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September 30, 2007

カツマタ君て、だれっ

 うちの同居人が隣で、「カツマタ君て、だれっ」と叫んでおりますが、日本じゅうでこの言葉が聞かれたのではないかと。

 浦沢直樹『21世紀少年』下巻(2007年小学館、524円+税、amazonbk1)が発売され、『20世紀少年』全22巻、『21世紀少年』全2巻、計24巻で完結しました。

 『20世紀少年』につきましては、かつてわたしも、18巻まで読んだ段階でこんなエントリをアップしたことがありました。

○「20世紀少年をきっちり読み直す」(その1)(その2)(その3)(その4)(その5)(その6

 今回の完結を機に、全巻を通読しました。毎度のことながら付箋はりまくっております。

     ◆

 『20世紀少年』は、三部に別れます。第一部が1巻~5巻、1997年から2000年12月31日「血の大みそか」まで。第二部が5巻~15巻、2014年から2015年の西暦の終了まで。そして第三部が16巻以降、ともだち歴3年の世界です。

 読み直してみて、つくづく第一部、第二部は傑作ですねえ。謎が謎を呼び、読者の想像を超えた展開が続きます。

 ちょうど20世紀の終わりになったとき、雑誌に第一部ラストの20世紀終わりのシーンが掲載されるという、稚気あふれた計画性も楽しい。というか、それをねらって始めた連載でしょう。

 第三部も、16巻の最初、ともだち=フクベエの少年時代が解明されるところはドキドキしました。ただし、結末を知った立場でそのシーンを読み返しますと、フクベエの少年時代を回顧している「ともだち」が、すでにフクベエじゃないんですから、整合性に問題ありです。

 第三部は、まずケンヂが生きてたことがわかったところで、軽くコケましたね。そんなマンガみたいな展開になるとは。マンガなんですが。

 そして第三部では主に、ケンヂが東京に向かう行程が縦糸として語られます。その先に待ち受けるラストは、当然、ともだちとの最後の対決ですが、ラスボスのはずのともだち=フクベエは、すでに第二部の途中で死んでしまっています。

 ともだち=フクベエは、超能力者で宗教的カリスマで性格が悪くて大量殺人者でヒロインの父で、しかも正体が謎であるという、実にラスボスにふさわしい存在でした。主人公=ケンヂが対決する相手としては、ベストのはず。

 しかしもう、彼はいません。第三部では、フクベエは死んだとくりかえし証言されます。となると当然、読者の興味は、フクベエが死んだあとのともだちとは誰か、という謎になってしまいます。

 ですから、ラストシーン、ともだちがカツマタ君だったとわかったとき、日本全国で「カツマタ君て、だれっ」という大合唱が起こったのもしかたがないことでしょう。

     ◆

 さて、カツマタ君とはだれでしょうか。彼が登場するのは以下の回です。

○1巻5話
 成人したモンちゃんが小学校の仲間との話題に出す。理科の実験が大好きのカツマタ君が、フナの解剖の前日に死んじゃって、夜な夜な理科室に化けて出て解剖している。

○11巻12話
 ヤマネの元同僚が、ヤマネから聞いた話として。小学校時代に仲の良かった子が死んだが、ヤマネは夜ごと学校に忍びこんではその子の幽霊と実験をくり返していた。

○12巻6話
 成人したユキジの言葉として。小学校六年生の時、実験が好きな子の幽霊が出ると男子が騒いでいた。

○14巻6話
 小学六年生のケロヨンが「四組の西尾」から聞いた話として、カツマタ君の幽霊が出た話をする(ただしバーチャルアトラクションの中)。

○16巻3話
 小学五年生のフクベエが、鏡の映った自分の顔を見ながら「君はカツマタ君?」(ただしヴァーチャルアトラクションの中)

 実はカツマタ君が生きているかも、とはだれも考えていないようです(フクベエの言葉は小学五年生時代のものなので、ちょっとおいといて)。しかし、小学六年生の理科室事件の時、謎の人物がいた、という描写は一応なされています。

○1巻5話
 その日学校に行ったのは、モンちゃん、ケロヨン、コンチ、ドンキーの四人のはずなのに、遠景で五人描かれている。

○14巻6話
 コンチが「誰かうしろにいたみたいな」 これを見ていた小泉響子も「あたしも人影がひとつ多く見えたんだけど」(ただしヴァーチャルアトラクションの中)

○14巻8話
 ドンキーが「さっきから、誰かついて来てるの知ってるよ」 さらに「オバケなんて、いやしないんだよ」(ただしヴァーチャルアトラクションの中)

 ドンキーだけは、彼がオバケ=カツマタ君であったことを知っていたのかもしれません。でもねー、これだけの情報ではやっぱ「カツマタ君て、だれっ」だよなあ。

     ◆

 子ども時代のカツマタ君が実際に登場するのは20巻以降です。もちろんまだカツマタ君という名前は明かされない、名なしの少年です。彼はサダキヨと同じナショナルキッドのお面をかぶってるか、後ろ姿として描かれており、その素顔は不明のままです。

