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January 31, 2008

マンガ批評入門

 いしかわじゅん『漫画ノート』に刺激されてしまい、試みにマンガ批評を分類してみました。

 わたしもマンガ批評、のようなものを書いていますが、いつも分類して考えてるわけじゃなくて無意識にやってます。でもマンガ評には、小説評や映画評と違う文法があるのじゃないか。

 分類はしてみましたが、いろいろと修正が必要でしょうし、今後さらに新しい切り口が登場することになるのでしょう。でもとりあえず、書いときますね。

 以下は主に作品評についての話です。


     ◆

(1)作品を語る

(1-1)ストーリーを語る
 マンガのストーリーのどこがどうおもしろいのかを紹介します。ストーリーを要約したりうまく紹介するのもけっこうタイヘンです。

(1-2)セリフを語る
 いいセリフというのは紹介してみたくなるものです。島本和彦作品など、セリフを引用してるだけで、批評みたいなものができあがりますのでたいへんありがたい。セリフ紹介を集中してやった元祖は、みなもと太郎『お楽しみはこれもなのじゃ』。

(1-3)絵を語る
 絵を文章で語るのはほんとにむずかしい。「気品のある絵」「勢いのある線」と書いてみても、いっぱいこぼれ落ちてしまうものがあります。でもマンガを語るには、これがないと。

(1-4)キャラクターを語る
 最近の流行です。作者の創造したキャラクターを、実在の人物のごとく、どこがどのようにかっこいいか語ります。『漫画ノート』に何がなかったかと考えていたら、この手法はあまり見かけませんでした。

(1-5)表現を語る
 コマ構成、擬音、集中線などの漫符をふくめて、マンガの表現を語ります。夏目房之介以来の手法です。

(1-6)造本を語る
 本の紙質やデザインを語ります。祖父江慎デザインなら、内容とは別にそれだけで書けてしまいます。


     ◆

(2)作品の成り立ちを語る

(2-1)作者の基本情報
 作者の出身、経歴など。過去の作品紹介。さらにはゴシップまでも含まれます。

(2-2)書誌的情報
 どの雑誌にいつ連載されたか。単行本なら出版社、発行日など。その雑誌はどんな感じの雑誌か、同時期に掲載された作品などもチェックしたりします。

(2-3)編集者を語る
 今はまだレアな手法ですが、作品に大きな影響を与えているもうひとつの存在、編集者を語る方法。裏話にくわしくなければできません。

(2-4)モトネタ探し
 作品に影響を与えた思想や作品を探し出します。すごくアサッテの方向へ行ってしまう可能性もあります。

(2-5)作者の意図を読みとる
 いしかわじゅん『漫画ノート』で多く見られる手法がこれ。洞察力と思いきりが必要。

(2-6)マンガ史上での位置づけ
 マンガ史を概観し、その作品や作家を位置づけます。24年組や、ニューウェーブ、大友チルドレンといったレッテル貼りもこれに含まれるでしょう。


     ◆

(3)社会-マンガ関係を語る

(3-1)マンガの社会に対する影響
 もっとも古典的な語り方のひとつ。マンガが社会のなかでどういう位置にあるかを語ります。マンガが社会的にどのような影響を与えるのか。エッチなマンガが子どもに悪い、という論も一種のマンガ批評ではあります。

(3-2)社会のマンガに対する影響
 逆に社会的環境がそのマンガにどのような影響を与えているか。マンガも社会をうつす鏡。政治、経済や事件、風俗と離れては存在できません。マンガを通して社会を語る。紙屋研究所でよくやられてます。

(3-3)イデオロギー
 マンガが主張する、あるいは内在しているイデオロギーの方向性で、マンガを評価することも可能です。今はあまりハヤりませんが、かつて主流の語り方ではありました。このマンガ、フェミニズム的にはどうよ、というような視点も、これに含まれるかもしれません。

(3-4)問題提起
 イデオロギーとまでじゃなくとも、何らかの社会問題をとりあげるマンガが存在します。テーマはエコロだったり、福祉だったり、人権だったり。表現がつたなくてもココロザシが高いから評価する、ということはありうることでしょう。

(3-5)経済的側面
 マンガは文化財ですが、かつ商品でもあります。その作品の人気や、売れてるか、売れてないか。売れてるのなら、なぜ売れたのかを語ります。


     ◆

(4)読者が前面に登場する

(4-1)自分語り
 普遍を求めず、読者である自分を前面に出す手法。自分の性別、年齢、経歴と照らし合わせてマンガを語ります。諸刃の剣ですが、ハマればとても有効。

(4-2)ツッコミ
 これも最近流行してます。作者自身が意図した以外の、ちょっとヘンなところにツッコミを入れます。これも読者自身がおもしろさを発見しているわけです。

(4-3)パロディや二次創作
 さらに読者が前面に出ていくと、パロディとか二次創作を創造することなります。これも一種の批評と言えるでしょう。

(4-4)他の読者にたよる
 あのひとがこのように誉めていた。こんな賞を取ってこんな選評があった。世間ではこのように受けとめられた。などと紹介します。対して自分の考えは、と続けられますので、これはなかなか使える手法ですよ。

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Comments

こんばんは。laoと申します。
こちらのエントリーを読みながら、感覚や曖昧でしかなかったものが翻訳されていく思いがし、ブログタイトルに「リンク・引用はご自由にどうぞ」のフレーズを見つけたので、私のブログ内にこちらのエントリーURLを引かせていただきました。
問題あるようならば削除しますのでご一報ください。

今夜は祖父江さんの情熱大陸ですね。


Posted by: lao | February 03, 2008 10:39 PM

なるほど「直感」「感覚」ですか。これはかえってなかなかむずかしそうです。

Posted by: 漫棚通信 | February 02, 2008 05:14 PM

大学系で論文調ですと、その論の正しさや新しさを
証明するために、そのジャンル・テーマで先行している論を
「参照」して確かめ・補強していくことが求められていますね。こうした分析的な細密さは、たしかに今後マンガ批評や
マンガ論に強く求められていくでしょう。

しかし「直感力」で切り込み、論の整然とした
組み立てとは、かなり離れたところからの論も
忘れてはならないと思います。

そもそも「創作された作品」が、感覚的表現に
ウエイトがかかったモノですと、なおさらです。
このへんは、今後も注目したいというか、
そうした論者が若い世代から出る~といった
ことを期待したいですね。

マンガ学会の「マンガ研究」は
大学研究系に、どうしても会の
性格上、なりやすい。
また、そこをもっと鋭く深めて
いこう~といった気運もあるん
ですよ。

ぼくは一人のクリエイターとして
そうした傾向を否定するのではなく
しっかり見守っていたのです。

感覚的論文の投稿もほしいし
読んでみたいですね。

Posted by: 長谷邦夫 | February 02, 2008 12:32 PM

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