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August 03, 2007

SFとマンガ

 五月に買ったままで積ん読になってた、最相葉月『星新一 一〇〇一話をつくった人』(2007年新潮社、2300円+税、amazonbk1)をやっと読み出して、これけっこうぶ厚い本なのですが三日間かけて読了。すでにあちこちで評判の作品ですし、賞もとりました。徹底的な取材にもとづいて書かれた、本格的な評伝です。

 だれもがみんな、星新一を読んだことがあるはずなのですが、星新一作品をSFと思って読んでるひとはむしろ少数になってしまったのでしょう。すでにあれは、「星新一」というジャンルなのです。

 「星新一」というワンアンドオンリーのジャンルを確立した作家の、栄光と挫折、成功と不幸が圧倒的にせまってくる作品。とくに晩年の星新一についての記述は初めて読むことばかり、しかも著者の指摘がいちいちきびしくて。

 ただ、わたしはどうしてもマンガに近づけて読んでしまうたちなので、とくに興味があったのは次のあたり。

     ◆

 ひとつはSFマガジン初代編集長・福島正実から二代目森優へのバトンタッチ。1969年のことです。

 著者によると、新編集長・森優は、「雑誌の傾向をこれまでの文学SF路線から、スペースオペラ(宇宙活劇)やヒロイック・ファンタジイと呼ばれる大衆SF路線へと大きく方向転換しようとしていた」そうです。

 福島正実編集長時代のSFマガジンが、創刊1960年から1969年8月号まで。この約10年間に掲載されたマンガは、石森章太郎「迷子」8回連載と、短編「21世紀氏」。あと手塚治虫「SF Fancy Free」が不定期に12回連載されました。手塚の連載が終わった1964年4月から後は、水野良太郎/広瀬正の短編が一本掲載されただけでした。

 少なくとも福島正実が考えるSFには、マンガはあまり含まれてなかったようです。

 ところが森優時代になると、1969年9月号より石森章太郎「7P」の連載開始。1971年3月号から手塚治虫「鳥人大系」の連載開始。1971年11月号からは、石森章太郎/平井和正「新・幻魔大戦」も始まって、マンガ連載が二本体制になりました。小野耕世のコラム「SFコミックスの世界」(のち『バットマンになりたい』のタイトルで1974年単行本化)が始まったのも1971年。

 その他にも松本零士や藤子不二雄、永井豪、山上たつひこらも次々にSFマガジンに登場しました。文芸誌に、おとなマンガじゃないマンガ、しかも活劇とはちょっと違うSFマンガが載ってるわけで、なにかオッシャレーな感じがしましたね。1970年前後、マンガ表現が一気に進歩したとき、SFマガジンもマンガを取り入れるようになったわけです。

 そしてハヤカワSF文庫の創刊も1970年でした。

 わたしは現在のラノベのフォーマットは、ハヤカワのSF文庫に始まるんじゃないかと思ってます。カバーイラストに藤子不二雄や松本零士を起用、カラーの口絵とモノクロの挿絵つき。作品のセレクションも、スペースオペラが中心。第一作がエドモンド・ハミルトンのスターウルフでしたからねえ。

     ◆

 もいっこは、星新一と手塚治虫を比較した部分。

 ショートショート1001話を書ききった星新一。死ぬまでマンガを描き続けた手塚治虫。

手塚本人は、新一が書くように、大衆につくすことを「生きる楽しみ」と感じていたかどうかはわからない。反対に、新一が、手塚のいうように、今が辛いならやめればいいときっぱりとわりきっていたとも思えない。むしろ二人とも似たり寄ったりで、辛い、苦しい、けれど、そうせざるをえない葛藤の日々を過ごしていたというのが真相ではないだろうか。

 辛い、苦しい、葛藤、それでも書き続けるのが創作者なのでしょうか。

 星新一は晩年、古い言い回しや時代風俗を極力排除するため、自分の旧作に手を入れ続けました。そして同様に手塚治虫も、自作が出版されるたびに描き直しを続けました。

消耗品にはならない。なりたくない。それは、ひとたび多くの読者を持ち、自分の作品の多大なる影響力にうち震えた経験をもつ作家の背中に取り憑いた妄執でもあった。

 わたしは、著者のように手塚や星の行為を「妄執」とまで言い切る勇気はありませんが、これもひとつの見方でしょう。

 手塚治虫が描き直すことで、作品は古い絵と新しい絵が混在する、ヘンなものとなってしまいました。手塚治虫『ジャングル大帝』は、確かに傑作でありますが、現在読める『ジャングル大帝』は絵のタッチに一貫性のない、きわめて珍奇な作品でもあるのです。