○20巻11話
 キリコの回想として。小学生のカツマタ君が、フクベエ、ヤマネと話している。

○21巻7話
 誰かの回想シーン。おそらくカツマタ君自身の回想。「しんよげんの書」に、火星移住と反陽子爆弾を書き加える。

○21巻11話
 カツマタ君自身の夢=回想。中学二年生のとき、学校の廊下でケンヂ、ヨシツネ、ユキジとすれ違う。屋上に向かい、ナショナルキッドのお面をかぶる。これがラストシーンにつながります。

○22巻10話
 ケンヂの回想。小学生のカツマタ君が、ジジババの店でガムの当たりくじと地球特捜隊のバッヂを交換するところを、ケンヂが目撃する。

 『21世紀少年』上下巻になりますと、ナショナルキッドのお面をかぶったカツマタ君は頻回に登場し、ケンヂの万引きのぬれぎぬを着たことや、ラストシーンでは、ケンヂが中学校で放送した「20世紀少年」の曲で、自殺を思いとどまったことが明かされます。

     ◆

 小学・中学とケンヂと同じ学校だったのに、すでに小学生時代には同級生から死んだとウワサされていたという、かわいそうなカツマタ君。残念ながら、サダキヨとあまりにキャラがかぶりすぎ。

 いつもお面をかぶってる。友達がいない。いじめられる。誰にも注目されない。覚えられていない。死んだというウワサが流れる。

 カツマタ君とサダキヨは、お面をかぶれば容姿もそっくりですが、キャラクターとしても双子のように似ています。フクベエの影響を受けて、のちに殺人者となるところもそっくり。だったらひとりにまとめてもよかった……のじゃないかしら?

     ◆

 浦沢直樹ですから、救いのあるラストで終わります。

 ヴァーチャルアトラクション内の小学生ケンヂは、おとなケンヂに導かれ、(1)引っ越すサダキヨを見送り、(2)カツマタ君に万引きを謝ります。

 ヴァーチャルアトラクションを一種のタイムマシンと考えれば、これは過去改変モノのSFです。この結果、ヴァーチャルとはいえ別世界では、サダキヨもカツマタ君も悪の道に進まないかもしれない。

 実際ラストシーンでは、ヴァーチャルアトラクション内の中学生ケンヂとカツマタ君が“ともだち”になるかもしれない、とにおわせておわり。めでたしめでたし。

 って、究極の悪、フクベエはやっぱそのままじゃないかっ。あいつが諸悪の根源でしょうが。それをほったらかしにしたらあかんやろっ。結局、現実でもヴァーチャルアトラクション内でも、ケンヂ(あるいはカンナ)とフクベエの対決がなかったのが、なんともどうもであります。

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Comments

>この記事のせいで楽しみにしていた最終巻のネタバレを食らってしまった。
面白くない、納得できない最終回だったとしても
何年も楽しみに読んできた漫画だから
自分で読むまでネタバレされたくなかった。
最悪。

読むのが悪い。

Posted by: カツマタ | August 15, 2010 09:35 AM

「カツマタくんって誰?」
「そんな奴居たっけ?」
それこそ20世紀少年で、浦沢直樹が読者から得たかったリアクションであり、物語のテーマであるでしょうな。
連載時に飛び飛びで読んでいる時は????ってラストでしたが、久しぶりに通して読むと納得でしたよ。

Posted by: tony | September 02, 2009 10:20 PM

>自分から読んだ末のネタバレなのになんと言うパラドックス(^o^)

自分は別にショックでもないですが、記事のタイトルに友達の名前を書いているところが良くないのでは?
ニュースサイトとか見てると他の書評ではタイトルでは分からないようにしている気がします。

Posted by: のぶー | October 09, 2007 04:39 PM

はじめまして。

最後の最後に「うわー」ってなりましたが、

僕もほんとに「誰やねんカツマタくんっ!」

てなりましたね。浦沢さんの伏線のはりかたはすげぇー

Posted by: 二万 | October 08, 2007 04:34 PM

>自分で読むまでネタバレされたくなかった。
自分から読んだ末のネタバレなのになんと言うパラドックス(^o^)

Posted by:   | October 03, 2007 08:00 PM

この記事のせいで楽しみにしていた最終巻のネタバレを食らってしまった。
面白くない、納得できない最終回だったとしても
何年も楽しみに読んできた漫画だから
自分で読むまでネタバレされたくなかった。
最悪。

Posted by: ネタバレされた | October 03, 2007 06:37 AM

私も「やっぱりカツマタ君ねえ・・・。」って感じです。カツマタ君はなぜ、ナショナル・キッドだったのでしょうか?そんなにあの当時人気あったかなあ。
でもまあ、無事に(?)終わってよかったです。読んでいる途中は夢中になったのは事実ですから。傑作のひとつでしょう、やっぱり。

Posted by: not a second time | October 01, 2007 06:01 PM

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