和風ナウシカ世界『天顕祭』
2007年度(第11回)文化庁メディア芸術祭の受賞作品が発表されています。
マンガ部門の大賞は郷田マモラ『モリのアサガオ』です。今年の審査員は以下のかたがた。モンキー・パンチ、しりあがり寿、ちばてつや、藤本由香里、わたなべまさこ。本年はなかなかしぶい選択でしたねー。
で、奨励賞は白井弓子『天顕祭』が受賞しました。わたしこのかたの名前を初めて知ったのですが、自主制作作品なので、コミティアとかネットでしか販売していません。紹介を読んでおもしろそうに思い、さっそく全四巻+番外編一冊(2006~2007年発行、セットで2200円)をネット注文してみましたところ、いやこれが大当たり。審査員はよくぞこれを選んでくれました。
未来(あるいは異次元)の日本。「汚い戦争」により、全世界が放射能汚染されてしまった世界。世界は一度滅んだあと、再建途中にあります。ただし汚染のもとは放射能というより、ナウシカ世界の「瘴気」みたいなものらしく、マスクである程度防御できるようですし、竹が汚染物質を浄化してくれているという設定です。
汚染物質を吸った竹は廃棄されるのですが、そのほかにもこの世界では、竹を使ってとび職の連中が建設現場の足場を組んでいます。現代日本じゃ見られない光景で、香港みたいですね。
舞台はケッコウ田舎の地方都市と、そこに近い山村。街の建物は地下から上方に伸び、走ってるクルマはすごく少ない。周辺の山には鳥居や神社があり、神社が主催するお祭りがもうすぐ始まります。
主人公はとびの若頭、真中と、女性とびの木島咲。咲は故郷の村を逃げ出してきたのですが、彼女を追うのは、なんと竹をつたってやってくる大蛇(!)。土俗・因習的な山村で、スサノオとクシナダヒメ、ヤマタノオロチ伝説が再度展開されることになります。
SF/ファンタジー系の作品ですが、風景を含めた世界の造形がすばらしい。日本風なのに微妙に日本とは違う、という誰も見たことがない世界をきっちりと作り上げています。ストーリーは祭りの少し前から始まって、天顕祭当日がクライマックス、という短い時間軸ですが、その背後には描かれていない設定がいっぱいありそう。これが物語に厚みを与えています。
そして本作品では、異世界の造形とストーリーが不可分にからみあっています。お話を語ることは世界を語ること。これはもうSF/ファンタジーとしての理想的なカタチであります。しかも古事記とナウシカ世界が出会ってますから、これは楽しい。
絵は人物も背景もフリーハンドでさらっと描くタイプ。デッサンに破綻はありません。仕上げはCGで、トーンじゃなくて流れるような薄墨がいい感じ。
わたしが知らないだけでその筋では有名な作品だったのかもしれませんが、この受賞を機会に、さらに広く読まれるようになるといいですね。
Comments
天顕祭購入できました。これから読みます。
Posted by: not a second time | December 18, 2007 07:07 AM