フェリーペ・スミスに注目
ウチの近所の書店ではまったく見かけない講談社「モーニングツー」を、職場近くのコンビニで発見。買ってきました。
今月号の表紙と巻頭カラーは、フェリーペ・スミスの新連載『ピポチュー』です。この作品におどろいた。
オープニングでスプラッタとエロを見せておいて、突然オタクでナードな黒人少年の日常へ。シカゴに住む彼は日本のアニメ「ピポチュー」が大好きで、ピポチューのコスプレをしてコミックブックストアではたらいています。
彼があこがれる夢の国・日本とは、「日本人はみんなやさしい」「日本ではみんながコスプレしてて…」「日本人はひとり残らずアニメを見てマンガを読んでるんだ」
そんな彼がくじに当たって日本に行くことになる、というところで第一話の終わり。ところが日本ではヤクザどうしの抗争が始まっていて、シカゴの殺し屋(これがコミックブックストアの店長)がからんでいるという設定。次回へのアオリが「近づけば近づくほど遠くなる国 そこは本当に“オタクの楽園”なのか!?」
おもしろそーっ、というのが第一印象です。ともかくシカゴの日常描写がすばらしい。退屈で暴力的で貧乏な日常に、自分の居場所を見つけることができない主人公。彼は自分がOTAKUSであることに誇りを持ち、ここじゃないどこか=日本にあこがれている。
これは日本人であるわたしたちから見るとまるきり裏返しの設定で、しかも普遍性を持っています。ここじゃないどこかに行きたいのは、わたしたちだけじゃないのだ。
次回以後、主人公が夢の国であるはずの日本で出会うのは、失望か暴力かファンタジーか。目が離せません。
フェリーペ・スミス Felipe Smith は、TOKYOPOP から『MBQ 』(既刊3巻)を出版しています。TOKYOPOP のサイトで一部立ち読みできますが、こちらもコミックブックアーチストの主人公の周囲で起こる暴力の物語で、うんざりするような日常の描写があります。井上三太『TOKYO TRIBE 2 』が登場したりしてて、そうかあのアメリカーンな作品はアメリカでも読まれておったのか。(→amazon)
『MBQ 』でもそうですが、モノローグ=キャプションでつなぐ最近のアメリカグラフィック・ノベルとも違い、あきらかにコマ構成で読ませようとする日本マンガタイプの作品です。殴り始めてから殴り終わるまで2ページ以上もかかったり(『MBQ 』2巻)します。
絵はリアルに進歩したカートゥーンタイプという感じ(この場合のカートゥーンというのは“子ども向けマンガ映画”の意味です)。これって今の日本にはないから、とても新鮮に感じます。日本進出にあたって、とくに女性の目を日本型ぱっちり目に変更してますね。
しかしこのレベルの作品が、今後もかるがるとアチラの作家によって描かれるとするなら、「マンガ」もいずれ海外作家によって席巻されちゃうのじゃないかと、うれしいような、不安なような。
Comments
フェリーペのエージェントをしている椎名(ceena)と申します。『ピポチュー』取り上げてくださってありがとうございました!
作者のフェリーペ・スミス君はマンガを描きたいあまり、日本語を独学し今年から日本に住んで毎日マンガ頑張ってます!これからも応援していただけると嬉しいです。
Posted by: ceena | June 29, 2008 06:54 PM