オッサンはこういうのが好き
いやー、井浦秀夫『弁護士のくず』(既刊5巻まで、2004年~2007年小学館、各505円+税)はよくできてるなあ。
TVドラマ化されてからもう1年もたってますから世間とはずいぶんずれててもうしわけないのですが、一冊読んだら止まらなくなって残りを書店に買いに行き、イッキ読みしてしまいました。
主人公の弁護士・九頭元人はずいぶんな不良弁護士で、エロ話はするわ女の子のお尻はさわるわ、陰口好きで上司にはゴマスリ。自分の悪評などどこ吹く風。ところが実は、彼はひとの心の中がすべてお見通しの、物語内では神のごとき能力の持ち主なのです。しかも自分は悩むことがまったくなく、すべてのひとをおさまるところに導くスーパーマン。法律を熟知しながらそれに縛られない行動をとるくずは、依頼人の味方をしないことさえあります。
お話は弁護士が主人公=謎を解く=広義のミステリと言えなくもありません。実際に意外な犯人、という作品もありました。しかし、扱われている事件の多くは会社、ご近所や家庭内のトラブルばかり。中でもダントツに多いのが離婚・結婚問題と遺産相続問題。
離婚・結婚問題を扱った作品は十数作ありますが、何と一作をのぞいて、すべてのカップルが元のサヤにおさまりました。遺産相続もほぼ全部、まーるくおさまる。こうなるともうファンタジーですね。読者の願望どおりの結末。
そしてこれがまた、それぞれのお話が良くできてるんだ。あなたの本心は実はこうなのだ、とくずが必ず指摘してくれ、みんな自分に目覚めます。読者はハッピーエンドに向けて物語を支配する主人公についていくだけ。
破綻なく、きちんとおさまるところに向かうこの作品、わたしのようなオッサン読者にとっては実にここちよいのですよ。深刻になりすぎないところも、お気楽に読めてよろしい。
しかも主人公は、遊び人のエロ弁護士→実は、というパターンです。遊び人の金さん→実は町奉行、昼あんどん→実は必殺仕事人、と同じね。超法規的な人情あふれた判決を下す奉行、法で裁けぬ悪を裁く仕事人。くずは彼らと同様に、読者にとってある種の理想像でもあります。自分もあんなに高い能力を持ってて、かつ自由奔放に生きられたら。
キャラクターもストーリーも、オッサン向けマンガとしてほぼ完璧。あともうちょっと絵がエロければなあ。
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