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January 14, 2008

悲しき戦い

 2001年、小学館から相原コージ著の『相原コージのなにがオモロイの?』という本が発行されました。1999年から2000年にかけてビッグコミックスピリッツに連載された短編ギャグマンガをまとめたもの。

 ところが現在、アマゾンや紀伊國屋で検索しても、『なにがオモロイの?』はヒットしません。なぜか。

 実はこの本、新作マンガ単行本でありながら、「週刊ビッグコミックスピリッツ特別編集5・20増刊号」として、雑誌扱いで刊行されたのでした。判型は青年向けマンガ単行本と同じB6判ですが、カバーもオビもありません。いわゆるコンビニ向けコミックと同じような感じ。ただし、紙質はそれよりもずいぶん良いものを使っていて、ケバだっていません。けっこう重いです。

 驚くべきはその価格でして、288ページもあるのに、本体362円、税込380円! 表紙には

新作コミックの価格破壊!! 定価380YEN(税込) 1ページ単価1.24円(通常2.2円:当社比)

とありまして、価格をギャグにするなよー。そりゃま読者にはありがたいかもしれませんが、著者は泣いているのではないか。

 この本、いろんな意味で悲しき戦いを記録したものでした。

 『なにがオモロイの?』は毎回4ページの短編ギャグ。実験的なギャグマンガを描き、読者の意見を作品にフィードバックさせる、という斬新なコンセプトで始まりました。

 原稿が描き上がると、それを即インターネットで公開し、同時にこの企画のために組織された出口調査隊が、原稿のコピーを持って街に散った。
 そうして得られたインターネットと出口調査による「笑えたか? 笑えなかったか?」のリサーチ結果はすぐに集計され、それをふまえた上で次の作品が描かれた。
 もちろんリサーチ結果自体も誌面に載せてきた。

 なんと無謀なことを、とあなたも思われるでしょうが、案の定、相原先生、連載第一回からえらく落ちこむことになりました。

 「むかつきます」「くどい、説明的」「もうやめちまいな」「ツマんないの狙ってるんですか?」「もう引退してください」などのコメントを読んで、

もう、読者の意見を読んでるうちに、体中から汗やら湯気やら涙やら吹き出して、我知らず「くきぇーっ」と奇声を発してしまったわい。

 その後も読者コメントはエスカレートして、連載六回目あたりはこうなります。

ちょっとなぁー、作品に対する評価はさておき、お前らどんどんタチ悪くなってないか。なんだ? 死ねとか自殺しろとかって?

 さらに連載七回目。

お前らいったい何様だ!? なんだお前ら!? どーゆーつもりだ!? 安全なとっからエラソーに、ムセキニンに人のことバトウして!! 人のこと見下すことで自分がエラくなったつもりか!? 言葉で人をリンチするのが、そんなにオモシレーのか? 人が傷つくのが楽しーのか!?

 ついに連載9回目から11回目にかけては。

もー誰のゆーことも聞かん。オレはオレの描きたいギャグを描く。

 早々に企画自体が破綻してしまいましたが、さすがにそれは作者もわかったらしく、この後、作者自画像は、ちょっと悟りを得た感じの表情に変化します。

 以後も実験ギャグは続き、リサーチ対象を大阪人にしてみたり、六本木の外国人にしてみたり、東大生にしてみたり。果ては香港、台湾、アメリカ、上海でリサーチしたり。最終回には、エジプトに作者本人が出かけて、描いたマンガを読んでもらう、という企画までなされてます。

 ただしその間、作品内容で編集部との関係が険悪になったらしく、作者と担当編集者の巻末対談では、担当編集者がこんなことを言ってます。

校了時に編集長が「載せられるわけないだろ!」って怒り出して。

私は上司に呼ばれて「これでいいワケねえだろ!」って怒鳴られたんですよ。人生を放り出し、会社から姿を消そうかって本気で思いましたけど、すぐに思いとどまりました。

 相原コージも。

オレも蒸発しようかと思ったことがあったな。家族には「もしかしたらいなくなるから」って言ってあった。

 こうなるともう、ひとつひとつの作品そのものがおもしろいかどうかよりも、作品、連載の成り立ちのほうがスリリング。

 作者の悲しき、そして孤高の戦いの記録がこの本に詰まっています。ただし単行本も悲しき装丁になってしまい、その後入手不能になっていました。

 さて、この『なにがオモロイの?』が、『相原コージ実験ギャグ短編集』(2008年双葉社、819円+税、amazonbk1)として、再編集のうえ発行されてます。

 元版にあった、アンケート結果や読者のコメント、作者の叫びなどがすべて省かれてるのはとても残念。ただしこれは出版社がかわっちゃったからしょうがないか。そのかわり、他の雑誌に掲載されたマンガなども収録されてます。

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Comments

自分は岩同士が対決(?)する漫画が好きでした。あと巨人の星をネタにした作品は、パロディ漫画として、かなりの傑作なんじゃないかと今でも思っています。
巻末対談もそうですが、裏表紙に載っていた他漫画家さんからのコメントも、色々と興味深かったです。江口寿史さんの「江口さんらしいなぁ」と思えるコメントと、江川達也さんによる今になって読み返すと微妙な気持ちになってしまうコメントが、特に記憶に残っています。

Posted by: 四海鏡 | January 14, 2008 04:11 PM

スペリオールで連載されていた「漫歌アイハラ派」
はこれの後の連載でしょうか、枯れた自虐ネタが
面白かった。ブックオフを利用してる子供を叱るが、
売られない漫画を描けばと返されたり、エッセイ的な
要素も濃かったですね。

Posted by: まんぱち | January 15, 2008 03:09 AM

相原コージ、最近の作品リスト簡易版です。

●ムジナ:「ヤングサンデー」1997年まで
●漫歌:「漫画アクション」1998年~2000年
●漫歌(アイハラ派、アニマル派、ニャンダー派):「ビッグコミックスペリオール」2001年~2004年
●なにがオモロイの?:「ビッグコミックスピリッツ」1999年~2000年
●もにもに(「なにがオモロイの?」からのスピンオフ作品):「ビックコミックスピリッツ」2001年~2002年
●真・異種格闘大戦:「漫画アクション」2004年~2006年、「Web漫画アクション」2006年~連載中
●サルでも描けるまんが教室2.0:「月刊IKKI」2007年~連載中

Posted by: 漫棚通信 | January 15, 2008 07:57 PM

「なにがオモロイの?」連載は読んでなくてコンビニで買いました。そういえばウエケンの単行本もページ単価で激安を売りにしていたようなw

Posted by: meme-meme | January 16, 2008 01:18 PM

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