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June 09, 2008

壮絶な「裏」まんが道

(1)雷句誠が「(株)小学館を提訴。」したと思ったら、
(2)橋口たかしが編集者擁護の立場から参戦(臨時ブログはすぐ消されたので、リンク先はキャッシュです)。
(3)さらには新條まゆが長文を書いていて、マンガ家編集者関係のきしみがいろいろと表に出ています。

(4)もうひとり、松永豊和も。

 「映画秘宝」2008年7月号「大西祥平の漫ぶらぁ~日誌2008 」より。

バイオレンスマンガの名作『バクネヤング』の作者・松永豊和があまりにも強烈な「小説」をネット上にUP しているのを発見。

 わたしもこれを見て、検索してモノがあるのは知ってたのですが実は読んでませんでした。で今回、この小説「邪宗まんが道」を読ませていただきました。

あの松永豊和は今→●自伝的小説『邪宗まんが道』

 オープニングは1991年、26歳の松永豊和が大阪天満駅前で師匠となる青木雄二と会うシーンから。ラストは青木雄二の告別式で終わります。

 この間に作者は、講談社アフタヌーン四季賞を受賞したあと、小学館ヤングサンデーで『バクネヤング』を連載。その後小学館IKKI で『龍宮殿』連載。

 これはその時期のことを書いた自伝的小説です。固有名詞こそ変更してありますが、ほとんどが実話でしょう。

 作者みずからが「自分でもこの作品が非常に醜いものであることは分かっている。特に、物語の後半部分のほとんどは、漫画編集者への恨みや愚痴で構成されている」と書いています。たとえば作者の先輩が語るマンガ家編集者関係。

さっきの俺の話の、漫画家を下に見てるっていう視点は、漫画編集者らの視点や。俺らみたいなプロでもアマでもない宙ぶらりんと付き合う際の、編集者らの態度、と言うたほうがええかな。俺らの取引相手である編集者というたら、まあ三大大手である優談社みたいな出版社やったら全員が一流大出のエリートや。実際あいつら、ふんぞり返って俺らを一段も二段も上から見おろしてきよる。まあ、編集者の仕事としては、作家を育てるトレーナー、連載が始まってからはセコンドやナビゲーターとしての役割があるわけやけど、特に新人のうちは立場も弱いし、言うこと聞かんと干されるっていう恐れもあるから、理不尽な指示や注文にでも仕方なく屈服してしまう、っていうのはよおある話や。そしたら奴らはますます付けあがってナメてきよる。人の作品のセリフをなんの断りもなしに勝手に書き換えたりな。完全にナメくさっとる。『我々の欲しがっているモノは漫画家のセンスだけだ』とか調子こきやがって殺したろかって思わす編集もおるしな、ソイツは俺の担当のことやけど、まぁそんなことはどうでもええわ。とにかく、人の運命を握ってる特権階級か何かと勘違いしてる編集者がいてるのは事実や。俺が言いたいのは、ただでさえ地位が低いと思われてる漫画家の地位をさらに低くさせてるのは実はそんな漫画編集者らである、ということや。“漫画作品というものは編集部主導で作られている”という漫画業界の常識、そんな裏事情を流布させてるのは漫画編集者ら自身なんやからな。『あの作品のストーリーは実は俺が陰で書いてる』とかな。だいたい漫画家が自分にとってそんなカッコの悪いことを他言するはずがないわけやから。だから奴らの言いなりになってたら思うつぼやって思うし、松永の気持ちも痛いほど分かる。そういう意味や。な、そうやろ松永。

 この小説を読みますと、作家性にプライドを持っているマンガ家にとって、原作を編集者が書いていると「思われること」がすでにイヤでしょうがない。そういうふうに匂わせる編集者にもガマンできない。作者が最初に講談社と決裂したのも、編集部主導のストーリーを拒否したからでした。

 それにしても壮絶な「裏」まんが道で、作者が編集者を「呪う」ところなど鬼気迫る。小説としてもおもしろく読みました。

 しかしこういう問題がいろいろ出てくるというのは、(1)マンガ家および編集者それぞれ個人の問題なのか、(2)小学館という会社の問題なのか、(3)日本のマンガ家編集者関係の歴史的構造的な問題なのか。

 (3)だとすると、編集者がマンガ作品形成に密接に関与する日本のシステムには、功だけじゃなくて罪も、いろいろとあることになります。

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Comments

小学館には、楳図先生に、手の描き方を教えた編集者もいたそうですからね。

Posted by: misao | June 10, 2008 09:44 AM

はじめまして。いつも楽しく読ませていただいていただいています。
今回のことに限らず、一方からの情報だけでは何ともいえないものですが、それでも何かひずんだ世界と感じてしまいます。


楳図先生と言えば、編集者がアシスタントを引き抜いたのでマンガを書けなくなったという話もありますが、どうなんでしょうね?

