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July 17, 2007

これは盗作とちゃうんかいっ・無断引用篇

前回からの続きです)

 「無断引用」という奇妙な表現を、あいかわらずあちこちで見かけます。

 論文を書いたことがあるかたはご存じでしょうが、「引用」は本来無断でするものですし、正当な行為です。

著作権法第三十二条 
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

 ただし、正しい引用には、いくつかの条件があります。とりあえずWikipediaはてなにリンクしておきます。

 「引用の必然性」「主従の関係」「引用部分の区別」「出所の明示」などが挙げられてますね。そして著作権法第二十条にあるように、同一性保持権というのもあります。引用者は変更、切除その他の改変をしちゃいけない。

 「無断引用を禁ず」という言い方はヘンで、目的と方法が正当であれば「無断」に「引用」することを禁じることはできません。ここは、「無断転載を禁ず」という文章のほうが適しているでしょうか。でも、「無断転載」そのものが著作権法違反で犯罪なのですから、あらためて「無断転載禁止」って書くのは、ドロボウしたらあかんよ、という注意書き以上のものではありません。

 この「著作物の引用」が、文章だけじゃなくてマンガの絵にも及ぶかどうかが争われたのが、上杉聰対小林よしのり裁判でした。この結果最高裁により、マンガの絵も著作物として引用が可能であると判断されたのはみなさんご存じのとおり。

 さて、「無断引用」というまちがった言葉がいつごろから使われ出したのかというと、大月隆寛編『田口ランディその「盗作=万引き」の研究』(2002年鹿砦社)に収録されている、栗原裕一郎『「盗作」はいかに報じられてきたか』によりますと、起源はどうも新聞らしい。

 1972年、丹羽文雄のエッセイ『親鸞の再発見』と小説『蓮如』に、他の人物の著作からの無断使用事件が朝日新聞で報じられたとき、「丹羽氏の“無断引用”で論争」と題されたそうです。


(注:栗原裕一郎氏のブログよりトラックバックをいただきまして、修正します。「無断引用」にはさらに古い例があったそうです。すでに1968年の五味康祐の盗用事件報道で使用されていたと。ご教授ありがとうございました。くわしくはこちらをご覧ください↓。2007/7/18記)
おまえにハートブレイク☆オーバードライブ:「無断引用」という面妖な表現はいつ使われだしたか


 で、ここからKS氏の話になるのですが、って、さすがに固有名詞を出さないようにという提案は取り下げてもらったようなので名前を出します、唐沢俊一氏の話になるのですが、『新・UFO入門』でわたしのブログから文章を盗用した事件を報じた「週刊新潮」2007年6月21日号のインタビューで、唐沢氏は以下のように語っています。

「通常は、内容紹介の文が過剰な引用にならないようチェックしていますが、私のミスでその作業を怠った。最後に参考文献や資料などの一覧を付けるのも忘れてしまいました。無断引用したということについては全面的に認めています」

 この段階では、わたしにも唐沢俊一氏が「無断引用」なんて奇妙な言葉を使うとは思えなかったので、これは記事をまとめた記者が勘違いして書いたんだろうと思ってました。

 ところが、「社会派くんがゆく!RETURNS」の「Vol. 66 自分じゃなくても」を読んでおりましたところ、、唐沢俊一氏はこのように発言されていました。

唐沢●そういえばオレもよくブログなんかで「……と、唐沢俊一が言っていた」とか、自分が言ってもいない発言を無断引用されたりしてる(笑)。別にこれは自己弁護しているわけじゃないけど、それを俺は楽しんでいるよ。

 だからー、無断引用なんて言葉はないって言ってるでしょ。これも、もしかしたらテープ起こしの編集者のマチガイかもしれないのですが。

 ところが、さかのぼって「裏モノ日記」2005年8月30日の日記にもこういう記述が。

私も『雑学授業』ではネットでの説を無意識に無断で引用したりしている可能性がある。必ずさらにつっこんで調べて、オリジナルに近いところまで持っていってはいるが、自省しないといけないことだろう。

 ここにも「無断引用」が。

 これらを読むと、唐沢俊一氏は週刊新潮のインタビューで主張されたように、今回の唐沢氏の行為を今でも「無断引用」と思われているのかもしれません。わたしとしては、ここであらためて、今回の事件は「引用」の問題ではない、と主張しておきます。


