« これは盗作とちゃうんかいっ・だらだら篇 | Main | これは盗作とちゃうんかいっ・無断引用篇 »

July 16, 2007

考証というほどじゃなくても

 福島鉄平『サムライうさぎ』1巻(2007年集英社、390円+税、amazonbk1)について。

 週刊少年ジャンプ連載の時代劇マンガであります。主人公が妻をしあわせにするために行動する、という藤沢周平みたいなところが、少年マンガっぽくなくて評判になってるらしい。

 しかし、このマンガ、読むのがきついっす。

 時代劇にはいろいろとお約束があって、読者はすでにそれを知っている。わたしたちがこれまでに享受してきたいろんな時代劇、小説・映画・テレビ・マンガ、あと芝居・落語・講談などから、知らず知らずに教えてもらってきたことがいっぱいあります。今だってふつうにテレビで時代劇やってんだしね。

 『サムライうさぎ』の冒頭第1ページ。「江戸城下」とキャプションがあります。だったらこのお城は江戸城だよね。で、御家人の主人公が「城の仕事」に通ってるのは、江戸城。そしてそのあたりの街並みは、あの世界に冠たる大都会、江戸です。主人公が通う「城下でも名門の」道場は、この場合、城下とは江戸城下ですから、まさに超有名道場……

 ごめんなさい、江戸にも江戸城にも見えません。

 主人公の父と兄はそれぞれ切腹を命じられていますが、なぜ、主人公はそのまま家を継げているのか。「城で開かれる」剣術の試合は、老中なども見に来る大きな試合ですが、江戸城でこんなことしてたのか。主人公には公務というものがあるはずなんですから、それをほったらかしといて、剣術の道場なんか開けるのか。

 すでに読者の血肉となってしまってる時代劇のお約束から、ことごとくずれまくる設定と描写は、きつい。

 そりゃわたしも、ひばりやチエミがジャズを歌う時代劇とか、大信田礼子が短パンで走り回る時代劇を見てきましたから、茶髪でまげを結わないサムライが登場するぐらいは、まあがまんしましょう。時代劇に洋ばさみが出てきても、これもがまんしよう。でも室内で腰に大小さしたまま正座してるサムライってのはなあ。

 時代劇は読者にとって、そこにアタリマエに存在するものですから、「考証」以前の常識ってのがあります。いかに「ジャンプ」で、子ども向け、とはいえ、くずしかたってものがあるでしょう。

 時代劇は日本のエンタメにとって宝の山です。もっと大切に扱ってくれないかなあ。今回年寄りのグチみたいになってますね。

 その点、こっちはきちんとしてます。小竹田貴弘『怪異いかさま博覧亭』1巻(2007年一迅社、552円+税、amazonbk1)。

 化政のころの江戸、両国にある見世物小屋を舞台にしたコメディ。こっちの主要登場人物たちも男性はまげを結ってないし、女性のファッションはずいぶんとポップ。でも作者はウソが何かちゃんと知ったうえで描いています(←ここ大切)。こころがけとこころざしが違う。

|

« これは盗作とちゃうんかいっ・だらだら篇 | Main | これは盗作とちゃうんかいっ・無断引用篇 »

Comments

べつにお前みたいな頭が糞固い時代劇ヲタなんか対象にしてねぇよwww

Posted by: きた | July 19, 2007 05:12 PM

ttp://mandanatsusin.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_782a.html
>このマンガ、わたしのようなオッサン読者に合わせて描かれてるわけではけっしてないのですから、中学生のほうが正しい読み手なのでしょう。

Posted by: 通りすがり | July 19, 2007 08:57 AM

仮にこのマンガが海外の作品だったら「誤解されたサムライ文化」とかで話題になっちゃうんでしょうね。
そーいえば少年マガジンに連載されてた「サムライディーパーKYO」も割と大胆でした。

Posted by: 87分 | July 19, 2007 01:11 AM

http://homepage2.nifty.com/kenkakusyoubai/zidai/bukekurasi.htm

「公務の合間に武術の稽古をすることは奨励されていて公務に差支えがない程度に道場を構え師範になることや代稽古で収入を得ることは可能だった。幕府講武所設置を提案した男谷精一郎は直心影流の道場を構える有名な剣客である。」

