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May 19, 2008

からくれなゐにみづくくるとは

 どうしても「あの」付きで語られてしまう、あの、末次由紀『ちはやふる』1巻が発売されてます(2008年講談社、409円+税、amazonbk1)。

 過去の全作品が絶版回収となってしまいましたので、現在著者の作品で読めるのは、短編集『ハルコイ』(2007年講談社)と、本作のみ。

 わたし、少女マンガをそれほど読んでるわけではないので、著者が現代少女マンガのどのあたりに位置してるのかはよくわかっていません。そして末次由紀作品を読むのは、実は初めてだったのですが、この作品にはずいぶん感心させられました。これはいい。

 「ちはやふる」とくれば、遊女・千早と相撲取り・竜田川の悲しい(?)てんまつが思いうかびますが、この作品はそっち方面じゃなくて、百人一首=競技かるたの世界を描いたマンガ。

 小学六年で福井から東京に転校してきた新(♂)は競技かるた全国大会連続優勝を続けている強豪。彼に影響され、クラスメートの千早(♀)と太一(♂)は競技かるたに打ち込んでいきます。

 まず主要登場人物である三人の複雑な造形はどうか。転校生・新は、内気でいじめられっ子。しかし勝負となると、勝つために味方をも利用する冷徹な一面を見せます。優等生でスポーツ万能の太一は、親のプレッシャーもあって卑怯なこともしてしまう。しかしそういう自分がいやでしょうがない。主人公・千早は正義漢の天真らんまん少女ですが、美人でちょっとイジワルな姉がいて、彼女から自立しなければならないことに気づく。

 いや小学生の登場人物にして、彼らの人格につけられた陰影の深いこと。「青年誌のマンガなんて心理描写が拙くて あらすじ読まされてるみたいでつまらんのじゃ!!」と切って捨てたのは、松田奈緒子『少女漫画』ですが、本作もこれこそが少女マンガなんだと再確認できます。

 単行本の裏カバーでは、成長したハカマ姿の主人公が試合に向けて髪を結わえていますが、この絵が実に美しい。連載第一回のカラーページのようです。これに続くオープニング、競技中の主人公の大アップとモノローグ「お願いだれも 息をしないで」。このシーンの緊張感もすばらしい。

 描写でおもしろいのは、畳の下にあるカメラから、かるたやそれをのぞき込む人物を描いた構図。たしかヒカルの碁などにもこういう実写では不可能なアングルがありましたね。マンガの絵はこうでなくっちゃ。

 競技かるたそのものは、ずいぶん複雑なルールを持っていて、戦略性に富んだ、しかも体力を使う競技のようです。この巻では、その部分はまだちょっとしか登場していません。

 競技かるたをやってらっしゃるかた(四段A級)のブログによりますと、かるたを題材にした先行作には、おおや和美『むすめふさほせ』、竹下けんじろう『かるた』、小坂まりこ『まんてんいろは小町』、木下聡志『とらと歌かるた』、戸田泰成『キョーギカルタの女』、北原雅紀/森藤映子『氷雨かるた』など、これまでにもいろいろとあったそうです。いや専門のかたはくわしい。

 はっきり言ってマンガとしてはマイナーな題材ですが、だからこそ大ブレイクする可能性も秘めています。

 作品のすべりだしは上々。歴代かるたクイーンの最年少は中学三年生だったそうですから、主人公が高校生時代に優勝しちゃうかもしれません。次巻からの高校生編で、三人の友情やら恋愛やら三角関係やら内面描写やらと同時に、ライバルが登場したり競技や勝負のおもしろさを描くことができるなら、と大期待であります。

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Comments

>現在著者の作品で読めるのは、短編集『ハルコイ』(2007年講談社)と、本作のみ
デマを流さないで下さい。

Posted by: 赤木大介(akakiTysqe) | May 20, 2008 03:51 AM

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