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September 15, 2007

ラリホーの変遷

 「ラリホー」って何でしょうか。

 言わずとしれた、ゲーム「ドラゴンクエスト」に登場する呪文のひとつです。これをとなえると敵が眠ってしまうというありがたい呪文ですが、むしろ敵がとなえて味方が眠ってしまうほうが困ります。

 ドラクエ1作目の発売が1986年。社会現象にもなった3作目の発売が1988年。以後ラリホーは、日本ではそれなりに一般的な言葉になったのじゃないかしら。

 ドラクエの呪文は、炎が「メラ」、閃光が「ギラ」、爆発が「イオ」、冷気が「ヒャド」というふうに、擬態語や連想する言葉から名づけられてます。眠らせる呪文「ラリホー」のもとになったのは、もちろん「ラリる」でしょう。

     ◆

 「ラリる」は、1960年代の「睡眠薬遊び」に関連した言葉として流行しました。「クスリでラリる」わけですな。「ラリパッパ」なんて表現もありました。

 ハイミナールやブロバリンなどの睡眠薬を服用していい気持ちになる「睡眠薬遊び」が流行し始めたのが1960年ごろ。ピークは1963年と言われてます。

 永島慎二のマンガ『フーテン』に、ダンさんたちが睡眠薬パーティを開いているシーンがあります。このマンガの舞台が1961年です。

 「ラリる」の語源については、睡眠薬を飲むとろれつが回らなくなって、「らりるれろ」が頻発するようになるから、という説があります。確かに酔っぱらいは「そうれすね」なんて言ってますからね。

 もひとつの説は、「乱離骨灰」説です。広辞苑によりますと「乱離(らり)=乱離骨灰(らりこっぱい)の略」「乱離骨灰=ちりぢりに離れ散ること。めちゃめちゃになること」とありまして、「らりにする」という言い回しがあったらしいです。でも、1960年代に流行した若者コトバの語源が江戸時代の古い言い回しから、っていうのはちょっとどうでしょうか。

 ま、それはともかく、1960年代前半、フーテンのお兄さん、お姉さんがたは、睡眠薬を飲んではラリってたわけですね。薬物乱用なんだから、ダメですよこんなことしてちゃ。

     ◆

 いっぽう1967年、日本で放映されたハンナ・バーベラ制作のアニメーションに「スーパースリー」というのがありました。バンドを組んでる三人組が、実はXメンみたいな超能力を持っていて、諜報組織に属して悪人と戦うというお話。

 このカートゥーンの主題歌が「♪ラリホー ラリホー ラリルレロン♪」というものでした。YouTube で見られます↓。

  http://www.youtube.com/watch?v=OreKtQx0pUE

 歌ってるのは、関敬六、石川進、愛川欽也ですね。

 「スーパースリー」の原題は「The Impossibles」で、アメリカでは1966年放映。ちなみに英語版のオープニングはこれ↓。

  http://www.youtube.com/watch?v=0NnGf_ZHcbI

 日本語版の主題歌は日本で作詞作曲されたものでしょうけど、ラリホーというのは別に日本で作った言葉じゃありません。ラリホーは主人公たちのかけ声、battle cry として英語版アニメーションの中でも使われていました。英語では「Rally Ho」と書きます。この「Rally Ho」が「The Impossibles」が制作される以前に使われてた言葉かどうか、さすがにこれはよくわかりませんでした。

 「スーパースリー」のラリホーは能天気な感じのかけ声で、しかもノリのいい主題歌つき。だもんで、みんなけっこう覚えてるようです。『ちびまる子ちゃん』の登場人物がラリホーと言うことがありますが、あれは「スーパースリー」のラリホーです。

 最初は「ラリホー」に酩酊や睡眠の意味なんかなかったはずです。でも日本には、いっぽうに「ラリる」があって、もういっぽうに「ラリホー」があったわけです。これはいずれくっつくのが自然のなりゆきだったのでしょう。

 というわけで、「ラリる」が「Rally Ho」と出会って、ドラクエの呪文「ラリホー」になりました。ただし「ラリホー」は睡眠の呪文のはずなのに、どうしても酩酊をイメージしてしまいますね。

     ◆

 さて、ドラクエ以後のラリホーはどうなったか。 

 米米クラブの歌に「ラリホー王」というのがありましたが、これはドラクエのラリホーを下敷きにした、ラリってる意味のラリホーでした。

 ゲーム「ファイナルファンタジー」シリーズにもラリホーが出てきます。このシリーズには、「ハイホー」を挨拶の言葉にしてるドワーフの一族と、「ラリホー」を挨拶にしている一族が登場します。ここでの「ラリホー」は、「ラリる」意味がなくなって、能天気なかけ声に戻ってます。

 これが海外に逆輸入されますと、海外のあるサイトでは、「Rally Ho」の説明として、ゲーム「ファイナルファンタジー」でのドワーフの挨拶、と書いてあるところもあるくらい。すでにハンナ・バーベラのカートゥーンより、日本のゲームのほうが身近なのね。いずれにしてもアチラでの「ラリホー」には、日本人がどうしても付加してしまう「ラリる」イメージはないようです。

 じゃあドラクエが英訳されたとき、「ラリホー」はどうなったかといいますと、実はこれが「Rally Ho」じゃなくって、「Rarihoo」と訳されたのでありました。日米を行ったり来たりしてる間に、言葉ってのはずいぶん変化していくものですねえ。

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Comments

ヨーデルから来てるとばっかり思い込んでました。>スーパースリー

Posted by: かしわぎ | September 18, 2007 04:11 PM

私も、ドラクエのラリホーはスーパースリーからなのかなと
思っていました。言語であるとは思いもよりませんでした。

コイルが関敬六、フリーが石川進、マイトが愛川欽也で、
声優をやっている三人がそのまま主題歌を歌ってましたね。

なぜだか、あの歌ははっきり覚えてるんですよ、なぜだろう。

Posted by: らいおん親方 | September 16, 2007 11:10 AM

スーパースリーを40年ぶりに聞けました。まわりの誰も覚えてなかったので、孤独でした(笑)ありがとうございます。アメリカ人と話すときもthe impossible なんて原題は知らなかったので、助かりました。これで会話することができます。

Posted by: not a second time | September 16, 2007 07:43 AM

狐狩りのかけ声「Tally ho」のもじりでしょう。>スーパースリー原語

Posted by: ふこをさん | September 15, 2007 09:41 PM

私は「ラリホー」といったらジョジョの奇妙な冒険の死神Death13。小学校の時に読んだこの「ラリホー」は未だに不気味なトラウマです。

Posted by: くもり | September 15, 2007 09:06 PM

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