設定としては問題ないんじゃないでしょうか。

そして、少年ジャンプのメイン読者層である未成年にとっては、時代劇って別にアタリマエではないような気がします。

登場人物が水戸黄門のうっかり八兵衛のように「すごいスピードだ」と口走らないだけよいのでは。

Posted by: リル | July 18, 2007 11:44 AM

作者が描きたい「歳若い夫婦の心の通い合い」に好都合だったのが「侍のいた時代」だっただけで、特に時代劇として描いているようには思いませんでした。
心よりも先に体が通い合ってしまう現代では、この若夫婦の設定はぎこちなくなり、物語の深みとやらが出ないと思います。
時代背景をしっかり描くからよい漫画・作品とは一概に言えないと思いますし、侍という存在の考え方、捉え方もまたそうでしょう。時代考証にこだわらずのびのびと、作者の世界観や描きたいテーマを描いているほうがよい漫画だと個人的には思います。
銀魂の例をあげていらっしゃる方もいますが、フィクションの中にうまく史実を採り入れるセンスこそが時代物を描くにあたって大事なんじゃないかと。
史実にこだわり時代考証は完璧だけど何が描きたいのかわからない漫画より、私はこの作品に好感を持ちますね。そういうのを読みたければ日本の歴史シリーズとか読めばいい。
フィクションというものは作者の思うようにおもしろく描けばいいと思います。

Posted by: よも | July 18, 2007 12:02 AM

うん、悪いのは編集ですね。
作者は若いし、ストーリー考えるのに精一杯でそこまで気が回ってないんだろうから、そこをフォローするのが仕事だと思いますけどね。

ちなみに時代考証なんてどうでもいいという考えは、物語の深みを自ら捨ててしまう考えなんじゃないかな、と思っております。

Posted by: cof | July 17, 2007 09:45 PM

たしかにこれは『知らないでやってる』というのが鼻に
ついてしまう作品ですね。
時代考証をした上で崩すのはアリだし存分に
やればいいと思うのですが、これは『無知』なんだ
ろうなぁと。漫画というのは膨大な資料を抱えながら
やるのが普通なので(というかそれが基本)
この作品……むしろ作者の意識が低いとかよりも
編集担当者や編集長がなぜこれに指摘をしなかった
のか?のほうが不思議でなりませんね。
作者はおそらくまだ若いのでしょうから
レベル不足は仕方ないことだとして、そういうのを
フォローするのが編集部の仕事なのではないかと。

でも、上で『考証なんてどうでもいい』って
言ってるコメントもどうかと思いますし、
この記事のあからさまな作品否定もどうなのかな
と思います。作者の若さから考えれば
どう考えたって悪いのは編集だろうと。

Posted by: komyu | July 17, 2007 07:48 PM

昔、銀魂で
「幕末の時代考証がおかしい。もっと勉強しろ」
とか言ってる人がいまして。
作者はそれに対し、
「その前に幕末に宇宙人はいません、もっと勉強してください」
という返答を返していました。

結局どこまでが「漫画」なのか、その線引きを決めるのは読者であって究極的には嫌なら読むな、ってのが結論かなと思います。

Posted by: れの | July 17, 2007 05:52 PM

切腹した者の出た家を継ぐという設定自体が無茶なので、なんじゃそりゃと思う反面、その時点で「そういう無国籍もの」と理解したのですが。公務がありながら道場を開くという設定も含めて、そりゃすごいなと思う反面、ここまで現代は時代劇から遠く離れていると考えたほうが良いのだろうと。

時代劇なんざ、いまは60過ぎの人間しか見てないですし、その時代劇が「水戸黄門」だったりするわけですから、いまや時代考証は、正しければ賛美するものであり、間違っていて当然と思うべきではないでしょうか。

時代劇はもうすぐ伝統芸能の仲間入りをして細々と生き残るものになるでしょう。皆が要らないと思っているジャンルですから・・・演歌と同じ。


だったら時代劇仕立てにするなというのはありますし、おっしゃることは全く正しいお話ですが、「すでに読者の血肉となってしまってる時代劇のお約束」という発言自体が現代の身体的感覚からズレてしまっているので、この論旨では同意者が増えないのではないかと存じます。


まぁ気になってはいつつも強引に無視した部分なので記事を拝見してすっとした面もあるのですが。一方で、時代考証云々よりも、もっと本質的なところで志の低い作品もありますので、この作品は相応に評価してあげたいなと思いコメントいたしました。

