怪しい、怪しすぎる
通勤の行き帰り、ときどきNHKのAMラジオを聞くのですが、先日そこに出演したかたで、ずいぶん怪しげなしゃべりかたをするひとがいるなあと。で、気になってしょうがないので思わず買ってしまいました、この本。
●木村泰司『名画の言い分 数百年の時を超えて、今、解き明かされる「秘められたメッセージ」』(2007年集英社、2286円+税、amazon、bk1)。
「美術は見るものではなく、読むものです」というコピーを掲げた啓蒙書、というよりは軽い読み物。美術鑑賞には感性よりまず知識、という主張です。
本としてはギリシアから印象派までの西洋美術の歴史をイッキに語ってしまい、名画解説がところどころにはいるという形式。一行豆知識の西洋美術版、といったお手軽な本です。本来なら最近の新書レベルの内容なのですが、カラー口絵が40ページ以上ついてますので、ハードカバーでこのお値段になってます。
「ございます」「まいりましょう」「疑問をお持ちになる方もいると思います」といったちょっと怪しげな文体ですが、著者の知識は広く、わかりやすく語ってくれる技術もお持ちです。それなりに楽しく読ませていただきました。もちろん個々の画家や作品についてのこまかく知りたければ、他書をあたらなければなりません。
ただし書影を見ていただけばわかりますが、なんつっても美術の本のカバーに著者自身の写真を使うというのが、ちょっとアレであります。またそれがスキンヘッドのナルシーなものですから、いやもう何というか、怪しいったらありません。バックの絵はもちろん本物じゃなくて、陶板によるコピー絵画しか置いてない大塚国際美術館での撮影です。
単行本の著者略歴がまた怪しい。
西洋美術史家。1966年、愛知県生まれ。カリフォルニア大学バークレー校で、美術史学士号を取得後、ロンドンのサザビーズ美術教養講座にて、Works of Art 修了。
ロンドンでは、歴史的なアート、インテリア、食器などの本物に触れながら学び、同時にヨーロッパの上流階級における正式なマナーや社交術も身につける。
おおっ、「上流階級」「正式」「マナー」「社交術」。でもインタビューによると著者は16歳からカリフォルニアに8年、ロンドンには1年間滞在しただけのようですけどね。
著者の現在の仕事は講演やセミナーが主で、聴衆のほとんどがハイソな奥様がただそうです。ただし、著者の後援会のサイトには「企業向けセミナーのご案内」というのもありまして、
欧米のトップクラスの人々は、どのような場面でも、美術史をあたりまえの教養として日常の会話に生かしています。西洋美術史は、今や一流のビジネスマンの必須アイテムといって過言ではありません。
「上流」や「トップクラス」「一流」という言葉に、心くすぐられるマダムや企業人のかたがたくさんいらっしゃるのでしょう。
著者のエッセイがネット上で読めますが、これまたタイトルが「プリンセスとティータイム」「白夜に抱かれて」「ミモザの雨につつまれて」とまあ、ハイソなこと。そのうち、「NEW YORK LUXURIOUS NIGHT (ニューヨークの華麗なる夜)」と題されたエッセイはこんな感じ。
エリザベスが独身時代にも一度紹介してくれたミセスWは、久しぶりにお目にかかった私に、「お元気でいらした?」と微笑み、そっと右手の甲を差し出しました。握手ではありません。クイーンやプリンセスがする仕草です。その何と自然な事。私は身をかがめ、彼女の手にキスせざるを得ませんでした。
読んでて悶絶しそうになりました。思わず笑ってしまうほど、怪しい、怪しすぎる。
Comments
いや勉強になりましたし、いい本だと思うんですよ。でもさすがに著者略歴に引っかかってしまいまして。
Posted by: 漫棚通信 | August 29, 2007 04:12 PM
ハイソレディが水溜りを前にすると、即座に
ご自分のアルマーニをパッ!と溜りの上に!
たまりませんネ
ほんとにやってほしい。
イケるキャラですよ。
Posted by: 長谷邦夫 | August 28, 2007 08:38 PM
>美術鑑賞には感性よりまず知識、という主張です
これには同意。
抽象画なんて特に。
Posted by: Sophie | August 28, 2007 09:51 AM
江戸時代初期に暗躍したとか聞く
怪しげな坊主を想起しました。
オンナはちょっとワルっぽい男にヨワイもの。
見事にそのあたりのツボを押さえています。
いかんなぁ~(笑)
Posted by: トロ~ロ | August 28, 2007 12:30 AM