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October 18, 2007

グィド・クレパクス『O嬢の物語』

 グィド・クレパクス画の『O嬢の物語』Ⅰ・Ⅱ巻(2007年エディシオン・トレヴィル/河出書房新社、各2300円+税、amazonbk1)が復刊されています。

 

 グィド・クレパクスは1933年イタリア生まれのイラストレーター/マンガ家。2003年に亡くなりました。彼の創造した最も有名なキャラクターはヴァレンティーナです。ヴァレンティーナは写真家で(これは「O嬢」と同じ)、彼女のエロティックな冒険を描いたお話。ヴァレンティーナてのはこんな感じの絵でして、オシャレなエロでしょ。

 グィド・クレパクスとヴァレンティーナが最初に日本に紹介されたのは、1972年に発売された海外コミック専門誌「Woo」の2号と3号。小野耕世訳で「グイド・クレパックス」(←当時の表記)作の『ヴァレンティーナ』が掲載されました。

 女性の夢や現実での性的冒険がモノクロでスタイリッシュに描かれる。日本マンガとのあまりの違いにびっくりしたものです。

 『ヴァレンティーナ』は1965年イタリアのマンガ雑誌「ライナス」に連載開始され、1968年に最初の単行本が発行されました。

 当時のイタリアマンガ界は、スリラーマンガ『ダイアボリック』やそれに影響を受けて発刊されたフュメッティ・セクシー・タスカビーリ(ポケット版成人マンガ)というシリーズの全盛期で、モノクロ130ページほど、ポケットサイズのエログロマンガが大流行。当時のイタリアマンガの表紙イラストは、『Spagetti EROTICO:イタリア式エログロ漫画館』(2001年アスペクト)という本で見ることができますが、まさに絵に描いたような俗悪さ。ベッドに横たわり首から血を流す裸の美女とか、ナチに拷問される裸の美女とか、男を殴り倒す裸の美女とか、今見るとずいぶん笑えます。本編のほうも誰か訳してくんないかしら。

 クレバクスはこれが大嫌いで、洗練されたキャラクター、洗練された画面構成をめざした結果が、ヴァレンティーナであり、自分のスタイルとなりました。『ヴァレンティーナ』は1995年まで描き継がれ完結しています。

 1973年には、講談社から創刊された「劇画ゲンダイ」創刊号に、「クレパックス」の『ビアンカ』が、これも小野耕世訳で掲載されました。「劇画ゲンダイ」は最初、「週刊現代」増刊として刊行され、講談社の雑誌だけあってなかなか豪華な作家がそろってました。創刊号のメダマは、叶精作/小池一雄「からぁ怒」とか宮谷一彦/梶原一騎「プロレス地獄変」、のちには池上遼一/小池一雄「I・餓男」も連載されましたね。

 オシャレな『ビアンカ』もそこに混じってたわけです。『ビアンカ』は1974年に東都書房から単行本として刊行されてます。

 その後、『ヴァレンティーナ』も1995年、フィクション・インク/河出書房新社から単行本として刊行されました(このときは「グィド・クレパックス」の表記)。フィクション・インクからは『CREPAX 60/70』も2003年に刊行されてます。

     ◆

 さて、『O嬢の物語』。原作はご存じ、1954年に発表された覆面作家ポーリーヌ・レアージュ作の古典ポルノ小説です。主人公O嬢が館にとらわれ、陵辱、鞭打ちにより、マゾヒスティックな快感にめざめていくお話。作者の正体は編集者/翻訳家のドミニック・オリーであることがのちに明かされています。

 日本ではいろんなひとが翻訳してまして、澁澤龍彦とか鈴木豊とか長島良三とか。変わったところでは清水正二郎(=胡桃沢耕史)訳や、九十九十郎(=千草忠夫)訳の「O嬢」もあります(千草忠夫のものは翻案に近いそうです)。

 『O嬢の物語』がジュスト・ジャカン監督で映画化されたのが1975年。日本公開が1976年。ジュスト・ジャカンはソフトコア・ポルノ映画「エマニエル夫人」を大ヒットさせてましたから、この映画「O嬢」もけっこうな話題になりましたね。

     ◆

 グィド・クレパクスは、オリジナルのヴァレンティーナのほかに、エマニエルとかジュスティーヌをマンガ化していますが、『O嬢の物語』もマンガ化され1975年に発行されました。ジュスト・ジャカンによる映画化と同時期の発行ですが、クレパクスはすでに1973年から制作を開始していました。

 クレパクス画『O嬢の物語』の初邦訳はミリオン出版の雑誌「S&Mスナイパー」。1991年6月号から1年間掲載されたそうです。このときの翻訳はなんと佐川一政です。

 その後1996年、トレヴィルからⅠ・Ⅱ巻として発売されました(このときの表記は「ギド・クレパクス」)。監訳は巖谷國士。今回発売されたのはこの復刊になります。復刊に際して、「グィド・クレパクス」の表記になりました。

 作品はひたすら美しく静かに時が流れます。さすがに原作が原作だけあってエロいですが、マンガとして読むというより、日本とアチラでのエロはどこが似ていてどこが違うか、というほうに頭が行っちゃいますね。汗と粘液と擬音と動線がいっぱいの日本の美少女系エロマンガとは対極にあるような作品です。

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