 とまあ、マンガ方面からもいろいろ考えさせられる本でした。

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Comments

ぼくには、こうした体験がありませんので
的確な助言が出来かねますが…。

やはり、想像していたような「はぐらかし」
「ほとぼりさまし」作戦に出てきたな!という
ことです。

とすれば、4カ月も待つ~などは、相手の作戦にモロ
のっかってしまうことで、これは何としても避けるべきです。

★まず唐沢さんに対して、あなたは今コレをどう考えておられるのか?!ということもおっしゃるべきでしょう。
版元にまかせた~というのは、こうした状況を作り
「のらりくらり」作戦を取ろうとした!のではないのか?
それを再確認すべきです。
そうでないなら、唐沢さんの方からも版元に、きちんとした
すばやい対応を取れ!と言って下さい~ということですね。
(返事が無いようでしたら、全面批判を開始してもいい~と
解釈します!と宣言しておく。)

●唐沢さん側が、そうしたことはやりたくない、やらないのでしたら
こちら側としては、そうした不誠実さに対し、抗議するため
別ブログを設定し、自分の主張に賛同される方々のご意見も
おおいに募り、全面的に版元・執筆者・担当編集者たちへの
批判を、<大きく><長期に>展開していく所存である!!
といったくらいのアクションを起こしてみたらどうでしょう。

町山さんや諸氏からのメッセージを頂くとか、その情報へのリンクも
しっかり貼り、長期戦うぞ!といった「覚悟」をみせつける。
ネットでの談判は、やはりそれくらいやりませんと、どうにも
ならないのでは。

いかがでしょうか?

Posted by: 長谷邦夫 | August 04, 2007 03:47 PM

長谷邦夫先生に質問がございます。

やはり会社の態度が良くないですね。
これ以上遅らせるなら、専用のブログで
毎日書きます!とでもいうべきです。

だらだらやって、貴兄があきらめるのを
待つ作戦でしょう。

やはり社長にも抗議すべき。
頭文字なんて本当に姑息です。


Posted by: 長谷邦夫 | July 13, 2007 at 12:16 AM

とコメントされていましたが、
現時点ではどのようなアドバイスがありますでしょうか。
漫棚通信さんとしては、あと4ヶ月告発までの時間をお持ちです。
今後、どのようなアクションを起こすのが適切か、アドバイスを
差し上げてください。

Posted by: アドバイスを | August 04, 2007 02:58 PM

アララ~~っ、そうでしたか。
まだ購入していないのです。
もちろん絶対に読むつもりですが。

でも、その事実は忘れていました。
「飛び入り」参加ではないんです。
ぼくは同人でしたからね。

石ノ森はぼくが連れていったんで
飛び入りですが…。

森優(南山宏)さんは、最初例会でお会いしたころは
マンガ大好きの大学生でした。
井上陽水ファンで、サインがほしいと言われ、陽水さんから
もらってきてあげた~という思い出があります。

福島編集長は、初期、固い感じでマンガには関心が無かったと
思います。森さんに替わってからSFマンガへの依頼が増えて
いったんだと思います。

Posted by: 長谷邦夫 | August 04, 2007 10:43 AM

長谷先生、まさにレジェンド(伝説)じゃないですかっ!!

星新一の評伝が本になって世間に評価されるなんて・・・草葉の陰で福島正実の涙する姿が見えるっ、見えるぞ!

Posted by: トロ~ロ | August 04, 2007 03:46 AM

>ブラウンの「発狂した宇宙」を即席でマンガに描いた

それ見たい

Posted by: あ~ | August 04, 2007 03:06 AM

『星新一 一〇〇一話をつくった人』には長谷先生も登場されてます。第1回日本SF大会メグコンに、手塚治虫、石森章太郎、長谷邦夫の三氏が飛び入りで参加し、長谷先生はブラウンの「発狂した宇宙」を即席でマンガに描いたとされてますよ。

Posted by: 漫棚通信 | August 03, 2007 10:53 PM

星さんの旧邸宅で、「宇宙塵」の同人たちと
会合を持ったことが2~3回ありました。
懐かしい!

彼が持っていたアメコミを、そこに居られた
矢野徹さんが、紙芝居のおじさんみたいに
翻訳して、ぼくらに読んでくれたりしてたんです。

すごい贅沢な時間でしたね。

Posted by: 長谷邦夫 | August 03, 2007 10:28 PM

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