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February 25, 2008

ハデにはならない『ファンタジウム』

 主人公(♂)は中学生にして天才マジシャン。というハデな設定のはずなのに、なんでここまで地味な展開になるかなあ、というマンガ、杉本亜未『ファンタジウム』の2巻(2008年講談社、552円+税、amazonbk1)が発売されてます。

 

 でも2巻まで読んだところで、傑作認定しておきます。

 このマンガがハデな展開にならないのは、主人公が難読症(Dyslexia )というハンディキャップを背負っているからです。

 字を読んだり書いたりするのが困難な主人公は、同級生からいじめられ、教師からも面倒とネグられ、仕事相手からも蔑視されます。

 天才マジシャンなのに学習障害児。この境遇は主人公の性格や行動をずいぶんと複雑にしてしまいました。彼は豪胆でありながら繊細、諦観しているようで野心があり、皮肉屋ですが熱血漢、同一人物内に大人と子供が同居しています。

 主人公以外の登場人物も、みんな複雑。主人公の師匠も売れないうらぶれたマジシャンでした。マジシャン、スタッフ、観客、登場人物のすべてがウラオモテを持っています。中学の教師や同級生ですら見た目どおりの人間はだれもいません。主人公のマネージャーを買って出た青年だけが天然系で、物語で唯一、救いとなる人物です。

 お話も一筋縄ではいきません。1巻のラストで主人公のような学習障害児を受け入れる学校が見つかり、めでたしめでたしの展開かと思ったら、2巻では理想の教師などいないことが明らかになり、イジメはエンドレスに続きそうです。

 天才マジシャンのお話であるのに、主人公がマジックを成功させてすべてを解決する、わけでもなく、むしろそれが人間関係を悪化させたりします。ここに描かれているのは、まさにわたしたちの住むリアル世界に類似した、複雑な人間たちと複雑なその行動。

 絵は、著者自身もわかってるようですが、地味です。華がないけど堅実。

 ですからハデになるはずもなく、地味なのはしょうがありません。ただし、だからこそ真剣に生きる主人公の姿に心うたれます。

 このマンガがめざす結末は、主人公のマジシャンとしての成功でしょうが、それと同時に主人公の傷ついた心の救済が大きなテーマになっています。

 主人公が有名になりそうなときも、読者は彼がさらに傷つくんじゃないかと、ハラハラしながら見守ることになります。ハデじゃないけど、感情移入度の高いマンガです。

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Comments

どこの書店でも1.2巻揃っているところがなかった。
重版されたそうだがまだ見かけない。
この漫画が評価されず「聖おにいさん」が平積みになっているのをみると歯がゆくて仕方ない。
いや、お兄さんも面白いんですがね。

やっぱり地味だから?


でも、こちら拝見してすごく嬉しかったです。

Posted by: 天音 | August 21, 2008 08:13 PM

1巻を眺めたところ面白かったので、2巻はネット予約しました。
このマンガはマジックについてもよく調べています、そこに感心しました。

Posted by: コウスケ | February 26, 2008 08:15 AM

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