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May 18, 2007

マンガ原作志望者は増えてるのかしら

 えー、あまりオススメしたくない本なんですが、軽く笑ってください、こういうのがありまして。若桜木虔/すぎたとおる『プロの原作者になる マンガ原作のつくり方』(2007年雷鳥社、1500円+税、amazonbk1)。

 ご存じのかたはご存じ、あの多作で有名な若桜木虔(わかさき・けん)先生です。わたしの世代なら宇宙戦艦ヤマトのノヴェライズ作家、でわかるかな。このかた作家養成講座のカリスマ、だそうでして、この手の本を書いてる書いてる。『作家養成講座』『作家デビュー完全必勝講座』『プロ作家養成塾』『ミステリーはこう書く!』『稼ぐ作家になるための裏技Q&A174』『作家養成塾 プロの小説家になる』『プロ作家になるための四十カ条』『マンガを読んで小説家になろう!』『作家デビューしたい! 新人賞をねらえる小説プロット実戦講座』などなど。

 本の評判は、そうだなあ、『プロ作家養成塾』は新書でケッコウ売れたようでアマゾンのカスタマーレビューも多いので、アマゾンにリンクしておきます。やくにたった、というひともおり、ぷんぷん怒ってる読者もおり。

 さて、小説じゃなくて、マンガ原作について。『プロの原作者になる マンガ原作のつくり方』はどういう本かといいますと、安い本でねー。作家兼マンガ原作者の若桜木虔とすぎたとおるのおふたりと、マンガ原作者志望(というわけでもなさそうで、小説家や映像方面の脚本家でもいいみたい)の三人が集まって、自分たちの作品を前にあーだこーだ言ってるのを本におこした、というものであります。同じ出版社の『作家デビューしたい! 新人賞をねらえる小説プロット実戦講座』とまるきり同じつくりで、ああ安い。

 高度な内容を期待してはいけません。そういうかたは、クーンツや大塚英志、さらには久美沙織の小説入門書を読めばよろしい。だいたいこの本、物語の作り方などというものはまったく無視してます。ストーリーとプロットの違いについても教えてくれません。というか、そんなものはどうでもいいっ。大切なのはまず、「編集者が神様」であるということ。

 プロ原作者への道は、読者に向けて書くことではなく、編集者に気に入られることであります。おお、そうかっ。これはこれでごもっとも。

 そのためにはどうしたらいいか。これが座談を本にしたものですから、ぐだぐだのつくりでぜんぜん整理されてませんが、「回想を入れてはいけない」「擬音や…も書いてはいけない」というのも、それはマンガ家の裁量分野だから、というのはそれなりの見識であります。

 ただし、このあたりマンガ原作のバリエーションが多すぎて一定してません。絵のアングル、アップやロングを指定する人もいるし、小説形式で書いていた梶原一騎でも、宙に浮かぶ「炎の活字」を指定していたこともあるのですね(わたしがかつて書いたコチラのページ「梶原一騎の原作作法」から三回分を読んでいただけるとウレシイ)。

 読者を無視して、ただただ編集に向けた意識はなー。

編集さんは多忙なので、時間的にネット検索なんかは、やっていられない。だから、手持ち資金のない、デビューした直後の貧乏プロがネット検索だけで知識を掻き集めて原作を書いても、まずバレません。

私は、何かの専門家でなければ原作者になれない、と思ってます。ただ、それは“真の専門家”でなくて構わない。“似非専門家”で構わない。要は編集さんと漫画家さんが「この人は専門家だ!」と信じ込んでくれればOKなわけで、まあ、詐欺師みたいなもんですね(笑)。

 「新人漫画原作者が超えられない壁」の章なんか、実際のシナリオが35ページ、それに対して座談が7ページ。どういうつくりだよー。さらにこの章でもっとも許せないのが、ここで例に出されてるマンガ原作が、むちゃくちゃなところ。わたしの読んだミステリ中、人生で最悪のものでありました。

