地球岬=ポロ・チケップ=親なるもの断崖
10年ほど前、ご近所に新古書店が開店したとき、異様な感じのマンガを見つけました。レディコミふうの絵で、かなりぶ厚い一冊。北海道室蘭の遊郭を舞台に、遊女や芸妓たちの壮絶な人生を描いたもので、立ち読みしててもアタマの後ろあたりが熱くなるのを感じました。
この作品、曽根富美子『親なるもの断崖』(1991年主婦と生活社)です。あとから調べてみると、1992年度の日本漫画家協会賞優秀賞を受賞している作品じゃないですか。
そのときは全二巻のうち一冊だけしか手にはいらず、後半が読めないままになっていたのですが、昨年末にこの作品が文庫化されました。
●曽根富美子『親なるもの断崖』第1部、第2部(2007年~2008年宙出版、宙コミック文庫、各750円+税、amazon、bk1)
昭和2年、青森県から室蘭の幕西遊廓に売られてきた少女四人。室蘭は当時も製鉄の町として栄えており、彼女たちは遊女や芸妓として生きてゆくことになります。
第一部は彼女たちを中心に、遊廓の生活が活写されます。主人公となるのは、11歳のお梅。その後彼女は幕西遊廓ナンバーワンの売れっ子女郎となりますが、その将来に待ち受けているのは過酷で悲惨な運命。第二部は梅子の子どもがお話の中心になり、時代は戦争をはさみ昭和33年の売春防止法施行までが描かれます。手塚作品に比肩しうるほどの堂々たる大河マンガ。
女性向けマンガらしくメロドラマ要素もありますが、それを除いたとしても歴史の重みが読者の心を打ちます。はっきり申し上げて絵は古典的少女マンガないしレディコミっぽくてもうひとつ。ハダカがいっぱい登場するマンガなのですが、そのもひとつの絵のため、女性のハダカはずいぶんさむざむしく感じられます。それが内容に合っていて、意図せぬ効果といいますか。
タイトルの「親なるもの断崖」とは、室蘭の景勝地、地球岬のことです。アイヌ語で「ポロ・チケップ=親なる岬」と呼ばれていたのが「ポロ・チケウエ」と変化し、「地球」の文字があてられたとのこと。
ここでの断崖は、人間を拒絶する北海道の自然であり、生活のため子を売る親であり、女性を支配する男性であり、国民を蹂躙する国家です。
著者は室蘭出身。本書を読むと、この遊廓の話を、悲しい女性の歴史を、全体主義の時代を、描きたい、描いて伝えたい、という意思が伝わってきます。おそらくいろんな制約があって、著者にとっても十分に描ききったとはいえないのではないかと想像しますが、この強い意思が本書を名作にしました。
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