Posted by: happysad | July 17, 2007 05:31 PM

考証を完璧に捨て去ると無限の住人が出来上がりますよ(^^
小学生が読む漫画なんだから。いいじゃない。

Posted by: りりあ | July 17, 2007 03:26 PM

確かにこれはないだろってこともあるけど、ジャンプにはナルトもあるし、こういう突っ込みは「今更何を…」って気もする

Posted by: | July 17, 2007 10:02 AM

フィクションの世界はリアルである必要ななくて
リアリティがあればいいんじゃないんですか?
まあサムライうさぎの世界にリアリティがあるかは
まだまだこれからって感じだろうけど

Posted by: こづかりあん | July 17, 2007 08:25 AM

少年誌の漫画に対して少々突っ込みが細かいなと思いますが
サムライうさぎの人が本当に時代劇好きでこれを描いてるのか
一考する必要がありそうと分かったのは収穫でした。

編集部の意向で描きたくも無いジャンルを描かされている
ケースってのは結構昔からありますからねえ。

Posted by: 111 | July 17, 2007 07:50 AM

読むのがきついなら無理に読まなければいいのに

Posted by: ぽち | July 17, 2007 07:25 AM

>>5
そのコメント欄も一意見なのだから否定するのもどうかと思いますけどね

Posted by: | July 17, 2007 03:28 AM

面白いと思うし割と好きな作品ですが、確かにひっかかるところはちょっとありました。

私は時代物に詳しくはないので、素人の考えですけど、勤め人なのに簡単に道場主になれるのか、とか、じゃあお勤めはやめちゃうの?とか。

全くのパラレル時代劇ならいくらめちゃめちゃでも気にならないんですけど、この作品は武士の生活が物語の基盤にあって、それなりの説明やら描写やらが入るし、物語を動かす部分でもあると思うので…。

勿論ギャグとして流せるものも多いんですけど、どういう世界観なのか、つかみにくい感じはしました。どこまで崩すのか、どういう縛りで描くのか、ちょっと基準が分かりづらいかなあ、と。

Posted by: さえ | July 17, 2007 01:41 AM

これもまた一意見なのだから
コメント欄で皆で否定するのもどうかと思いますけどね

Posted by:   | July 17, 2007 01:28 AM

>お約束
そういうのは全く気にせず読んでました・・・

Posted by: もさ | July 17, 2007 12:58 AM

ガキの頃から時代劇には親しんできた方ですが、
時代劇と歴史物と時代考証とはやっぱ切り離すべきでしょう。
水戸黄門なんて酷いものじゃないですかw
そういう意味では、この漫画も悪くないと思いますよ。
あるところでは歴史の一部を借りて、それ以外は自分の世界を作る。
そういったものではないでしょうか。

・・・と、擁護してしまうあたりがヲタだよな・・・

Posted by: mimi | July 17, 2007 12:54 AM

江戸城に見えないと言っても、この作品で「江戸」でなければならないその重要性は、読んでみれば分かりますが、皆無に近いです。まあ、そういう作品で何を伝えたいのか無視してツッコミ入れても、寒いですね。
大体、そういうツッコミする人、感想サイト回ったりしてますが、初めてですよ。初めてなのにアタリマエかあ‥。

後、>読者の血肉となってしまってる時代劇のお約束
ジャンプのメイン読者層って?

Posted by: フヨウ | July 17, 2007 12:39 AM

私はこの作品を読んでいないのですが、時代劇にかかわらず少年誌の漫画ってパラレルワールドを構築して楽しませている気がします。

時代劇漫画というジャンル、フィクション入り混じる歴史漫画というジャンル、いろいろありますが、フィクションの度合いが強いほど、作者は自由に遊べるわけですよね。それに名作は読みやすい作品からしか生まれないとも限りません。近年は逆につっこみどころの多い作品ほど流行っているようですから。(笑)

Posted by: くもり | July 16, 2007 11:32 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 考証というほどじゃなくても:

» 集英社は「サムライうさぎ」に力を入れている? [Forest Field]
http://books.shueisha.co.jp/CGI/search/syousai_put.cgi?isbn_cd=978-4-08-874389-9&mode=1 コミック発売前から評判の良かった、週刊少年ジャンプで連載中の「サムライうさぎ」。 売れ行きも結構いいので、長い... [Read More]

Tracked on July 17, 2007 09:44 AM

« これは盗作とちゃうんかいっ・だらだら篇 | Main | これは盗作とちゃうんかいっ・無断引用篇 »