が生き残っているのは、あくまで出版各社の恣意的な使い分けによるもの。これはまちがいなく「盗作」、このあたりなら「無断借用」、この程度では「無断引用」というところでひとつ納得してくんないかなー、というわけです。なるほどそうだったのか。

 また日本の司法判断においては、マスコミで報道される「盗作事件」のほとんどは「法廷で争われたとしても著作権侵害にはおそらく問われないだろう」という文章も、実際の判例をくわしく提示してくれています。本書は、今後盗作を語るかたがたには必読の書となるでしょう。

 この分野にはまったく先行研究がなかったそうです。となると本書はまさに空前の書でありまして、著者によるあとがきにはこのように書かれております。

参考文献がないということは事件のインデックスとなるものがないということであり、それはすなわち事件自体を自力で発掘していかねばならないということである。バベルの図書館、ならぬ国会図書館を最深部とする書物の海に素潜りするようなものだ。

 このように労作である本書で何がおもしろいかといって、なんつっても盗作(を指摘された)側のイイワケがおもしろくってしょうがない。

ぼくは、このような意見、つまり「薫くん」流にいえば、人の足をひっぱって自分の存在を主張するといった「品性下劣」な、めめしい発想をとてもお気の毒に思いますし、そのような発想がこうした形でとりあげられるというような時代の状況自体を問題だと考えているわけです。(庄司薫)

盗作だなんて、そんなことは決してありません。フォークナーは好きでした。好きでノートに書き移してみたり、暗唱してみたりしたほどですから、気づかない間に、自分の文章の中にまじりこんでしまったんだと思います。(西村みゆき)

まア過去の駆け出しの時代のことですし、なんとか大目にみてくださいよ。私の場合、原作より面白いかも知れないんですからね……。(大藪春彦)

 山崎豊子あたりになりますと、『花宴』の盗作事件のとき、

私は作家として一番許されない誤りをおかした自分の不明と不心得を恥じ、全面的に深くお詫びいたします。(山崎豊子)

と言ってたにもかかわらず、後年のインタビューで、山崎さんは前の“花宴”も盗用だったと認められますか? という問いに対し、

いえ、認めません。(山崎豊子)

とまあ、堂々たる前言撤回をおこなったりしてます。

 こういう盗作者側の態度というのは、多くは悪あがきとしか見えませんが、実際には盗作じゃなさそうな例も含まれてますから、問題はさらに複雑になります。このように盗作をめぐる、盗作者、被盗作者、擁護者、非難者たちが入り乱れて登場する物語、これがなんともおもしろいったらありません(当事者じゃなければね)。

 本書全体を通して、盗作およびその騒動は日本文学の発展に寄与したか、という著者の問題意識があるのですが、少なくとも本書によると、寺山修司の(盗作)短歌だけはその後に建設的影響を与えたみたいです。

 それにしても盗作するひとというのはあれですかねえ、夜中にゲヘヘとか言いながら人の文章を丸写ししたりネットからコピペして、文末をせっせと修正してるのでしょうか。それともあまりにアタリマエの行為すぎて、なんとも思ってないんでしょうか。

 ここはもう、本書では批判的に言及されている朝日新聞(盗作業界では、盗作スクープ好きで有名)の書評欄で、盗作家として著名な唐沢俊一氏にぜひとも書評をお願いしたいものです。唐沢氏ほど盗作者の内面にくわしいかたも、そうはいないはずですし。

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Comments

最近、唐沢盗作氏を、テレビで見ることが多い。もちろんすぐにチャンネルを変えますが。昼間から、あの顔を見るのはつらくないか。マスコミは、話題になった人物ならだれでも良いのでしょう。焼け太りならぬ、盗作太りか。

Posted by: misao | July 18, 2008 09:07 AM

「無断引用」というのは著作者に「無断」で引用したという意味ではなく、引用した旨を文脈の中で「断わっていない」というニュアンスなんじゃないでしょうか。つまり「引用」とは傍からは分からない。盗作ということです。

Posted by: 藤岡真 | July 17, 2008 03:28 PM

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