マンガ編集者列伝
長谷邦夫『マンガ編集者狂笑録』(2008年水声社、2800円+税、amazon、bk1)読みました。
実在のマンガ編集者を主人公にした連作小説。
登場する編集者たちは、長井勝一、加藤謙一、松坂邦義、丸山昭、壁村耐三、峯島正行、内田勝、宮原照夫、長野規、長崎尚志。
「たけくまメモ」に、「共犯者」としての編集者、という名コピーがありましたが、本書に書かれたマンガ編集者たちは、まさにこれ。新しいマンガを作家と共謀してつくりあげるために、この世とあの世の境界に立っているひとびと。彼らの記録であります。
著者は評伝じゃなくて小説であると強調しています。確かに一人称で描かれる部分も多く、主人公であるそれぞれの編集者の内面に思いっきり踏み込んだ記述ですから、小説の形式でなければ書けなかっただろうと思います。人間同士の確執もあって、長井勝一と白土三平、内田勝と宮原照夫のそれなど、よくぞ書いたなあ、という印象です。
『漫画に愛を叫んだ男たち』(2004年清流出版)も小説という形式でしたが、本書のほうがかなり技巧的になってて、フィクション度数が上がってます。長井勝一の章にトリアッティの話が出てきたりしますからね。巻末の参考文献に、ウチの「遠くから遠くまで」が記載されていて、これには驚きましたです。
小説ですから、ここに登場するのは著者が出会ったそれぞれの実在の編集者でもあり、かつ全員が著者自身でもあるという複雑な存在。わたしはむしろ後者として読みました。登場人物みんながマンガを愛していて感動的ですが、これすなわち、著者の心情の投影です。
ラストに登場するのが長崎尚志。ノスタルジーだけの本ではありません。将来のマンガ編集者像というのはどうなるかわからない。著者の目はさらに未来を見ています。
本書でおもしろかったのが丸山昭の章と、内田・宮原の章。やっぱ著者がもっとも知ってる時代とエピソードだからでしょうか。
で、気になったのは松坂邦義の章です。わたしこのかたの名前、知らなかったのですが、貸本マンガの名編集者として「貸本マンガ史研究」にインタビューが掲載されたりしてます。
1971年から1972年にかけて、虫プロから「ベストコミック」という名前のB5判のマンガ再録雑誌が刊行されていたことがあります。ジョージ秋山、ちばてつや、手塚治虫、川崎のぼる、水木しげるらの特集号や、複数の有名作家の短編を集めた号などがありました。この雑誌、名作ぞろいでずいぶん楽しませてもらいました。「ぼくらマガジン」に連載された、ちばてつやの壮絶に救いのない話『餓鬼』が初めてまとまって読めたのも、この「ベストコミック」。
この雑誌を編集してたのが、松坂邦義でした。長谷邦夫はベストコミックの表紙イラストを描いたこともありますので、ここが接点なのかしら。
Comments
>内田勝さんは、入院中でした。
6月2日の新聞に記事がありました。マガジン編集部のころの回想録は読んだような気もしますが、他の人のだったかもしれません。大学生がマンガを読み出したころの歴史的イベント「力石徹の告別式」のことは、ご本人の式ではいうのも悲しいでしょうね。
最近小学館を提訴した漫画家の方のブログを読むと、マンガ編集者に対する不満でいっぱいです。長谷先生の著書であつかってらっしゃるようなエピソードは古きよき時代のものでしょうか。
Posted by: しんご | June 07, 2008 07:28 AM
内田勝さんは、入院中でした。
本は病院へ届けられるとか。
快癒をお祈りしたいと思います!
お歳の峯島さんよりはお便りが。
褒めていただいております。
氏がお忘れだった事実を
思い出していただき、
ここからも、新しい事実が
お聞きできました。
Posted by: 長谷邦夫 | May 18, 2008 06:34 PM
来週、この本についての新聞取材を受けます。
掲載は「東京新聞」(「中日新聞」)の
6月1日号の予定です。
Posted by: 長谷邦夫 | May 16, 2008 01:20 PM
松坂さんのご住所が判明しました。
やっと献本が出来ます。
Posted by: 長谷邦夫 | May 12, 2008 11:57 PM
漫棚様、早速のご感想ありがとう御座います。
松坂さんのことは、ぼく自身、さっぱり知らない
のです。
「貸本漫画研究」のインタビューを読み
面白い!と感じまして、書きました。
この連作の中で一番フィクション部分が多いのが
この作品ということになります!
水声社社主氏は、これ面白いね~とポツリと
感想を言って下さったので、内心ホッと(笑・汗)
しているわけです。
>すがや様
え~、こういうわけでして、「小説」ってやつは
面白いんですよね。
貴兄が、若くしてこの道に踏み込んだお気持ちが
わかります。
ぼくはね、古く「SFアドベンチャー」に
短篇で、遊ばせてもらったことがあります。
その当時、酒場で半村良さんに出会い、
「どうせ書くなら、長いものを書け」と
言われました。
ぼくは、その言葉に深く感じることがあって
マンガに専念することにしたんでした。
その氏も亡くなられて、ずいぶん経ちます。
『漫画に愛を~』は<小説>と版元が
宣伝してくれましたが、自分の中では
<自分史>という位置ずけです。
もう半村先生の言葉による「封印」を
解いてもいいかな~と、考え書くことを
スタートさせてみました。
Posted by: 長谷邦夫 | May 08, 2008 08:55 PM
こちらも一昨日、中野まで落語に出かけた帰り、中野サンプラザのタコシェで見つけて購入してきました。帰りのバスの車内で読みはじめ、そのまま一気読みでした。自分の名前が唐突に出てきて赤面したところもありましたが(笑)。
Posted by: すがやみつる | May 07, 2008 08:48 PM