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July 06, 2008

1960年代リターンズ『シェーの時代』

 泉麻人『シェーの時代 「おそ松くん」と昭和子ども社会』(2008年文春新書、840円+税、amazonbk1)読みました。

 赤塚不二夫作品の中でも過激な『天才バカボン』や『レッツラゴン』は今でもよく話題になりますが、それらに先行する『おそ松くん』については語られることが少なくなってます。

 その赤塚最初のヒット作品について書かれた本。ただし新しいおそ松くん論、というよりも、『おそ松くん』に登場するキャラクターやエピソードをこまかく紹介して、さらにその背景にある時代の風俗や事件を自分の記憶をまじえて語ったもの。おそ松くん研究、という感じの本でしょうか。

 六つ子のうち、おそ松は要領のいいリーダー、チョロ松がスマートなサブリーダー、という指摘があったりします。「演じるキャラクター」としてのダヨーンのおじさんについてはこんな楽しい文章。

ダヨーンの芝居には重厚な人間臭が漂っている。イヤミやチビ太とくらべて、ギャラも安いに違いない。新劇畑から起用された、クセのある役者の風情が感じとれる。楽屋でも、一人なじめずに浮きあがっていたことだろう。

 そして、あのころまだ道ばたにあったゴミ箱や用水桶の話とか、背景に登場する円筒形のガスタンクは、現在のパークハイアットのところにあった東京ガスのものではないか、とか。もちろんTV番組や歌謡曲の話も出てきます。

 『おそ松くん』のサンデーでの連載が1962年から1969年まで。著者の小学生時代と重なる時期で、しかも赤塚が住んでいたトキワ荘は、著者の生家のご近所。懐かしモノのプロとしても、これは語っておきたかったのでしょう。

 マンガの読み方語り方として、マンガ内容に耽溺しつつ、かつ時代状況を見直すという、こういう態度は正しいと思います。わたしもお手本にしなきゃ。著者の記憶にたよるだけじゃなくて、当時の掲載誌であったサンデーや、他の週刊誌記事などもよく調べられています。

 わたしは著者と同世代ですので、まさに想定された読者としてストライク。楽しく読みました。ただしあまりに固有名詞が注釈なしに頻発しますので、若い読者がついていけるのかどうかちょっと心配。

 『おそ松くん』のどこが新しかったかというと、登場人物全員が(おとなも子どもも)悪ガキであったところです。登場人物はつねに役割をいれかえていて、いじめっ子であったり、いじめられても逆襲に転じたり。この丁々発止のやりとりこそ、同時代の他の「ゆかいマンガ」にないものでした。

 今ならまだ、竹書房文庫版全22巻が手にはいるはずです(→amazonbk1)。

 すこし気になったところ。ベビーギャングについて「昭和35年ごろから小学生の模擬ギャング事件(恐喝や窃盗)が世間をにぎわすようになって、幼少期の中村勘九郎を起用した映画も作られたはずだ」という記述がありますが、それなら事件に先行する岡部冬彦のマンガ『ベビーギャング』にも言及してくれなきゃ。映画の原作もこっちです。

 あと「週刊少年マガジン」創刊が、「週刊少年サンデー」創刊より10日早かったとありますが、しつこいようですが同日創刊ですのでよろしく。

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Comments

実写で六つ子! たしかにCGなら可能でしょうが、違和感なくしかも笑えるものにするには、相当な時間とお金が必要でしょう。バカボンのパパなら先日NHKで古田新太がやってましたねえ。あれはかなり似てました。

Posted by: 漫棚通信 | July 06, 2008 04:01 PM

『おそ松くん』を<実写>で撮ってみたい
という映画人が居るんですが~
さて、どんな手法でか、お会いして
聞いてみたいですね。

Posted by: 長谷邦夫 | July 06, 2008 12:56 PM

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Tracked on July 10, 2008 01:09 PM

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