夏の長編
おそらく偶然なのでしょうが、夏になってチカラのはいった長編マンガが連続して刊行され、いやまあ読みごたえのあること。いずれも二巻同時発売で、長編の魅力がじゅうぶん味わえます。
●藤原カムイ/大塚英志『アンラッキーヤングメン』全二巻(2007年角川書店、各1200円+税、amazon、bk1)
時代は1970年前後、連続射殺魔事件、三億円事件、学生運動、楯の会などが背景。実在の人物をモデルにして、虚実とりまぜて描いた長編マンガ。二巻で完結してます。
強奪した三億円を複数のグループが奪い合う伝奇的物語、のはずなので痛快に描くことも可能だとは思うのですが、そこはそれ、大塚英志とクールな絵の藤原カムイですから、辛気くさい展開が続きますけどね。
著者たちの興味は「時代」のほうにあります。近過去をまるごと再構築してみたい。その意味では、『20世紀少年』などと通じるところがあるようです。
●三宅乱丈『イムリ』1・2巻(2007年エンターブレイン、各640円+税、amazon、bk1)
本格的なSF/ファンタジー。わたしこの二種類の区別がよくわかんないのですが、宇宙船が出てきたらSFという感じがするので、一応、SFね。
本格的というのは、世界を作って、環境を作って、歴史を作って、社会を作って、超能力の体系を作って、と、あらゆる設定を神のごとく作り上げてるところ。『ペット』より徹底してまして、三宅乱丈、こういうのが好きなひとだったんだなあ。いかにも楽しそうに作ってます。
たよりないけど才能があり、出生の秘密を持った(←おお、王道!)主人公が、星間戦争に巻き込まれそうになったところで、以下続刊。
●五十嵐大介『海獣の子供』1・2巻(2007年小学館、各714円+税、amazon、bk1)
著者初の長編、だそうでして、言われてみれば確かにそうだ。五十嵐大介、もう巨匠のような気もしてたけど、数巻にわたる長編、って描いてなかったんだ。
主人公中学生女子が、夏休み、ジュゴンに育てられた少年たちと出会い、隠された世界の真実を探求していく話、なのかな。これもSF/ファンタジーなのですが、黒幕の企業とか出てくるから、一応、SFということでひとつ。
あいかわらず五十嵐大介の絵は魅力的ですが、海や森、海の生物を描かせて、今、もっともうまいひと。以前の作品と比べて、人物の目が大きくなって、ちゃお/なかよし化しつつあるのがちょっと気になるところです。
2巻終わって、まだ夏休みは続いてて、以下続刊です。
Comments
五十嵐大介さんの絵は一見すると緻密でもなくスケッチ風なので、こちらも身構えないまま読み始め、眺めているうちにそれとなく情景描写や登場人物の心理の綾に織り込まれるように引き込まれ、あのそっけない線がときどき現実感を呼び起こしつつ、「やめられない・止まらない」状態で巻末まで読んでしまいます。
ジャンプ・スタイルの漫画と異なり、あえて説明をほとんど省くので「え。これってなんだろー」となりますと、たびたび読み返して咀嚼するという、牛の反芻みたいな感じで、じんわり消化吸収されていきます。
リトル・フォレスト、魔女、と立て続けに秀作を発表して、近年はこの表現スタイルが、マジに洗練されてきて、現代国語の教科書に載せたいくらい。読み解く力を養います。
長々と失礼致しました。
猛暑なので皆様お身体に何卒ご自愛のほどを。
Posted by: トロ~ロ | August 13, 2007 01:42 AM
『海獣~』、雑誌でときおり読んでいましたが
やはり纏まって読むと素晴らしい出来ですね。
SFと言っていいと思います。
カムイ作品、大塚さんが送ってくれています。
これから読みます。
ひさしぶりのカムイらしさが楽しめそうです。
Posted by: 長谷邦夫 | August 11, 2007 06:49 PM
あ、『ナチュン』2巻発売されてたんですね。買いのがしてました。1巻の段階では70年代ふうの絵がちょっときつかったです。でもお話の展開はすごく気になるから、今日買ってきます。
Posted by: 漫棚通信 | August 11, 2007 08:42 AM
都留泰作「ナチュン」月刊アフタヌーン連載(講談社)はどう思われますか?あまり好きなタイプの絵ではないんですが、つい引き込まれて読んでしまいました。「イムリ」といい「海獣の子供」といい、どれもSFで現在2巻までってのが共通点ですよね。楽しみなSFが連続して出版されて嬉しいかぎりです。
Posted by: osunupapa | August 10, 2007 10:18 PM