シートン雑感
谷口ジロー『シートン 旅するナチュラリスト 第4章 タラク山の熊王(モナーク)』(2008年双葉社、1429円+税、amazon、bk1)が発売されています。
『シートン第4章』は、「Web 漫画アクション」で連載というか配信されてたものでした。
「Web 漫画アクション」にはネットだけで読める無料連載マンガが数本あります。『シートン第4章』もそうでした。双葉社はネット上でマンガを立ち読みしてもらい、興味をひくことで最終的に雑誌の売り上げをのばそうとしているようです。その中でネットだけの連載マンガは目玉企画なのでしょう。
ネット配信のマンガが単行本化されるのは初めてではありませんが、これから増えていくのかどうか。モニター上で描かれ、読まれるにしても、最終形態は「本」の形であってほしいなあ。
ネット連載されたマンガは、その連載中に大人気、というわけにはいきませんから、読者としては描き下ろし作品を読む感覚。作者のほうは、定期的に締め切りが来るから雑誌連載と変わらない。ただし連載中に読者の反応というのはあまりないのじゃないかしら。描き下ろし単行本と雑誌連載をまとめたものの折衷という感じでしょうか。ここしばらくマンガは、雑誌連載→単行本化というコースが一般的でしたが、ようやくネット時代になって違うモデルが出現しつつあるのかもしれません。
さて作品のほうは、谷口ジロー、あいかわらずうまいですねー。まさに円熟。谷口ジローが『坊ちゃんの時代』あたりから円熟の域にはいったと考えると、すでに20年、熟しっぱなしですな。
なんつっても、北米の自然風景だけで読者をひきこんでしまいます。モノクロの風景を描かせて日本一。というか世界一かもしんない。
ただ、ヒトコマだけ奇妙な描写があって、105ページ最下段左端、イヌが羊の群れの上を駆けてゆく…… どう見ても変だよなあ。しばらく考えてしまいましたが、やっぱ、描きまちがいじゃないかい。こういうのは、雑誌連載なら誰かが気づくのでしょうけどね。(←追記:ごめんなさい、マチガイじゃないそうです。コメント欄をごらんください)
本作品のおもしろいところは、野生動物がちょっとだけ擬人化されてます。擬人化といっても、フキダシでしゃべったり考えたりするのじゃなくて、目の表現。
ほら、動物って白目の部分が少なくて、黒目が大きいというイメージがあるじゃないですか。だから何考えてるかわかんなくて、コワい。でも本作品のクマは、とくに人間に飼われてる子グマ時代、白目部分が広くて黒目が小さめ。
これでより目になったり、上を見たり左を見たりすると、読者には動物にもヒトみたいな感情があるように感じられ、これだけでも擬人化ですね。最近の谷口ジローにしてはめずらしく「マンガ的」な表現でしたが、ほんとはこういうのが好きなのじゃないかしら。
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Comments
おっと、また恥をかいちまった。『死神小僧キム』でしたか。シートンはキムを眠らせて、いろいろ観察していたのですが、目覚めたキムに散々弄ばれるという情けない役柄でしたね。
Posted by: 藤岡真 | March 04, 2008 12:14 PM
>白土三平
白土三平は自然と共に生きたシートンを、自身と重ね合わせていたそうですね。シートンについてはわたしも以前にこんな記事を書いてます。
http://mandanatsusin.cocolog-nifty.com/blog/2005/04/post_a762.html
http://mandanatsusin.cocolog-nifty.com/blog/2005/04/post_b3d3.html
http://mandanatsusin.cocolog-nifty.com/blog/2005/04/post_5830.html
>本当に羊の群れの背中を
へー、そうだったんですか。これは知りませんでした、ありがとうございます。あんなところをいったいどうやって。
Posted by: 漫棚通信 | March 04, 2008 09:18 AM
シープドッグ(牧羊犬)は本当に羊の群れの背中を駆けて行きます。
海外の牧羊犬の映像をTVで何度か見ました。
シープドッグは犬の中では理解力や運動能力でトップにあります。
犬は目で語ります(感情表現という意味で)。
普段は黒目しか見えていませんが、悪戯をして怒られると、横を向いてこちらの視線を外して、ちらちらと横目で伺って来ます。そのときには白目が見えるので表情が生じます。
我が家の飼い犬(ポメラニアン)は眉毛の部分の色が濃くて、人間と同様に感情によって上ったり下がったりしていました。
老犬になると、眉毛部分とヒゲだけが白くなって(笑)
本来、犬の表情筋は発達していない(犬同士のコミニュケーションには不用であるため)でしょうから、飼い犬の場合は類人猿の仲間であるホモ・サピエンスと暮らす内に、類人猿特有の豊かな「顔による感情表現」を模倣して獲得するのかもしれません。
谷口ジロー氏には「犬を飼う」という作品もありましたよね。
ムツゴロウ氏が実際にヒグマを小さい頃から孤島で飼っていた経験から、ヒグマの感情表現は犬よりも多く多様で、非常に面白いとエッセイに書いています。
ただし、谷口ジロー氏の作中で、動物が人間臭い表情をすると、なんというか戯画的に見えるのも事実です。
過去の絶滅動物などを描いた連作シリーズでは、なかなかに顔の感情表情が顕著で、実に判りやすく愉快に描かれていました。
Posted by: トロ~ロ | March 04, 2008 01:24 AM
わたしにとって『シートン動物記』のマンガはやっぱ白土三平ですねえ。『死神少年キム』にも出演者として「シートン」が登場しましたね。
Posted by: 藤岡真 | March 03, 2008 10:17 PM