Posted by: ひざげり | June 10, 2008 11:10 PM

③の土壌に②が根を下ろし、そこから①がきらびやかに花開いたってところではないかと。

Posted by: JCD | June 11, 2008 02:40 AM

漫画家側の個人的な意見って、今まであまり目に付かなかったので、今でもちょっと違和感を覚えますが、これからどんどん出てくるのでしょうね。ただ、ネット上にはひどい中傷もあるので、負けないように強い気持ちで仕事を続けていってほしいです。

「別人が書いている」「別人が描いている」これはたとい内部作業的に事実であったとしても、この意見ばかりが「作者」を飛び越えて一般化してはいけないと思うのです。


なんとなくみやわき心太郎先生のかつての文章を思い出しました。
http://www.d3.dion.ne.jp/~yumeya/21kangaeru.html

Posted by: くもり | June 13, 2008 01:08 AM

ついでに・・
去年の「もやしもん」関係のネットでの喧々諤々をば追加します;

Yahooオークションの販促物巨大オリゼーについて
http://mmmasayuki.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_d5d4.html

もやしもんツールが講談社からの警告で公開停止
http://tail.s68.xrea.com/blog/2007/03/post_88.html

Posted by: くもり | June 13, 2008 01:25 AM

いくつか気のついたこと。

(1)雷句さんの文章では、最初の編集者がまだましで、交替するたびに程度の低い人物が担当になっている。あとほど悪い。
(2)マンガ雑誌の編集者は東大など(!)一流大学の文学部などを卒業しているエリートであるのに対して、漫画家は若く、せいぜい高卒で、学歴では劣る。医専など出たひとはいない。
(3)マンガ家は〆切前には睡眠3時間というようなハードスケジュールを慢性的にこなさなければならず、マンガ家以外の人生経験を積めず、編集者が「世間代表」となる。
(4)マンガ家の収入はアシスタント代などで消えてしまい、あんまりもうからない。
(5)最初から複数のマンガ雑誌に連載をもっているひとは少なく、人気が出るまで、ひとつの雑誌で連載をこなして成長していくひとが多そうだ。葛飾区のおまわりさんのマンガを単一の雑誌に連載するだけで一生を終えそうなひともいる。雑誌社は、育てた作家が他社で執筆するのを嫌う。

(1)について、雷句さんが新人だったころはたぶん編集者の世話になることも多く、したがって編集者の評価がたかいのでしょう。マンガ家として成長するにしたがって、編集者を見る目もきびしくなり、編集者のいいなりに作品を変更しなければならない立場にいらだちを覚えるようになったのでは。

(2)編集者はこんな無学な若造のために、大学出の自分がときには機嫌をとらなければならないのにうんざりしてくるでしょう。経験を積めばマンガ家は一流になっていくが、自分は一介の編集者のままですから、こっちにもいらだちがあります。一方マンガ家は学歴にコンプレックスを持っていますが、芸術にはガクレキは無関係で、芸術的にはこっちが上だと思っており、出発点からしてちがいがあります。

(3)編集者はタラフク食ってねているのにこっちは徹夜でがんばっている。睡眠時間の違いが意見の違いを生む。

(4)もうかっておれば、さっさとやめて新天地へ赴いても余裕があるが、飛び出したらおまんまの食い上げになる可能性もありうっかり動けず、ストレスがたまる。ついに爆発する。

(5)むかし映画で悪名高き五社協定というのがあり(古い!)スターを他社に出演させないようにした。歌手がベテランになるとプロダクションを変えるものよく似た事情でしょうか。

小学館は雷句さんをむりに引き止めず、新天地へ送り出してあげたらよかった。そうしたら彼は大家になって、また将来小学館へ戻ってきて恩返しすることもあり得た。(小学館を出て行ったマンガ家がまた戻ってくるというのは、そういう意味です。)しかし狭い了見から彼が飛び立つのを邪魔したから、鷲はもう古巣へ戻ってこないかもしれません。

Posted by: しんご | June 13, 2008 10:20 PM

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