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December 03, 2007

復刻せよ『新宝島』

 海外マンガを読んでいて、日本マンガとはつくづく違うものだなあと感じる部分は多いのですが、やはりその最大のものはページ数です。海外とは違い、数千ページ程度の長編は、日本ではまったくめずらしくありません。

 この原因は、ひとつのアクションやひとつのシーンを多数のコマに分割して表現する日本マンガの手法にあります。ピッチャーが球を投げてからキャッチャーに届くまで、バッターは目を光らせて打とうとしてる、観客はかたずをのんで見守ってる、アナウンサーは叫ぶ、解説者はえんえんとしゃべる、数十コマで数ページ、さらに大きなコマ使ってりゃ、長くなるのもあたりまえです。

 マンガでワンシーンを多数のコマに分割して表現する手法は、映画をまねて始まったと言われており、映画的手法と称されます。これこそ、日本マンガの表現が海外マンガのそれに対する大きなアドバンテージとなっている部分です。

 その開祖は手塚治虫=『新宝島』であるとするのが、かつての一般的な考え方でした。しかしその後、戦前の日本マンガにも映画的手法がとられていたことがしだいに明らかになってきました。

 映画的手法は、マンガ表現論とマンガ史研究の大きなテーマとなっています。竹内オサムが述べた同一化技法も、伊藤剛『テヅカ・イズ・デッド』も、中野晴行『謎のマンガ家・酒井七馬伝』も、さらにあのスカタンな竹内一郎『手塚治虫=ストーリーマンガの起源』もすべて、手塚治虫と映画的手法に関する話題を扱ったもの(あるいはそれを含むもの)と考えられます。

 で、野口文雄『手塚治虫の「新宝島」 その伝説と真実』(2007年小学館クリエイティブ、1900円+税、amazonbk1)が発売されています。

 図版がいっぱいでとても楽しい。酒井七馬/手塚治虫『新宝島』が、いかに先進的で映画的手法を駆使した傑作であったかを細かく書いた本です。これが小学館クリエイティブから出版されたということは、これはもう『新宝島』復刻の露払いをしているのじゃないかしら。

 酒井七馬/手塚治虫『新宝島』は、手塚自身の手で封印されてしまい、のちに講談社全集版『新宝島』がリメイクされたこともあって、まったく読めない作品になっています。あの、戦後日本マンガの出発点と言われる作品が、ですよ。

 現在古書として流通している『新宝島』はめったに存在しないうえに100万円以上とムチャ高価。実物を目にしたことがあるひとは、ごくわずかでしょう。酒井七馬監修のマンガ研究誌「ジュンマンガ」に西上ハルオ模写の『新宝島』が掲載されたことがあり、わたしが読んだことのある『新宝島』もこれしかありません(しかも立ち読み)。

 野口文雄『手塚治虫の「新宝島」』は、前半が『新宝島』をほめたたえる部分、後半が手塚治虫の映画的手法の話となっています。

 前半では、中野晴行『謎のマンガ家・酒井七馬伝』に対する反論がかなりの部分を占めています。『酒井七馬伝』は、これまで無視されていた、酒井七馬の『新宝島』への寄与についての功績を再評価した書物ですが、野口はこれに対してことごとく反論。『新宝島』、そして映画的手法のすべては手塚のものであるという主張を展開します。

 残念ながらこの部分、手塚を称揚するために酒井をおとしめる、という文章がめだち、あまり心地よく読めないのが気になります。本書は基本的にファンブックなので、とくに手塚に対する批評精神には欠けています(ファンブックが悪いわけではありません。かつて石上三登志『手塚治虫の奇妙な世界』というすぐれた先行書もありましたし)。本書に対する中野晴行による再反論はコチラです。

 手塚、酒井ともに物故してるわけですから、わたしたちは、残された作品や日記、周辺のひとびとからの伝聞などから推測するしかありません。結論が出ないスペキュレーションとなってしまっていますので、わたしたち読者としては、それぞれが推理を「楽しむ」態度で接するべきでしょう。