※次回に続きます。

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Comments

村崎百郎氏が直接に唐沢俊一を非難したようですね。
傍でわいわい言うより余程応えたでしょう。
しばらく、経緯を見守ります。
誠意のない対応がなされた暁には、再び糾弾を開始します。

村崎百郎 大本営発狂 電波妄想戦記
http://data-house.oc.to/users/100/diary/history.html

Posted by: 藤岡真 | July 18, 2007 04:53 PM

幻冬舎って、ここでも盗作本を出しているらしいですね。
ひどいですね。
http://eiji.txt-nifty.com/higaki/

Posted by: てんてけ | July 18, 2007 10:26 AM

私も唐沢氏の「無断引用」発言を気にしていましたが、漫棚さんの記事を読んで安心しました。そうです、「奇妙な表現」です。ウェブのリンクも引用に当りますね。

Posted by: 菜箸 | July 18, 2007 03:58 AM

(コメントしないつもりだったんですが)これは大事なポイントですので、意見をいわせてください。

「引用は、引用元の著者にことわらなくてもかまわない」ということは、大事なことで、漫棚通信さんのほかにもWEBでこの点を強調しているサイトがあります。WEBで作品をつくる者は承知しておくべき点とおもいます。

パクリ者が「無断引用」という言葉をつかうのは、「原著者にことわりなく」使ったという意味のほかに、「引用であることをはっきりことわらずに」使ったという意味をこめてのことです。

たとえ原著者にことわっても、引用であることがわかるように記載しないといけません。たとえ原著者にことわらなくともとも、引用であることがわかるような記載をすれば(引用とことわっておけば)同じ文章をかいてもかまいません。

引用とことわらずに引用すれば、これはもう盗用そのもので、引用と呼んではいけない行為なのですが、盗用といいますと、場合によっては作家生命が終わってしまいますので、命だけはなんとか助からんかという希望をこめて、ずうずうしく「引用」と言う言葉を使っているのだと思います。

無断引用ということばは、「引用とことわらずに引用すること」と解釈し、「盗用」のべつの言い方と考えたらいいのではないでしょうか。政治資金といえば賄賂のことですが、同じような意味で。

「無断引用を禁ず」という言い方は、「自分の作品の一部でもそっくりそのまま使用する場合には。自分の許可を得よ。許可なく使用するのはいかん」といっているわけでして、「無断使用」とか「盗用」といったほうが正確かもしれません。そういう意味です。

しかし「盗用を禁ず」とやってごらんなさい。「何をえらそうに。誰がテメエの文章なんかパクるもんかい。パクられるほどの作品か、自分でよくみてみろ。」とわらわれますから、「無断引用しないで頂戴」のほうが穏当でしょう。日本人は大げさな物言いをきらいます。

「無断借用」ということばがありますが(これは持主に無断でと言う意味なので、ちょっと例としてはよくないかもしれませんが)、「盗む」と同義です。「首が落ちずに皮一枚でついている」だけです。

唐沢木俊一氏や現盗舎が「無断引用」ということばを今後つかってきたら、「無断借用という言葉は盗むと同義で、ただ体裁よく言ったにすぎない。無断引用という言葉も盗用と同義で体裁よくいっているだけと解釈してよろしいか」といってやったらよろしい。

人はその人のいうことで判断せず、することで判断すべきでしょう。絶版にはしていない。著者のホームページに謝罪のことばと、漫棚さんと話し合い中であると記載しておく。本は普通に売る。これがかれらのしていることです。紙代、印刷費を回収することだけを考えている。

山川惣治を「少年ケニヤの原作者」といっている。許せん。山川惣治はテレビドラマ「少年ケニヤ」の原作者ではない。そういう紹介のしかたをしてはいけない。大林監督のアニメ「少年ケニヤ」の原作者でもない。石川球太のマンガ「少年ケニヤ」の原作者でもない。

絵物語の傑作「少年ケニヤ」の作者なのです。そうでしょう。


Posted by: しんご | July 17, 2007 10:25 PM

おっしゃる通りです。
唐沢俊一がやったことが引用でもなんでもないことをこれからわたしのサイトで公開します。
しかし、なんですなあ、万引野郎になんでこんなに気を使わなければならないんでしょうか。
文筆業家としての唐沢俊一が既に滅びたことは、わたしのサイトでも指摘してますが。

Posted by: 藤岡真 | July 17, 2007 08:06 PM

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Tracked on July 18, 2007 03:09 AM

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