わかるやつだけついてこい
とり・みき『遠くへいきたい』5巻(2007年河出書房新社、950円+税、amazon、bk1)が発売されました。
1ページに3×3の正方形9コマで書かれた、セリフやキャプションのないギャグマンガ。この意欲作も、もう5巻になりました。この巻のオビには、海外での好評が記されてます。めでたいことです。
英語版は「Anywhere But Here」のタイトルで2005年に、フランス語版が「Intermezzo」のタイトルで2006年に出版されてます。
海外版は持ってないのですが、確かにサイレントマンガだし、ナンセンスだし、海外でもわかりやすいのかな。でも今回の5巻のうちでも、こりゃまずわからないだろう、というのがやっぱあります。日本の風俗習慣がギャグとして機能してる作品です。
てるてる坊主、丑の刻参り、除夜の鐘、福笑いも、説明抜きではわからないでしょう。意識を持って動きまわる鍋のシラタキにいたっては、説明されてもわからんのじゃないかしら。『遠くへいきたい』にはコタツがくりかえし登場しますが、これってどう理解されてるんでしょうね。
だいたいこのマンガの主人公はエプロンを掛けてハタキを持った男性。日本人ならこの記号で彼が書店員だとわかりますが、これはさすがに万国共通じゃないよなあ。
とり・みきの場合、海外どころか日本人にとっても難解な作品をヘーキで描いちゃいますからね。わかるやつだけついてこい、という態度は昔から変わりません。
今回ムズカシイと思われる作品ベストスリーは、まず81ページのお化け煙突ネタ。千住のお化け煙突の話を知らなければ、ほとんど理解できません。37ページの作品も、雑誌に掲載されたのが年末だということに気づかなければ何が何やら。
そして今回、最高傑作にして難解なのは、36ページ。3×3の9コマを障子にみたてた作品です。障子の紙に穴を開けて、向こう側から主人公がコッチを覗いております。さて彼は何を見ているのでしょうか。考えオチというか何というか、オチがあるようなないような、空前の作品ではないかと。
Comments
>あれは火浦功の書き下ろし原作でしたね。
本当だ。気がつきませんでした。最後のコマのサングラスの男は―そういう意味だったのか。
どんどん脱線してすみません。
Posted by: 藤岡真 | September 03, 2007 07:49 AM
> 矢鱈に女(人妻の編集者、女子高生)にもてる漫画家の話
あれは火浦功の書き下ろし原作でしたね。
「遠くへ~」36ページの障子マンガはTV Brosの正月番組特集号に掲載されたものだと思います。すみっこでモチが焼けてるはずです。我ながらよく覚えてるな。
Posted by: かくた | September 03, 2007 04:55 AM
「だまって俺について来い」の中に、矢鱈に女(人妻の編集者、女子高生)にもてる漫画家の話が載っていて、コノヤロと思った記憶があります。表題作はちょっと欧米では発表が難しいような……。
Posted by: 藤岡真 | September 02, 2007 07:39 AM
この文章の前段として、「PLAYBOY」のヒトコママンガが艶笑モノにもかかわらず、日本人にとっていかにわかりにくいかという文を書いてたのですが消してしまいました。マンガにかかわらず異文化理解はほんとに難しいです。
Posted by: 漫棚通信 | September 01, 2007 02:38 PM
背景がわからないがゆえに面白く感じちゃうこともありますね。翻訳されて背景がわかってみたら案外がっかりしたりってことも、ままありました。ナンセンスには、そういう側面があるかも。
Posted by: 夏目房之介 | September 01, 2007 11:32 AM
とり・みきには「だまって俺についてこい」て作品(&単行本)もありましたね。
あれはクレージーキャッツの御題拝借でしたが。
Posted by: かくた | August 31, 2007 09:48 PM
なるほど、コタツの伝道師、高橋留美子がいましたか。彼女の作品はうる星にしてもらんまにしても、コタツばっかり出てくる印象がありますから、世界でのコタツ認知度も上がってる?
Posted by: 漫棚通信 | August 30, 2007 05:40 PM
ある世代のフランス人はこたつをよく知っています。「ジュリエット・ジュテーム(アニメ版『めぞん一刻』)」が放送され、高視聴率をあげていたからです。
Posted by: 高千穂遙 | August 30, 2007 06:24 AM