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June 30, 2008

わたしたちが知らなかった『マファルダ』

 日本には独自のマンガ文化がありドメスティックに完結してしまっているので、海外マンガはきわめて限られたものしか輸入されません。

 アメコミにしても、邦訳をきちんと読んだことがあるひとはまあ少数でしょう。BDになると、世界じゅうで読まれている古典的作品でも、タンタンのシリーズが日本で完結したのはつい昨年末のことですし、アステリックスはかつて講談社から一度邦訳されたことがあるだけです。

 というわけで日本は世界のマンガ情況からはほとんど鎖国状態、なのですが、それでもときどき意外な作品が邦訳されることがあり、ありがたいことです。

 で、これ。

●キノ『マファルダ 1巻 悪いのはだれだ!』(amazonbk1
●キノ『マファルダ 2巻 いつだって子ども!』(amazonbk1
(2007年、2008年エレファントパブリッシング、泉典子訳、各1600円+税)

 

 『マファルダ』はアルゼンチンのマンガ家、キノ Quino の手により1964年から1973年にかけて描かれた作品です。中南米やヨーロッパでは大ヒットして計2000万部のベストセラーになりました。アニメーションも制作され、日本でも1978年頃に「おませなマハルダ」のタイトルで放映されたことがあるそうです(→YouTube )。

 書影や英語版Wikipedia を見ていただければわかりますが、チャールズ・M・シュルツのタッチですね。ほとんどが四コマで構成されたコミック・ストリップで、これもピーナツに似ています。登場するのは主に子どもたち。主人公のマファルダは、アルゼンチン版の2巻で小学校に入学、六歳の誕生日を迎える、という年齢設定です。

 チャーリー・ブラウンが哲学的と言われるのに対し、マファルダは政治的。彼女が将来なりたい職業は国連の通訳、彼女が望むものは世界平和です。マファルダはいつも地球儀に話しかけ、世界情勢を憂えています。彼女の友人には、経済こそ最も大事と考えるマノリトや、金持ちの妻になり母になることしか考えていないスサニタがいてユニーク。これも世界の縮図ですね。

 1969年イタリア版が出版されたとき序文を書いたのはウンベルト・エーコで、彼はマファルダを「社会の現状に黙ってはいられない怒れるヒロイン」「現代の英雄」と呼びました。

 さて21世紀になり、このマファルダを日本でもやっと読めるようになりました。アルゼンチン版の1・2巻が日本語版1巻、3・4巻が日本語版2巻としてまとめられています(原書は全10巻)。

 こんな感じのマンガです。

 マファルダと友人たちのおしゃべり。
○ あんたの考えって尊いけど、でもやっぱりおめでたいと思うよ
● お金より文化のほうが大事だって考えたらおめでたいのかよ
● 銀行より図書館のほうが尊重される社会っていいじゃないか
△ それって過激派が考えることだよ!

 あるいはこんな感じ。

 マファルダが友人に本を読んであげています。
○ 「善良さは人間が持って生まれた性質です」
● それで意地悪のほうは? 生まれつきじゃないの?
○ ちがうの。これってどこにでもある作り話のひとつなのよ

 読んでげらげら笑うタイプのマンガではありません。ナンセンスやファンタジーの代わりに、皮肉と風刺に満ちているマンガ。当時の世界情勢やアルゼンチンの政治状況と無関係ではなく、現代の日本人にとって読みやすいとは言えない作品ではあります。

 ただしマファルダは決してかたくるしいマンガではありません。基本はもちろん「笑い」ですし、「かわいい」キャラクターとしても受容されています。マファルダの読者の多くはまちがいなく子どもたちです。スペイン語圏では、現代においても特別な地位にあるマンガだそうです。

 しかしこういう「政治的」なマンガを読んで育つかの地のひとびとは、日本人と違ったマンガリテラシーを持っているのじゃないか、なんてね。世界じゅうのいろんなマンガをもっと読んでみたいものです。

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Comments

本のご紹介ありがとうございます。

図書館に希望図書として出してみようと思います。「マンガ編集者狂笑録」はこの方法で読みました。

「アステリックス」は双葉社からも出ています。

国会図書館のホームページの「資料検索」から「総合目録」→「総合目録ネットワーク」とたどると、全国の公立図書館の蔵書目録の横断検索ができます。所在をたしかめたら最寄の効率図書館を通じて閲覧できます。借り出しもコピーもできず、読むだけです。一期一会ですね。

このブログを読んでいるひとは多いので、借り出しラッシュになりなかなか読めなくなるかも。それも人生ですが。

Posted by: しんご | July 01, 2008 08:13 AM

>それでもときどき意外な作品が邦訳されることがあり

コレはまったく知りませんでした、ご紹介ありがとうございます。

前に「絵本ではけっこうアメリカンコミックスの作家の作品が訳されてるらしい」みたいな話をこちらでさせていただきましたが、「こどもの本」というくくりに解されて訳さることがあるんじゃないでしょうか。
タンタンなんかももそのぶん国内では「マンガ」だと思われてない気はしますが。

Posted by: boxman | July 01, 2008 12:53 PM

>「アステリックス」は双葉社からも
あ、講談社のほうがマチガイだったかも。スミマセン。

>意外な作品
先日、文芸社から「わんぱくデニス」と「ビートル・ベイリー」を訳されてるかたを発見しました。これもいわゆる「協力出版」なんでしょうか。さすがにこういうのは視野にはいってきません。

Posted by: 漫棚通信 | July 01, 2008 11:42 PM

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