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June 07, 2008

今週は小玉ユキ

 今週は小玉ユキを集中読書。

●『光の海』(2007年小学館、390円+税、amazonbk1
●『羽衣ミシン』(2007年小学館、390円+税、amazonbk1
●『マンゴーの涙 小玉ユキ短編集(1)』(2008年小学館、390円+税、amazonbk1
●『坂道のアポロン』1巻(2008年小学館、400円+税、amazonbk1
●『Beautiful Sunset 小玉ユキ短編集(2)』(2008年小学館、400円+税、amazonbk1

    

 ここ二年間で、どどっと発売されてますから、ブレイクしつつある?

 実はこれまで、小玉ユキ作品は、アンソロジー『わたしの結婚式!』(2006年飛鳥新社)で読んだだけだったので、今回ほとんど初挑戦です。

 絵が実にうまいかた。一本の線でつるりんと輪郭を描いた絵で、斜線をあまり入れず、単純な線とトーンのデザイン処理で勝負、という感じ。瞳は基本的に黒くぬりつぶされ、星はありません。デッサンに破綻はなく、背景処理もスタイリッシュ。この絵が著者の大きな武器になってます。

 『光の海』は、人間と人魚が同居する世界を描いた短編連作。人魚が男女とも美しいこと。これはすばらしい作品でした。

 この世界での人魚は哺乳類。保護動物とされています。彼らは人間と普通に会話できますが、基本的に人間とは無関係に自然の中で生きている。そういうなかでふれあってしまったヒトと人魚たちの物語。

 描かれるテーマは人間関係(あるいはヒト人魚関係)です。こういうとてつもない世界を創造、設定しておきながら、こまかい人間関係や心理を描いてみせるのは少女マンガの得意技ですねえ。ひとの心を語るために世界が創造されるのです。

 『羽衣ミシン』は一巻ものの長編。モテない大学生男子のアパートに、白鳥の化身(美女)が恩返しのためころがり込んでくる。

 えー、まるきり「鶴の恩返し」「天の羽衣」ですが、マンガでは『うる星やつら』以来の「異世界美女おしかけ同居パターン」そのままとも言えます。

 オトコノコマンガのエロの黄金設定であるところのこれを、少女マンガでやったらどうなるか、という実験でもありますが、サブキャラのエピソードが長く続いたりして、長編としてはちょっとバランスが悪かったかな。

 短編集『マンゴーの涙』『Beautiful Sunset 』。前者には、現代ベトナムを舞台にした、ベトナム人同士の恋愛が描かれる作品、「マンゴーの涙」「白い花の刺繍」が収録されてます。

 これもいい作品。いや昔から日本マンガの題材にはニューヨークやらパリやら、あるいは中国やらを舞台にするものがいっぱいあって何でもありなのはわかってるつもりですが、現代ベトナムで日本人が登場しなくて普通の恋愛モノで、となると、なんかこうワールドワイドだなあ、時代は変わったなあ、と年寄りじみた感想が。

 『Beautiful Sunset 』には、デビュー作を含めたもっと初期の作品が収録されてます。この本によると、掲載誌がつぶれて数年間バイトをしていた著者を再発見したのは、編集プロダクションのスタッフだったそうです。えらいっ。最近は単行本だけじゃなくてマンガ雑誌にも外部の編集プロダクションが参加してるんですねえ。

 さて、現在も連載中の『坂道のアポロン』の舞台は1966年、九州の地方都市。高校一年で転校してきた秀才(♂)、同級生で男気のある乱暴者(♂)、その幼なじみのクラス委員長(♀)、この三人をめぐる物語。三人を結びつけるのはジャズです。

 1巻ラストでは、さらに美人のお嬢さまが登場したりして。なんとまあ直球ど真ん中、真っ正面からの青春物語だなあ。

 ジブリのアニメ『耳をすませば』とかもそうですが、わたしこういうストレートなのは、ああっ恥ずかしいっ。なかなか直視できません。でも恥ずかしがりながらも読んでしまうのですね。

 今のところ代表作にしてオススメは『光の海』。『坂道のアポロン』は期待作として楽しみに続刊を待たせていただきます。

 ただし。ジャズ好きのかたにはもうしわけないのですが、時代が1966年なら、ここはジャズよりもビートルズでしょ。この年、6月末にビートルズ来日。7月1日にテレビで全国放送。あの日本中を巻き込んだとんでもない大騒ぎを、音楽やってる主人公たちが完全にスルーしてるのは、解せん。ってそういうマンガじゃないのは承知してるのですが。

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Comments

はじめまして。マンガを読むのにたいへん参考になりいつも興味深く読んでいます。
それでいきなり反論めいたものを書いてしまうのをどうかお許し願いたいのですが、1966年頃という時期にはジャズは世界的に盛り上がりを見せていたと思います。アメリカの公民権運動が大きなうねりとなって世界的な学生運動などに結びついていくような背景があって、コルトレーンやアイラーのようなフリージャズのスターがまだ存命だったりマイルス・デイヴィスの周りに若い才能が集まって活躍した時期で、アメリカでもヨーロッパでも大きなジャズのフェスティバルが開催されて、これがポップフェスティバルのブームへと発展していきます。ポップミュージックの分野ではニューロックやソウル・ミュージックがジャズとも相互に交流していましたし、現代音楽シーンまで盛り上がっていたという印象があります。
「坂道のアポロン」をちゃんと読んでいないので判断できませんが、設定から考えてもアイドルとして来日したビートルズで盛り上がる可能性はかなり低いのではないかと思われます。
あくまでも1966年当時には幼児だった私のポピュラー音楽の本やその他から得たつたない知識からの意見なので、認識や事実に誤りがあればぜひ指摘していただければと思います。

Posted by: lacopen | June 08, 2008 10:30 AM

ジャズについて、個人的に言いますと
ぼくは72年に山下洋輔トリオと
ドイツでのコンサートに同行しました。

彼らは、燃えていて、ドイツの若者を
圧倒していました。
ロリンズなんかと一緒の大コンサートにも
出たんですが。

ニュー・ジャズってことで
それまでのスタンダードは
勢いは弱まっていましたが。

音楽的には<遅い>ドイツということ
からいうと、世界状況からは、ズレて
いるかも知れませんがね。

でも、なかなか耳の肥えた
音楽ファン層でした。
単純に「ジャズファン」とは
言い切れない深さを持った
<国民>的な性格を感じた
ものです。

オバサンもニュージャズに
のっちゃうという懐の深さと
余裕ですね。

Posted by: 長谷邦夫 | June 08, 2008 06:38 PM

66年の九州という状況が理解できていないので何とも言いにくいのですが、一言。

66年は勿論フリー・ジャズの全盛期、ビートルズもアイドル時代の全盛期。日本公演を含めた世界ツアーを最後にライブ活動を辞めてレコード製作のみになり、その音楽性が大きく開花する直前。

九州出身の24年組、萩尾望都さんの作中にビートルズはモチーフとして良く出ますが、ジャズはほとんど全く出ません。彼女のSF趣味から考えて、当時の日本人SF作家の多くがジャズ・ファンであったのに、音楽の好みは良くも悪くもミーハーです。アメリカ志向というよりロンドン志向というべきでしょうか。

これは推測ですが、ビートルズではなく、あえてジャズを持って来たのは、大都会の大人の世界に憧れるスノッブな背伸びした地方の高校生という設定にしたかったのではないでしょうか。

作品を見ないことにはやはり断言はできませんが。

Posted by: トロ~ロ | June 08, 2008 11:57 PM

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