いやお若い『ぼくたちのアニメ史』
辻真先『ぼくたちのアニメ史』(2008年岩波ジュニア新書、780円+税、amazon、bk1)読みました。
最近の著者は、アニメ脚本家よりむしろミステリ界の大御所、と言ったほうがとおりがよいのでしょうか。わたしもかつて、『アリスの国の殺人』や薩次・キリコシリーズなどを楽しく読みました。本書と同時期に刊行された、牧薩次名義『完全恋愛』の評判も上々のようです。
著者は1932年生まれ、テレビアニメ草創期から脚本家として活躍。もう本人でもわからないくらいの数の脚本を書いてらっしゃいます。「ジャングル大帝」も「アタックNo.1」も「キックの鬼」も「タイガーマスク」も「ゲゲゲの鬼太郎」も「コン・バトラーV」も、第一話の脚本はぜーんぶ、辻真先です。
その著者が、個人的経験をとおしてアニメ史を概観したのが本書です。裏話も豊富ですが、アニメ史と題したからには、できるだけ客観的に記述するようにこころがけられています。
本書では作品はひとである、と考えられています。作品を語ること、すなわちプロデューサーや脚本家を含め、スタッフを語るというスタンス。ですから本書にはアニメにかかわったひとびとの名がいっぱい登場します。そして著者による作品評価の基準は、「よくわかるが面白くない作品より、わからないが面白い作品のほうがずっといい」です。
しかしまあ、なんつってもお若い。文章も若々しく、とても76歳のかたの文章とは思えません。枯れてませんねえ。しかも著者が脚本書いてたころの昔のアニメだけじゃなくて、最近のアニメにもくわしいったらない。
わたしなんぞはもうアニメは門外漢としてたまにしか見なくなってますが、それは(1)アニメの数が多すぎる、(2)テレビアニメは一本だけ見たんじゃわかんないからシリーズ全部見なきゃなんない、(3)その結果アニメを見るのにはすごく時間がかかる、(4)アニメばっかり見てたらほかになんにもできなくなるよー、という理由だからです。
ですからアニメをきちんと見てるひとたちには頭が下がるのですが、辻真先も、いったいどれだけ見てるんだ、というほどアニメ見てます。どうやって時間つくってんだろ。つくづくアニメを愛してるんですね。
かつて手塚治虫文化賞にアニメ部門をつくろうという考想があったそうで、著者のところに朝日新聞が相談に来たそうです。しかし4クール52本のテレビアニメを見続けたひとだけが優劣を下すことができる、というのが著者の考えです。
本書はアニメガイドとして利用するのも可能なつくりとなっております。この本読んだおかげで、わたしもいろんなアニメが見たくなってしまいました。
Comments
辻先生と言えば、二年ほど前にある公開講座で
お話を伺った事があるのですがその時
「いま、一番アニメにしてみたい小説は西尾維新の本格魔法少女リスカですね」と発言されて、
その若々しさで聴衆を圧倒されていました
Posted by: 流転 | May 02, 2008 09:05 PM
NHKテレビ時代の思い出を綴った『テレビ疾風怒濤』(徳間書店)も面白かったですよ。辻先生が長谷川伸賞を受賞されたとき、授賞式にお招きを受けたんですが、そのとき、三遊亭金馬師匠も見えてました。辻先生がディレクターをしていた「お笑い三人組」に出ていた3人のうち(一龍斎貞鳳、江戸屋猫八、三遊亭小金馬)のうち、存命なのは金馬師匠だけになってしまいました。
やはり辻先生が担当していたドラマ『バス通り裏』は、まだ主題曲を歌えます(笑)。
Posted by: すがやみつる | May 02, 2008 04:56 AM