 どこがダメなのかといいますと、どうも前後編になってるようなのですが、前編ラストで救出されたはずの人質が、後編でもやっぱり人質のままで、しかも探偵に銃を向けている。前編で探偵に捕まったはずの共犯者がいつのまにやら殺されてて、後編はその犯人捜しになっている。読んでると自分の頭が悪くなったのかと思ってしまうようなシナリオで、実際に完成したマンガでは別の形になってるのじゃないかしら。でもよくもまあこんなものを活字化できるものだなあと。感心というか何というか。

 カラスヤサトシのマンガに出てくるような先輩に、飲み屋でうだうだと自慢と説教をされてる感じ、でわかっていただけるでしょうか。ま、珍本のたぐいですが、好事家のかたはどうぞ。

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Comments

S編集長は、もう退職されているはずです。
この体験は、結局、学校でマンガのストーリー構成を
教える際の基本とも深く関係していて、役に立っている
んですよ。

やはり、何でも体験してみるということは、好奇心の拡大に
つながることで、若い気持ちでいられる源になっています。

「通俗」の奥深さ。Sさんから教わったような気がします。

Posted by: 長谷邦夫 | May 20, 2007 04:13 PM

6年前といえばつい最近じゃないですか。長谷先生が多方面にわたり精力的にいろいろ活動されてるのには驚きます。林律雄氏の本は、近所の図書館にあるみたいなので、今から行って借りてきますね。

Posted by: 漫棚通信 | May 20, 2007 02:22 PM

『マンガ原作者への道』(林律雄・スパイク1997年)という
本がありますね。これは、かなりまとも。そして分かりやすいです。

原作者、一度経験してみようと、ペンネームで「投稿」
してみました。6年以上も前のことです。
栃木に引越し、マンガもヒマだったんで。ただ、既知の
出版社では名前がバレてしまうので、芳文社を選びました。
一度も執筆したことない社です。

そして、ぼくの一番苦手な中年向け風俗劇画的なシナリオ書きに
挑戦してみました。
1作目投稿で即採用~となり、作画掲載されたんですが、
そのあとが茨の道でしたね。

編集長から電話があり「長谷さんでしょう」と言われた。ショック!
(どうして分かったのか、いまだに謎です)
で、以降、この長が担当!「この3行直して~」なんて電話してくる。
2年間で採用率50%程度ですね。あとはボツ!

どんな作家さんと組たいか?とも聴かれました。
これ、「週刊漫画TIMES」別冊での仕事なんで、
作家さんも知らないし、組たい人も居ませんしね。

本誌の4回2色連載では、岐阜在住の無名に近い方と
組んでの仕事になりました。
そろそろ長いものを~という編集長からの意向で
『金瓶梅』をやってくれと言われ、
けっこう面白く数回書けた。ちょっとやる気になってきた。
ところが、「コンビニのエロ規制がうるさく中止したい」
と言われてしまった。
そのうえノーギャラです。
この辺が退け時かなと、辞めたんですが、いい経験でしたね。

一人のマンガ家さんから、自分が手がけてきた作品で
一番面白かった!と言われたことが、ちょっと嬉しかった。
合計12~3作やったことになりますか。

24ページの劇画的作品のためには
ペラ36枚で書け~みたいな職人性も
要求されました。
ぼくが書くと、45~6枚になって
しまいますね。

その他の原作書きは、ぼくの企画で、直しボツなし仕事です。
(徳間書店「カーマスートラ」とかスウェデンボルグ物)

Posted by: 長谷邦夫 | May 19, 2007 02:39 PM

いえいえ、それなりに実用的な提言もいろいろありますので楽しんでお読みください。それにあとあと話のネタにできるかも。

Posted by: 漫棚通信 | May 19, 2007 08:43 AM

え。そんな本だったんですか! うっかり買っちゃったよ……。

Posted by: 伊藤 剛 | May 19, 2007 01:51 AM

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