因果はめぐる糸車(その2)
(前回からの続きです)
円朝『真景累ヶ淵』のマンガ化といえば、現在コミックビームで連載中なのがこれ。
●田邊剛/構成・竹田裕明『累(かさね)』1巻(2007年エンターブレイン、690円+税、amazon、
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宗悦が新左衛門に殺されるところや、新五郎が園を殺す因縁はとばして、新吉と豊志賀との出会いから始まってます。
新吉と豊志賀の関係をねっとりと描きながら、宗悦(←1巻ではまだ誰か明かされてません)の幽霊が豊志賀の家に出現したりしてます。宗悦が、実の娘の家に化けて出るという奇妙な展開ですが、豊志賀が、宗悦の死体を入れた「つづら」という言葉に反応したりしてますから、どうやら、このマンガでの豊志賀、原作と違って宗悦殺しに無関係じゃないらしいです。
田邊剛の線は人体を描くときも直線が多く、いかにも堅いのですが、それが怪談にはあってる感じ。今回、マンガとして、怪談としての見ものは、顔のアップの連続。豊志賀の嫉妬心が原因なのか、彼女の顔にぽつんとできた小さなデキモノ、これがじわじわと大きくなって、豊志賀の顔が崩れてゆくのをじっくり描いてくれてます。これがケッコウ怖い。
原作のような大長編になるはずもないですから、どのあたりで収拾をつけるのか、今後の脚色も気になるところです。
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累ヶ淵をマンガにしたものはきっと複数あるのでしょうが、わたしがリアルタイムで読んでおもしろがってたのは、池上遼一『かさね』。1970年週刊少年ジャンプに短期連載されました。2003年になって初めて単行本化されましたが、もう絶版になってますね。
●池上遼一『池上遼一珠玉作品集1 かさね』(2003年講談社、762円+税、amazon、
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書影のカバーイラストは後年描かれたものですから、中のマンガはこんな絵ではありません。まだまだ丸っこい人物を描いてたころです。
このころの池上遼一は、同時に別冊少年マガジンで『スパイダーマン』連載中でした。週刊少年ジャンプのほうは、『男一匹ガキ大将』と『ハレンチ学園』の全盛期で、「他は何やっても大丈夫」と言われてたころです。同時期の連載に、ジョージ秋山『デロリンマン』とか小室孝太郎『ワースト』なんかがありましたね。
オープニングで、宗悦が深見新左衛門に斬られ、豊志賀・園の姉妹、新五郎・新吉の兄弟が残されるのは原作どおり。時が流れて主人公は新吉です。このマンガでは原作に登場する久が省略されてて、累が最初から新吉のガールフレンドとして登場します。
いろんな因果や因縁に導かれて、主人公新吉が、豊志賀・累・園、さらに兄の新五郎までも殺してしまうという、ずいぶんとうまくできた脚色です。当時読んでたコドモのわたしとしましては、怪談として怖いというより、ガールフレンドが実は因縁の相手、とか、殺した相手が実は兄、とかいう因果ものの展開に感心してました。
さすがに少年誌ですから、新吉と豊志賀の愛欲や嫉妬は描かれません。ですから登場したときから豊志賀は醜い顔の女性で、豊志賀の変容をもっとじっくりと描くことができればずっと怖い作品になったんじゃないかしら。
おもしろいのは、新五郎をリーダーとする「かぶき者」グループが、反体制思想を持ち大がかりな現金強奪を計画しているところ。映画『野良猫ロック』シリーズを思い出しちゃいましたよ。あるいはこのあいだ読んだ、藤原カムイ/大塚英志『アンラッキーヤングメン』とか。時代の気分てのが出てますねえ。
そして、怪談ですから登場人物はみんな、因果に導かれて破滅していくのですが、これも1970年前後のアメリカンニューシネマや、その影響を受けた日本映画によくあったラストに似ている。今回『かさね』を読み直してみますと、日本の怪談とニューシネマの合体なんですよね。そうか、こんな手もあったか。
Comments
今、手にはいるのは古書だけでしょう。そんなにレア本ではないはずです。
Posted by: 漫棚通信 | March 19, 2008 12:02 PM
はじめまして!
検索していたらたどり着きました。
池上先生が「かさね」を描いているという事は知らなかったので 驚きました。
スゴく読みたいのですが…本屋などで売っているでしょうか…。
事後報告で申し訳ないのですが 私のブログにて こちらの記事紹介させて頂きました。
そしてトラックバックも失礼しました。
Posted by: 赤魚 | March 18, 2008 11:20 PM