家族が書いた長谷川町子
『サザエさん』の作者、長谷川町子は三姉妹の真ん中で、母親を含めた四人の女性の物語は、かつて1979年、NHKの朝ドラにもなりました。タイトルは「マー姉ちゃん」、長谷川町子役が田中裕子、姉のマリ子が主役で熊谷真美ね。
だもんでみんな、長谷川家ご一家についてはなんかこう、よーく知ってる親戚みたいな気がしてますが、ホントはそんなことはないはず。
で、長谷川家三女のかたの書かれた自伝がこれ。
●長谷川洋子『サザエさんの東京物語』(2008年朝日出版社、1200円+税、amazon、bk1)
著者は1925年生まれですから、ことしもう83歳ですが、軽妙な筆致がすばらしい。
母親と三姉妹が福岡から東京に引っ越し、さらに疎開で福岡に戻り、戦後再度上京。家族はひとつの家に住み、家族で作った姉妹社という出版社から『サザエさん』を出版します。『サザエさん』が国民的人気マンガになったのは、この姉妹社の単行本が全国どこの書店にも揃えられていたことも大きな要因だと言われています。
内容は三女から見た家族の肖像。多くは長谷川町子について書かれています。これはかつて長谷川町子自身によって書かれたものが、別視点で記述された大爆笑エッセイでもあります。
あとがきによりますと。
町子は人前に出ることが苦手だった。私生活や生活など、実像を知る方が少ないので、いろいろの憶測や、似ても似つかぬ人間像が紹介されたりすることになった。それで、家族の中での町子を、ありのままに書き残しておきたいと思った。
本書のおどろきは、実はラスト近くになってからの展開にあります。
1983年、家を新築し引っ越す段になり著者はそれまで同居していたもとの家に残り、姉ふたりとは決別することになります。わたしの思いこみかもしれませんが、長谷川家の三姉妹はずっと仲良くしてたような気がしてたから、これにはびっくり。
そして60歳近くになった著者は彩古書房という出版社をおこし、心理学関連中心の出版を始めます。彩古書房は、1983年から1995年ごろまで活動していたようです。千葉敦子『ニューヨークの24時間』というヒットも生んでいます。
本書は『サザエさん』と密接にかかわっていた著者による、『サザエさん』に対する決別の書でもあるのです。
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Comments
著者によると最初は古書を再版する出版社として出発したので、古書に彩りを与える意味の「彩古」だそうです。でも後に「サイコブックス」という精神分析関連のシリーズも出してますから、わたしもやっぱりサイコだと思います。
Posted by: 漫棚通信 | April 12, 2008 10:00 PM
『ニューヨークの24時間』は1986年くらいに出た本ですが、ニューヨーク在住の著者がパソコン通信やオンラインデータベースを活用している様子がよくわかり、パソコン通信を始めたばかりの身には、とても参考になりました。
この出版社が「彩古書房」だということは記憶に残っていましたが、心理学を得意とする出版社だと書かれているのを読んで、いま唐突にわかりました。「彩古」は「psychology」のことだったわけですね。いま大学で心理学を学んでいるせいで、ピンと来たのかもしれません。
Posted by: すがやみつる | April 11, 2008 11:45 PM