 本書で魅力的なのは、実は後半です。手塚治虫が影響を受けたと述懐している海外マンガ、ミルト・グロス『突喊居士』とジョージ・マクマナス『親爺教育』。この二作について、戦前の「新青年」、「アサヒグラフ」、単行本、さらには原書の復刻版などに直接あたるという実証的なことをしています。

 さらに手塚治虫『地底国の怪人』のモトネタになったベルンハルト・ケラーマンの小説『トンネル』についての文章もおもしろい。

 中野晴行『酒井七馬伝』と本書の刊行によって、オリジナル版『新宝島』復刻か、と思わせる機運が高まってきたようです。『新宝島』を復刻することは、日本マンガ界の責務とも言えるのじゃないでしょうか。

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Comments

露払というよりも、出せなかったおわび、って感じでしょう。もともと復刻版の解説として野口さんが書いたものに、「酒井七馬伝」への反論を加えて、できあがったわけです。なかなか難しいですねえ。

Posted by: 悪役ランプ | December 04, 2007 12:38 AM

あちゃー、やっぱだめですか。来年は生誕80周年なので期待してたのですが、残念です。

Posted by: 漫棚通信 | December 04, 2007 09:10 AM

まだ公表できませんが
手塚先生に関しては
びっくりするような復刻が計画されていますので
お楽しみに!

Posted by: 悪役ランプ | December 04, 2007 08:42 PM

もしかしたら、ジャングル大帝では???

Posted by: not a second time | December 05, 2007 06:41 AM

>びっくりするような復刻が

私もジャングル大帝を希望します。

Posted by: Aa | December 05, 2007 11:03 AM

<復刻>、出ないんですかね~~~。

60万円で入手した藤本由香里さんの本を
ちょっと拝見しています。

藤本さんが「青虫」にあった本と比較したという
お話しを聞いたりしたんですが。それはとにかく、
80周年にあたりマンガ学会でも研究課題で手塚作品をやろうか~という話しも出ています。

大会には、原本(版が違ったり、同版なのに差異が
あったりする)の比較を実物展示出来ないか?
といった話まで出ました。

中身(映画的表現論)についても複数の発表者が
居たら論戦やシンポが出来るはず。
学会にはランプさんゲスト参加で御呼びする(笑)!
こんな大会が松山でやれたらなあと思ってるんですよ。

意外な出版計画があるんでしたら
それらのPRを~兼ねるってことで
特別参加されるとかできないかなあ。

Posted by: 長谷邦夫 | December 06, 2007 08:35 PM

初めまして。
新宝島の復刊が流れたのは残念ですが面白そうな本ですね。是非読んでみたいと思います。
何が映画的技法についてはよくわからないのでピント外れかも知れませんが
一つのアクションをいくつものコマに分割して動きを表現するのはウィンザー・マッケイも20世紀初頭にやっていますね。
手塚治虫もマッケイを高く評価していたようですが、全集の対談をみると。

Posted by: 目にか | December 06, 2007 10:16 PM

手塚治虫ファン大会で、小林準治さんがプライベートで制作中のアニメ「新宝島」を上映しました。全集版の冒頭シーンを16秒くらいのアニメにしたものでしたが、全集版よりもさらにスピード感があるものになっていて、これはこれで面白いと思いました。ぜひ、完成させて欲しいなあ。

Posted by: 悪役ランプ | December 09, 2007 10:26 AM

どうやら公開しても良いみたいですね。
おもしろブック版「ライオンブックス」の完全復刻が小学館クリエイティブから出ます。
「双生児殺人事件」は入るのかなあ…

Posted by: 悪役ランプ | December 13, 2007 09:31 PM

おー、そっちでしたか。「双生児殺人事件」は代作だらけの珍作だということですが、さすがに読んだことありません。これは入ってほしいですねえ。

Posted by: 漫棚通信 | December 14, 2007 08:57 AM

http://shogakukan-cr.jp/shintakarajima/

2009年3月に小学館より復刻されるようです。

Posted by: yoji | January 08, 2009 01:28 PM

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