マンガにおける自由と規制
あけましておめでとうございます。本年もよろしく。
新年一回目はこれ。
永山薫/昼間たかし『2007-2008 マンガ論争勃発』(2007年マイクロマガジン社、1429円+税、amazon、
bk1)読みました。
現在、マンガを取り巻く諸問題、とくに「論争」となる部分に焦点をあて、多くのインタビューで構成された本です。
まえがきに「緊急出版」「最新の中間報告」という言葉があるように、ジャーナリスティックな視点で書かれてて、雑誌の特集号みたいな感じになってます。ですから、将来にも貴重な資料となるでしょうが、問題意識を共有したいかたは、今、読むのがよろしいかと。
章立ては以下のようになってます。
第一章 マンガは世界に広がっている
第二章 日本コンテンツを支える同人文化
第三章 マンガと著作権
第四章 表現の現場から
第五章 有害とワイセツ
第六章 規制と自主規制の現状
第七章 表現の自由と規制
第八章 マスコミとマンガ文化
終章 マンガの自由
とくにチカラがはいっているのが、第四章以降、「マンガ表現と規制」についての問題点と現状のレポートです。1990年の有害コミック問題とは何だったのか。同人誌の自主規制はどのようにおこなわれているのか。松文館裁判のてんまつ。東京都の有害図書指定の現状は。
インタビューは、いわゆる「敵」側のひとびとにもなされてまして、有害図書指定をしている東京都青少年課課長や、「バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会」座長の前田雅英氏、大谷・フィギュア萌え族(仮)・昭宏氏なとが登場していて、書物としてきちんとバランスがとれています。
しかも、そっち系のひとたちがけっこうまともな受け答えをしてるんですよね。聞いてみなきゃわからないものです。
個人的に驚いたのが、ラディカル・フェミニズムについて語られている中里見博氏のインタビュー。マンガやアニメのポルノでも、被害者は存在するのだ、という考え方に初めて接しました。なるほどそういう考え方もあるのか。あまり同意はできませんが。
本書は、積極的に「論争」しよう、という思想で書かれています。話せばわかる、かもしれない。少なくとも黙りこんでしまうよりは健全な態度であろうと。
論争のためには現状を知ることが必要。本書は、多くの現場からのレポートと問題提起に満ちていて、いろいろと考えさせられるいい本でした。
ただし惜しいのは、マンガとエロの問題に突出していて、その他の問題にあまり触れられていないところ。とくに、マンガと宗教、マンガと人種・民族の問題についての記述は完全に欠落しています。
2005年から2006年にかけて世界的なデモを引き起こした「ムハンマド風刺画事件」。そして2007年ヨーロッパでのエルジェ「タンタンのコンゴ探検」に対する抗議。このふたつは本書ではスルーされてます。
日本からは遠い話題と思われるかもしれませんが、おなじマンガの地平で起こった世界的事件でありましたし、本書は問題提起の本なのですから、少しだけでも取りあげてほしかったですね。
というわけで、本日、1月3日の夜(1月4日午前0時30分より)、NHK総合で「欧州 デンマーク “風刺画事件を追って”」という番組が放映されます。昨年BSで放映したものの再々放送ですが、これは見とかなきゃいかんでしょ。
Comments
私自身も、ロフトプラスワンで発言させて頂いた様に、「表現の自由」の問題は、日本のサブカルチャーだけにとどめて論じない方が良いと思います。特にわいせつと「表現の自由」の問題については、近代の文学や芸術が直面してきた知見が生かされるべきです。なので、この本の第二段ではそういう領域の人の話も聞くべきだと思います。
著者たちは、「この本が売れたら第二段もやる」と公言していますし、私の方からも著者たちにプッシュしてみますので、買ってやってください。
Posted by: 古鳥羽護 | January 23, 2008 12:58 AM
おめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
おっしゃるとおり、本書では「マンガ」=「日本マンガ」という書き方ですし、それだけが取りあげられてますね。でも自由と規制がテーマの本だからこそ、あのふたつの事件は記録しておいてほしかったです。
Posted by: 漫棚通信 | January 05, 2008 05:54 PM
おめでとうございます
タンタンや風刺画事件がこの本で触れられていないのは単にこの本が扱う「マンガ」が「日本マンガ」のことだからでしょう。だから海外の話も基本的には日本マンガの現状についてに終始してるわけで。
Posted by: boxman | January 05, 2008 12:52 PM